第5話 魔女と王女の交錯
夜明け前の森に、紫と金の光が交錯する。ルシアの魔力が渦巻き、周囲の木々を揺らし、月明かりをも呑み込む勢いだ。
「……まだ、私を止められるものはいない!」
ルシアの叫びが森を裂く。彼女の手から放たれる光の刃は、王女アリシアの魔導具を弾き飛ばす。
アリシアは冷静さを崩さず、笑みを浮かべる。
「ふふ、いいわ……その力、もっと私に見せて。あなたの力は、私の計算を超えそうね」
王女の言葉には挑発と策略が混ざり、戦いの空気をさらに張り詰めさせる。
エリオットは剣を構え、ルシアの背後で防御を固める。彼の瞳にも緊張と期待が混じっていた。
「気を抜くな、ルシア! 相手はただの王女じゃない!」
ルシアは深呼吸し、魔力を心の奥から引き出す。森の空気が振動し、影と光が入り混じる。初めて、彼女は自分の力を完全に制御する感覚をつかみかけていた。
「自由に生きるための力……私は使う!」
紫の渦が爆発するように広がり、アリシアの魔導具を包み込む。王女は態勢を崩し、光の渦の中で立ちすくむ。
「……なるほど、こういう力か」
アリシアは驚きを隠せず、微かに距離を取る。だが、それも計算のうちであり、彼女は冷静に次の手を準備していた。
「面白い……これなら、あなたを私の策に嵌めるのも簡単かもね」
ルシアはそれに応えず、ただ前だけを見据える。
「私は、誰のためにも戦わない。私のためだけに生きる!」
その瞬間、森全体が紫の光に染まり、風が樹々を撫でるように吹き抜けた。エリオットは剣を握りしめ、ルシアの力を守るために身を挺する。
戦いは力のぶつかり合いではなく、意思の衝突となった。自由を望む少女と、策略を巡らす王女の対決。
光が消え、森が静寂に包まれる。アリシアは一歩下がり、微笑みを崩さない。
「ふふ……やっぱり面白いわ、あなた……」
その言葉の奥には、さらなる策略が隠されている。ルシアはその策略を察知できない。
ルシアは深く息をつき、紫の光を鎮める。力を使い切ったわけではない。だが、彼女は初めて、自分の意思で力を制御できたことを確かに感じていた。
「……自由だ、私は……自由に生きる……」
エリオットは肩で息をつき、ルシアを見つめる。
「……君なら、どこへでも行ける。誰にも縛られずに」
その言葉にルシアは小さく頷いた。まだ戦いは続く。世界の運命を左右する力は、少女の手にある。だが、少女は決して英雄でも救世主でもない。ただ、自分のために生きる魔女――黄昏に輝く魔女として、歩み始めたのだった。
そして、遠くでアリシアは微笑む。
「ふふ……次こそ、あなたの力を完全に私のものにするわ」
王女の策略は、まだ始まったばかりだった――。
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