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何を言ったの?

目覚めてみれば、やっぱり白いカーテンが視界にちらつていた。

今日もまた、自分を思い出せずに終わるのかと思うと、起きる気力がなくなりそう。

いつになったら?

自問自答をしてみても答えが出るはずもなく。


「やっほ~カガちゃん。来たわ~」

「おはようございます。ってこれは?」


指月さんの陽気な声で現実に引きもどされる。

渡されたのは観光雑誌。かなり分厚い。

どういうつもりなのか思いつかなかった。


「…。景色で何かを思い出せるかもしれないかなって思ったのよ」

「ありがとうございます。」


指月さんは凄い。

だって、こんな私にこんなにも優しくできるのだから。

もし、逆の立場だったら出来ない気がする。


「……。ね、ねえ早速見てみたらどう?」

「あ、はい」


気まずい空気の中、雑誌を開いてみた。

そこには、たくさんの色彩に彩取られた写真達が掲載されていた。

同じ日本なのかと疑うくらいに色彩に溢れている。


「あ、ここ」


その中に懐かしい様な感覚を覚えた。

いくつもの朱塗りの鳥居から木漏れ日が洩れている写真。

ただ、違和感もあった。何かは分からないけれど。


「ん?この写真は…伏見稲荷大社ね。どうしたの?」

「見覚えがあるという訳じゃないんですけれど、何か懐かしい気がしまして」

「そっかぁ。でも一歩前進ね。」


少し嬉しそうな表情をする紫月さんにこころなしか、私も嬉しく思った。


「そうね…少し趣旨を変えないかしら」

「趣旨?」

「もし、観光で行けるならどこに行くって話よ」






「302号室はここであっているかな?」


身なりの小綺麗な中年ぐらいの男性が病室に入ってきた。

立派なひげを蓄えている。なんというか、例えるならー

それは置いといて。

一瞬、他の患者さんのお見舞いに来た人なのかと、思った。

だって、今この病室を使っているのは私だけ。

でも、確かに、”302号室”と言った。


「あ~!イオリ!ちょうどいい所にきたわね。」


沈黙―数秒だけれどーを真っ先に破ったのは紫月さんだった。

随分と親しい仲らしい。

滝渕さんがこれを知ったら、嫉妬しそう。


「知り合いですか?」

「ん?榊田の探偵事務所の一階で喫茶店やっている人よ」


まずは、あの人が探偵事務所を持てていることに驚いた。

どう見ても、少年にしか見えなったのに。


「ほら。名刺。」

「ああ、そうだね。渡しておかないと…」


喫茶店 逢魔灯

店主 己織


店員さんか何かなのかなぁと思っていたけれど。

まさかの店・長。


「おうま…?」

「おうまがあん。そう読むんだ。」


読み方に困っていたら己織さんが横から助け船を出してくれた。

見た目の威圧感の割には優しい雰囲気が漂っている。


「それでなんだけど…この子の…」

「この子が例の。ふむふむ。」


紫月さんと己織の間で意味ありげな会話がなされた。

例のって?


「あの…「これは…どうなっている?」」


聞こうとした矢先にまた別の声がかかる。

廊下を見れば、そこには榊田先生がいた。やや困惑気味な顔で。

鈴木さんに車椅子を押してもらっている状態で。


◇◇


その日の夜。


「よく平気でいられるな」


カーテン越しにそんな質問が飛んできた。

そうは言われましても。

自分の拠り所の無さに時々不安になるけれど。

でも、それ以上に己織さんや紫月さん達が優しい。

もう、むしろ安心感の様なものまで感じ始めている。


「これでもか?」

「へ?」


声が近くにに聞こえた様な気がして、出どころを探したら。

榊田先生が浮いていた。それも半透明で。

彼が水を操れるのは事件の時に見ていたから知っていたけれど。


「そんなこともできたんだ」

「フツーは怖がるとこだろだろ、そこは。俺が悪意を持っていたらどうする?」


呆れたような声で、それも丁寧に身振り付きで言われた。

その様子にどうしても悪意を感じられない。


「それが本当なら、言わないですよね?」

「!……。」


彼の瞳がすっと細くなったかと思うと元に戻った。

悪意というのはむしろー


「……。……め」

「あの、今何て言いました?よく聞き取れなかったのですけど」


よく聞きとれなくて、返事は返ってこなかった。


黒兎が言ったのは「お人好しめ」

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