雷翔
第六話。
黒兎の能力について
突然だが俺は視ることが出来る
霊力や妖力に色が付いている様に視えるのだ。
五行を基本として
木属性は緑色
火属性は赤色
土属性は茶色
金属性は白色
水属性は水色
といった具合に。
この世の万物は必ずどれかの色に染まっていた。霊、妖すらも。
だが、ただ一つの例外がある。それは意思なき者・亡霊の集合体(怨霊)に成り果てた時だ。
様々な色を混ぜ合わせた時にできる濁った黒に染まっている。
永生きて、それは絶対だった
だから、有り得ないのだ。
“透明”などというものはー
1,
「あのぅ~どこにー」
「この結界の管理者のところだが?」
目の前の女ーアカは遠慮がちに話しかけてきた。
絡まれるのは面倒なので間髪入れずに返す。
おそらく“アカ”とは借名であろう。
が、しかし、[[rb:それ > 借名]]が彼女を消滅から引き留めている一つなのであろう。
「それって、ライー」
「雷翔のことだ」
古き友、雷翔の愛称ことをなぜかコイツは知っていた。
聞くところによればカリンという少女から聞いたらしい。
恐らくはー夏鈴。
同姓同名なだけで、別人の可能性も捨てきれない。
「先生はどうしてここに?」
成程、それを聞くか。
確かに“助手”とい立場で動いてもらう上で知っていないのはおかしい、か。
「この山の近隣の村で行方不明者が増えてな。警察関係者からの依頼だ。」
「行方不明が、“増えた”?」
そこに勘付くか、意外に鋭い。
「この地域は昔から定期的に行方不明者が出ていた。10年に一人といった具合に、な。
だが、いつからか5年に一回と、増えた」
「その行方不明者ってー」
「ああ。共通点がある。10代~20代前半の女性。黒髪という点が」
そういえばコイツの髪は明るい茶髪だ。
目は銀というべきか薄い灰色。珍しい。
「そんな……警察はー」
「無理、だな。心霊捜査は信用されていない」
まあ、“例外”はいるが。
―あいつは、どうしているのやら
脳裏に青髪の女刑事が浮かぶ。
「……!あのっ!」
「?」
何かを決めたかのようにコイツはこちらを見た。
刹那、一陣の強風が駆け抜け、俺は思わず目を瞑った。
「っ!?おい!」
目を開けた瞬間、アカはいなくなっていた。
辺りを見渡しても影すら見当たらない。
目を閉じて開けるその一瞬で。
人間業ではないーむしろ神隠し。
否、神ではない。神といよりもむしろー
その場に残されたのは黒く、暗く、濁った[[rb:妖気 > オーラ]]
「御当主様がお待ちです」
「っチ。ああ行く」
いつの間にか現れた妖狼。
[妖力の色は白ー金属性か。
かなり強い妖気を纏っている。
ここで無視していては直ぐアイツに伝わるな。
『聞こえているか、白津』
『おうヨ!』
また、盗み食いをしているであろう俺の式神。
管狐に念話を飛ばす。
『こいつを追え』
アカの姿を念話で飛ばす。
『りょーっかイ』
念の為、に。
恐らく無用の心配になるが。
それほどまでに、彼女の持つ護符は強かった。
あり得ないほどに高度な術式。
俺ですら、知らない術式。
黒く、暗く、深海のような濃さで染まっていた。
黒く染まりすぎて、属性は判別出来なかった。
ここまでくると濁っていてもおかしくない。
だと、するとおれより高位のー
2,
「よお、黒」
「久しぶりだなライ」
妖狼に案内された先は屋敷の最奥。
雷翔は焼酎片手に外を眺めていた。
[[rb:妖気 > オーラ]]は白。
「いい酒が手に入った。お前も飲むか?」
「もらおう」
「変わらないな」
「お前もな」
「呪い…だったか。黒が成長できないのは」
「ああ。そうだな。おかげで白昼堂々酒が飲めない」
何故開口一番そんな話をする。
「死者をよみがえらせることができる、としたらどうする?」
「有得ないな、それは。」
もしあったとしてもそれはー
「本人ではない。ただの屍人である、と言いたげだな」
「なぜそんな話をする?」
「いや、単純な疑問だ。とある魂を別の器に移し変えたらどうなるのか、と思ってな」
「それなら有得かもしれない。ただー」
「なんだ。」
少しの間なら保つことが出来るかもしれない。
が、必ず拒否反応が出る
肉体に宿るものと魂に宿るものは必ず組み合う様にできているからだ。
そうーパズルの様に
「しっぺ返しを喰らう、ということか」
「そういう事だ。実践するなよ?」
「まさか。するわけないだろう?」
そう言って苦笑するライ。
しかし、目の奥は笑っていない。
そうだ、いつもこの男は本性を出そうとしない。
「さて、どうだか……まだ、固執しているのか?その夏鈴とやらに」
そういえばコイツは愛人を殺されている。
「それこそ、お前も大概だと思うが」
肯定。と見てもいいのかー
まて、“お前も”ってなんだ。
「なにが」
「生きているかも分からない妹をまだ探しているのか、ってことだ」
「未玖はまだ生きている」
「根拠は」
「知り合いのイタコに“魂呼び”してもらったが、反応が無かった」
「成程、な。そんな事をしていると大切なものを失うぞ」
「は?」
何を言っている。
大切なものだと?あの日に全て亡くしたさ。
「それは、そうと、お前の傍にいた人間はどうした?」
知られていたか。
タチが悪い
「何のことだか」
「に、しては。あの守護からお前の匂いがしたが?」
「あれは……あの仮面は、ここで死なれては後が面倒なだけだ」
不愉快だがそうするしかなかった。
未だに人間をただの食糧だとみなしている輩がいる。
「気付いていないようだが、それは随分お人好しの行動だぞ」
誰がー
『ヤべえ!』
お人好なものか、といおうとして。
白津から念話が届く。
『どうした、女は』
『追いついた、けれど、その先でヤベぇもん視ちまッテ!』
「どうした?…ああ念話か」
『何があった』
話そうとするライを片手で制し、白津に続きを促す。
『星が確定しタ!』
『誰だ?』
『その前に、いま何所におんのカ?』
『ライの部屋だが……成程、そういう事か』
その言葉に疑念が確定する。
グレーから黒へと。
「話を聞こうか」
「ああ、全てを吐こう」
◇
雷翔が語ったことは以下の通りだ。
まず一つ、風穴を鎮めるのに当時の雷翔力不足であった。
それが故に愛した人が生贄として殺されたこと。雷翔本人は望んでいなかった。
二つ目、数年前たまたま保護した者から死者蘇生の御伽話とその方法を聞かされたこと。
「ウラがあると思わなかったのか」
「その者は衣食住のお礼だと話していた」
だから、疑わなかったのか。コイツは身内に甘い。
それが、仇を成した。
「私は……どうなるのだ?」
「……地獄行きだろうな。間違いなく」
「そうか…」
妖は人の法で裁けない。
地獄で裁かれることになる。
「なら、せめて黒の手でー」
「先生!大変!」
赫が転がり込んできた
白津も一緒に。
「なんだ。重要なー「悪霊が!」」
「「悪霊⁉」」
―パキッ
「結界に亀裂が……!」
雷翔は青ざめた顔で呟く
「なんだこれは!」
地響きと共に地面が揺れる
「ッ⁉」
黒く、深淵の様に暗く、濁った妖力
此岸と彼岸そのは狭間でどこへも行けず
威た波の様に、全てを喰らうだろう
叫びの集合体、怨念が、
今、顕現したー
3,
「なにをした、女。いや、何があった」
「その声はッ⁉胸に手を当てて聞けばッ⁉話すことなんてないッ!」
雷翔の問いかけに女―赫は半ば半狂乱気味に返した。
『視せたのか』
『いや、視てしもうたと言うべきカ‥‥』
歯切れが悪い。
『“声が聞こえる”と言うとんですワ。』
『声?』
「あの子達が全部教えてくれたッ!ほら、今も!」
声なんてものは聞こえない。
悪霊でなく、あの子達。
視れば彼女の霊力は少し濁っていた。
護符は澄み切った黒から群青に変化している。
魅入られ始めている。これは、時間の問題か。
「話中で悪いんだが、先ずはアレをどうにかしないか」
「〝あ?」
「…。」
どす黒い妖力のする方向を指して言う。
すると、般若のような顔をした赫が振り返った。
「どうにか、する、って、何を、する、つもりッ⁉」
口調を荒げながら、赫は詰め寄って来た。
意外とコイツは背が高い。目線の高さが同じだ。
「祓う。消滅させる。ひとかけらも断片さえも残さずに」
「ひとかけらも、ってー」
「それしかない」
浄化という方法もあるが、時間も労力もかかる。
少ない被害で済ますにはそれしかないのだ。
「それって、そんなのって」
「‥‥。」
「哀しいじゃないッ!」
「・・・・!」
分かっている、そんなことは。
しかし、それはー
「ッ⁉なん、で…」
「これでいいのだろう?」
「!ああ、助かった」
雷翔が刀の柄で赫を気絶させた。
恐らく、この先はコイツにはきつすぎる。
部屋には封じの陣を敷く。
先程から異様な妖気を放つモノへと急いだー
◇
やはり赫を部屋に置いて来たのは正解だった。
この惨状はあのお子様には絶対に見せられない。
壁、床、当たり一面に華が咲いていた。
染められたかのように朱い、色で。
「っ⁉化け物かっ!」
雷翔が伸ばされたその触手を切り落とすも、すぐに再生される。
「はあッツ!‥‥やはりダメか」
術で水を出し、水刃にして飛ばすが、植物の蔓で出来た触手はすぐに再生される。
一体どれだけの魂を喰えばこうなるのか。
「攻撃を続けろっ!」
「ッツ!」
気付けば目の前に触手が迫っている。
「不味いっー⁉」
目の前に白い半透明の壁が生成され、触手が弾かれた。
宿っている色は赤。それもかなりの濃。
こういう芸当ができるのはー
「「夕霧ッ!」」
あやつしかいない。
「何しに来た!」
「忘れ物じゃ」
そう言って夕霧は自身の足元を指す。
女―赫が目を見開いて固まっていた。
余計なことを!
「そやな…これでどや」
夕霧の糸に怨霊が拘束された。
―アアア!
フードが外れた。
「「っ⁉」」
顕たのは幼さの残る顔。
黒髪に金の目。
「か、夏鈴なのか?」
雷翔の様子がおかしい。
待て、そいつはー
そういえば...『ドクターストレンジ』に出てくる『アガモットの眼』って緑色なんだよね。
MCUでは『タイム・ストーン』って呼ばれてる。
”再生”っていう意味で植物の色なのかなーって調べてみたら。
なんと、なんと!
同じ発音でThymeという物が出て来て、植物のタイム
古代ギリシャではThymos「勇気」を表すんだって。