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ニアリーイコール・ミー  作者: 雛形ひなた
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朝のトラブル

小学生のお駄賃レベルのそれをポケットに突っ込みながら階段を登り、先ほどまで寝ていた自室へと戻る。

未来からきたネコ型ロボットが押し入れの中で眠るのと同じように、僕のヒト型ロボットはクローゼットで眠っているのだ。


「おはよう。今日もよろしくな」

「おはよう。今日もよろしく頼まれたよ」

直立していたニセ博士ひろしの胸骨のスイッチを押すと、彼はこるはずのない肩を回しながらクローゼットから出てきた。

ニセ博士には食べる機能もついているが、はっきり言ってそれは食品ロス以外の何物でもないので、朝はパンでも、伊藤であさこのフレッシュでもない。して、何も食べずにそのまま学校へ行ってもらうわけだ。


「さてと……」

 ニセ博士が玄関を出たところで、指紋認証を使ってパソコンを立ち上げる。僕は元来よりめっぽう朝に弱く、欲をいえばずっと寝ていたい。だけど念には念を入れなければなるまい。万が一にも誤作動を起こして、人や物に危害でも加えようものなら大変だからね。だからこうして、リアルタイムにニセ博士の動向を確認しているのだ。

とはいっても、僕の造ったアンドロイドに限って誤作動など起こるはずもないがな。まさにこの瞬間にだって、慣れた手つきで改札を通り、疲れない足で立って吊り革を掴んで、サラリーマンの手首も掴んで……


「は? 何してんだ」

ゲーミングチェアにどっぷりとあずけた背中が、バネでも仕組まれていたかのように画面へと跳ねた。ニセ博士が男の手首を掴んでいる。周りもニセ博士に注目しているし、掴まれた男も何か喋っている。僕はすかさず音声をオンにした。


『触ってないって! たまたま手が当たっただけだから!』

『タマタマというかモミモミだったけどなぁ?』

どうやら痴漢を止めたらしいが、誰が触られたというのだろうか。

『そんなガッツリ揉むわけないでしょ!』

『真相は桜井(さくらい)さんのみぞ知る』

「え、桜井さんって……」

思わず声が出る。僕の知る桜井さん、それはひとりしかいない。ニセ博士が手で示した先には、やはり彼女がいた。

『……確かに、この人に触られた』

——同じクラスの女子生徒・桜井(さくらい)風香(ふうか)。運動能力に関しては未知数だが、学力は学年でも上位だ。もっとも、頭脳に関しては僕のほうが上手(うわて)だが。

温和で堅実という印象。しかし、そんな内面を誰もが度外視してしまうほど、彼女の容姿は優れている。かくいう僕も、まんまと彼女の顔に目がいってしまう。あくまでも造形に興味があるだけだ。

 そんな彼女の、睨むような表情は初めて見た。どうやら臀部(でんぶ)を触られたというのは本当らしく、ニセ博士の斜め後ろに隠れるようにしてサラリーマンを警戒している。

ほどなくして最寄りの駅に着き、一行は降りていった。一連の流れを目撃した周囲の乗客がニセ博士側についたため、サラリーマンは堪忍したようだった。


自分で言うのも何だが、素晴らしいアンドロイドを造ったものだと思う。僕と同じ思考回路のニセ博士が人助けをしたことで、まるで自分のことのように胸を張れるというものだ。……自分のことというのは、半分は合っているが。


『そういえば今日からだよね。ダリカの新作って』

『ああ。俺も欲しいけど、帰る頃には売り切れてるだろうな』

「あっ!」

 僕としたことがすっかり忘れていた。駅にいた二人組がたまたま話題にしていたから思い出すことができたが、待望の「ダリオカートワールド」の発売日はまさしく今日ではないか! 新天堂しんてんどうヘビーユーザーにあるまじき失態だ。

しかし平日のこの時間なら、そうそう売り切れることもないだろう。そう思った僕は、さっそく家を出ることにした。……ニセ博士が帰ってきたら、少しは触らせてやることにしよう。


◉ ◎ ◉ ◎


 担任に朝の出来事を報告したボクたちは、無罪放免ということで職員室をあとにした。桜井さんはというと、黙ってボクの背後をついてきている。

しばらくすると彼女は口を開いた。

「神童くん。改めて、ありがとうね」

「ああ、こちらこそありがとう」

「え?」

「事情聴取を受けたのは初めてだったからね。珍しい体験ができた。授業も受けなくて済んだし」

「……そっか」


それきり彼女はまた黙り込んだ。教室に着くまでずっと無言だった。

 ドアを開けると、一番に女子たちが寄ってきた。無論、桜井さんにだ。

「風香ちゃん、何があったの?」

「私たち心配してたんだよ」

「うん。ちょっと電車で、いろいろあって」

「また? こないだもあたしと帰ってたときにさ、目を離した隙に変な男に絡まれてたじゃん」


正直、出入口の前で固まって話をされたら邪魔で仕方ない。ボクは机と女子たちの間を縫うように自分の席へ向かおうとした。

「そうだね。でも今日は大丈夫だった。神童くんが助けてくれたから」

「神童くんが?」

桜井さんの一言で、彼女らの視線はいっせいに集まった。思わずボクは立ち止まる。

「ねぇ神童くん、風香ちゃんを助けたってどういうこと?」

「……痴漢がいたから、捕まえて駅員に引き渡した」

「マジで!? 意外!」

(意外?)

「神童くんって人助けとかするんだ」

「はは……」

ずいぶんな物言いをされているな。博士のやつ、学校での評判は芳しくなかったようだ。

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