第3話 魔女の力と王女の策略
森の闇が深まる中、ルシアは魔力を渦巻かせ、周囲の空気を震わせていた。紫の光が枝葉の間を走り、木々が微かに軋む。エリオットは剣を構え、彼女の背後で警戒する。
「……お願いだから、暴れすぎないで」
エリオットの声に、ルシアはわずかに肩を揺らした。自分の力が恐ろしく、制御できない。だが、自由に生きたいという意思だけは、揺るがなかった。
「私を止められるものなんて、誰もいない」
その言葉とともに、森の奥からアリシアが姿を現す。王女は微笑みながらも、手元の魔導具を操作している。光が絡み合い、森の空気が張り詰める。
「覚えておきなさい、魔王の器よ。あなたの力は、私の国の未来を左右する。だから奪わせてもらうわ」
アリシアが手を掲げると、数本の光の鞭がルシアに向かって飛んできた。ルシアは瞬時に魔力を展開し、紫の光の盾で弾き返す。衝撃で枝が折れ、土が舞い上がる。
「……やっぱり、戦わざるを得ないのね」
ルシアの目に、恐怖ではなく決意が宿る。
「俺が守る!」
エリオットが前に飛び出し、剣で魔導具の攻撃を弾き返す。王女の鞭が剣に絡み、鋼と光がぶつかり合う。
ルシアは深呼吸し、魔力を集中させる。森の木々の影から影へと光の刃が走り、まるで森全体が彼女の意思で動くかのようだ。アリシアの驚きが微かに漏れた。
「面白い……やるじゃない」
王女の声には、興奮と計算が入り混じる。彼女は戦いながらも、笑みを崩さない。戦いは単なる力比べではない。策略と駆け引きの応酬でもあった。
光の刃がアリシアの魔導具を弾き、彼女は一歩下がる。だが、次の瞬間、王女は姿を消した。煙のように消えたその場所に、爆発的な魔法の衝撃が森を揺らす。
「くっ……!」
エリオットが防御に回るが、ルシアはその衝撃を吸収するように、力を制御して衝撃を跳ね返した。目に見えない力の波が周囲を覆い、森の空気が震える。
戦いの中で、ルシアは気づいた。王女は単に戦おうとしているのではなく、彼女を誘導しようとしている。
「私の力を、自由に使わせるため……?」
その考えが頭をかすめるが、ルシアの答えは一つ。
「……関係ない!」
魔力が渦を巻き、光がさらに強くなる。周囲の木々が風に舞うように揺れ、魔力の渦が王女を包む。アリシアは笑いながらも、足元を崩され、態勢を崩す。
「ふふ……いいわ、これは楽しみになりそうね」
王女の笑みの裏には、まだ計算が隠されている。戦いは一時的に収まったが、森の奥には新たな策と危険が待ち受けている。
「私を止めるものは誰もいない――!」
ルシアの叫びが森を震わせる。彼女の力と意思は、まだ誰にも操られることはない。だが、その自由は、同時に世界の運命を揺るがすことになる――。
紫の光の中、少女は強く決意する。
「私は、私のために生きる――誰のためでもない!」