お呪い
山ノ神 第六話。 終幕。
終わりは始まり。
物語は今、始まったー
―キュー、キュー!
誰かが心配そうに呼んでいる声に赫の意識は急浮上した。
「ん?」
目の前には薄い緑の物。
否、床。つまり、畳である。
「ここは?」
頭がざわざわして思考がまとまらない。
と、感じるお腹の上に感じる重い物
見れば兎がいた。
真っ白な毛にピンクの目―否、片方は新緑のような目。
初めて会った気がしない。
「うさ、ぎ?」
―キュー!キュー!
兎は障子の下をカリカリと掻いている。
開けてほしいのだろうか。
「開けて欲しいの?」
―キュー!
扉に手をかける
「開かないよーって⁉」
振り返ると、兎は消えていた。
―You can't stay here!
何処からか聞こえた声。
もう一回引っ張ってみる。
‥‥ゴトゴトなるだけで開かない。
「誰そ其処におるんかぇ?」
「っつ⁉ここを開けて下さい!」
「妾に要求するとはのぅ。ほぅ?[[rb:彼奴 > あやつ]]の?
そうじゃのうー其処を離れるが良い」
「離れましーたっ⁉」
目の前の障子に細い糸が巻き付いた。
かと、思えばその線の通りに障子が切られた。
目の前には艶やかな着物を来た女性。
片手には短くて細い筒が握られており、紫煙があがっている。
雲のように白い髪は紫に変化し、その瞳は赤く、妖艶に輝いていた。
「妾はユウギリじゃ。其方の名は?」
「赫です……」
「借名か、良い選択じゃ。彼奴は?」
「彼奴?先生ならー」
祓いをしに、と言おうとして。
思い出した、自分がここにいる理由。
急がなければ、手遅れになる。
「あの人め!覚えていなさいよッ!」
赫は駆け出した。
成すことを成す、為に。
◇
「ミートパイやったけぇ?」
夕霧さんはなんでもないことのように言った。
何でミートパイ?
冗談きついです。
目の前には朱に染まった壁に床。
そして、植物の触手を操る怪物。
うぇ、吐きそう…
「「夕霧っ⁉」」
あ、サカキバラがこっちに気づいた。
「何しに来た!」
「忘れ物じゃ」
夕霧さんが私を指した気配がした。
けど、目の前の惨状に目を離せない。
「そやな‥‥これでどや。」
あ、怪物が白い糸で拘束された。
怪物が暴れ白いフードが頭からズレ落ちた。
露わになるその素顔。
え、なんで?
ドウシテ?
「か、夏鈴なのか⁉」
君がそこにいるの?
2、
喪失で狂った男は、
怨霊に吞まれた少女に近づき、
その毒牙に飲まれたー
3、
―ヤッタ!ヤッタ!
―タリナイ。ナンデ?
怪物がこちらを見た。
近づいてくる。
―アア、ソウダ。マダ、ココニモー
―‥‥て!
「おい!しっかりしろ!」
「はっ!?」
肩叩かれ我に還る。
「急げ、逃げるぞ!」
―マテ
―…めて!
何か聞こえる
この声はー
「彼女の声が聞こえる」
「は?」
―コワシテ、タベル
―やめて!もう、壊さないで!
今度ははっきり聞こえた彼女の声。
「止めてって」
「何を言っている?彼女はもうー」
「違う!聞こえるのは事実。無視できない」
本当のことなのに。
あんな、悲痛な声が聴こえないなんて。
「そっちに行くな!お前もーな!?」
「どうやら、ほんまらしいなぁ?」
「なにを言ってーチッ!そういうことかよっ⁉
赫、白津!儀式の間に案内しろ!」
「しばらくはこの拘束でもつじゃろう。終わり次第、妾は逃げさせてもらう」
「ああ、了解した」
拘束の糸がより太く白く亡霊に巻き付いていく。
◇
赫達は暗い地下道の中を走っていた。
「本当にこの辺りなんだな!?」
「うん!壁の奥に⁉」
嫌でも分かる禍々しい程の雰囲気。
「これでっ、どうだっ!」
サカキバラは手で何かの仕草をする。
ーギィイイ
きしみながら石壁が回転する。
「でも、どうやって?」
「コイツとお前の護符を使って浄化する」
「まもりー」
「今は時間がない。俺に合わせて発音しろ」
彼が紙を渡して来た。
それはー
4、
ーーーーーーーーー
掛けまくも 畏き 祓戸の 大神よ
聞こし召せと 申すは 遠つより 此の池に
洩れ出づる 穢れの息吹にぞ
生贄の 御霊らは 怨霊と
成りたまひ 荒びける
祓へたまひ 清めたまひ
荒ぶる念ひ 鎮めたまひ
常若の 清き土へ
還したまへ 還したまへ
ここにまた賽の目の
大神を 喚び奉り
運命の目 巡り巡れども
吉きを招き 道を照らせ
かのみたま 輪廻の果てに
再 びの 生まれ出でし
暁には 清き縁
福を授け 安らぎと
喜びに 満ち溢れむ
ここにまた 八百万の
神々よ 聞こし召し
恐み 恐みも 白すなりー
5、
―――――――――
神様が存在するのなら、乞い願います。
哀しいこの人達に救済を下さい。
運命は変えられないのかもしれない。
けれど、
どうか、
せめて、
来世ではこの人達に祝福がありますようにー
そんな祈りを込めた。
6、
左腕から眩い光が放たれた。
目を開けておくには困難なほどの光。
「「っつ⁉」」
思わず、目を瞑る。
一体、どれくらいの時間が経ったのか。
五分?それとも一分?
優しい包み込むような花の香りが薫った。
―ありがとう
声が聞こえ、手に何かが触れる。
「⁉」
ゆっくりと目を開くと、花畑があった。
どこまでも、続く花畑。
「ここは?」
ー彼岸と此岸の狭間。あの世とこの世の境目。
「終わった、の?」
―ええ、浄化されたわ。あなたの想いのお陰で。
「夏鈴…ならここから出ようよ」
―いいえ、無理なの。私は行かなければならないから。
「そんな…。」
―自分を責めないで。
「でもー」
―私の肉体は既にー
「だからってー」
―もう、行かなければならないみたい。あなたが、こちら側に早く来ない事を願っているわ。
夏鈴の姿が遠く離れていくー
◇
「はっ⁉」
「目が覚めたか‥‥話なくていい。」
どこか投げやりにサカキバラが話しかけてきた。
―ガラ、ガラガラ
「じきに此処は崩れる。急ぐぞ」
「は、はい。あ、あれ?」
「腰が抜けたか‥‥無理もないな。白津。」
「ウマでええカ!」
「ああ!」
白津の姿が変わっていく。
猫ぐらいの大きさから大型犬ぐらいへ。
最終的には馬ぐらいの大きさに。真っ白な葦毛。
もう、疲れた。このぐらいでは驚かない。
「乗馬の経験は?」
「ある、わけ、無い、じゃない」
「先に乗れ、支えてやる」
彼の補助で白津の背に乗る。
こんな状況じゃなければ
「急げ、できるな!」
「おうヨ!」
さぞや素敵な光景なのなのかなと。
背中にほのかに感じる暖かみに
心地よく伝わる振動に。
「おい、寝るな!しっかりー」
ああ、彼の声が遠くなっていく。
7、
ー『ある、わけ、ない、じゃない』
そう言う彼女の声に確かに疲れが滲んでいるとは、思った。
思ったが。
徐々にこちらに傾いてくる体重。
「おい、寝るな‼しっかりしろ!」
掛けた言葉は一足遅く。
―すーす…
「寝やがった」
普通、こんな状況で寝れる?
まだ知り合って間もない男に体重を預けて?
しかも、印象最悪であろう男に
「速度あげるゾ!」
落ちないように身体を密着させる。
ああ、意外にも柔らかー駄目だ!考えるな!
ほら、鳥居が見える。
「このまま駆け抜けル!掴まれ黒兎!」
「つ⁉」
落ちないようにするにはさらに密着をしなければならない。
もう、どうにでもなれ!
◇
「黒兎!」
白津の声が聞こえる。
電話を掛けなくては。アイツに。
「はい、こちら紫月」
「俺だ。女を一人保護した。名前は赫。ドクターヘリを頼む。」
「え、黒兎⁉アンタ、どこで何してー」
「○○県××山の神社にー」
俺の意識はそこで途絶えたー
8、
とあるエージェント達の会話
「結界が一つ崩れた」
「それは、確かに?」
「直接確認したが?」
「では、あのお方の復活にー」
「それは、無理そうだ」
「なぜ?」
「結界は壊れたが、山崩れで封鎖された」
「それでも、あなたなら行けるでしょ?風穴を確認するまで帰ってきてはいけないわ」
「了解しました」
「そう、それでいいのよ」
電話が切れる。
「ッチ!なんでこの私がッ!」
ド・ブラックな組織に所属する男は目元に大きな隈が出来ている事に気づかない。
男は悪態を吐きながら山崩れが起きた山に消えたー
祝詞を入れたのは『雀の戸締り』のオマージュ!神秘的な感じを出したかったから。何気にルビ振りで疲れた。
既に6つ程、伏線を張っております。ネタバレ・考察大歓迎です!
展開的には第二幕から本編と言うべきかなと思っているところです。