病室
オヤツで食べるラムネみたいな短文です。
彼女の病室は白く、そして気持ちの良い初夏の風が吹いていた。
ベッドで少し身体を起こして座る彼女の腕も白くて、そして細い。
彼女の長く綺麗な黒髪は彼女の首から肩、そして胸元までしっとりと絡みつく上品な蛇のように見えた。
俺は入院中の友人のお見舞いに来ていた。
しばし他愛のない雑談。
長く続く入院。人生はままならない。思うようにはならんがなんとか流れながら進んでいくさ、と軽い感じの無駄話が続く。
「そうか、河津くんは早期退職で地方の地域活性化の職員になるのか。荒れた山の管理修繕なんて仙人みたいで彼らしいじゃないか」 彼女はケタケタと笑う。
「いろんな人にはいろんな居場所があるさ。
まあ私にとっての今の居場所はこの病室で、私の人生における君の席はこの病室の枕元に置いてある写真立てくらいなもんさ」
そこには学生時代の彼女とその仲間がハツラツと笑う写真があった。もちろん俺も写っている。
「こりゃまた随分と小さい席だな」 俺がおどけて笑うと君は言う。
「そりゃそうさ。君の席なんざ私の人生にとってはちっぽけなもんさ。ただね
人生の席で大切なことは大きさじゃ無くて、近ささ。
何でもそうだろう。駅近数分、陽当たり良好なんて優良物件だろう」
そう言うと彼女はハツラツと笑った。
終わり