惚れ薬
大学の講義が終わり、帰り道の古本屋にふらりと立ち寄ったときだった。埃をかぶった棚の一角に、やけに胡散臭いタイトルの本が目に留まった。
『誰でも作れる!惚れ薬の作り方』
あまりに怪しげで、思わず手に取ってしまった。
ページをめくってみると、驚くことに、身近な材料で簡単に作れるという。もちろん信じてはいなかったが、ふと「誰に飲ませようか。」と考えてしまったのは事実だ。
頭に浮かんだのは、無愛想なくせに悪戯ばかり仕掛けてくる幼馴染の顔だった。何かと人のペースをかき乱す彼女に、少し仕返しをしたくなったのかもしれない。
休日。彼女はいつも通り、俺の部屋のベッドを当然のように占領し、だらだらと漫画を読みふけっている。その様子を横目に、惚れ薬をこっそり準備して、声をかけた。
「ほら、ジュース持ってきたぞ」
そう言って、薬を混ぜたジュースを机に置く。
「ん・・・ありがと」
彼女はちらりともこちらを見ず、気だるげな声で返事をした。やがて漫画を読み終えると、コップを手に取り、一気に中身を飲み干す。
だが、いつまで経っても、何の変化もない。期待していた反応はどこにも見当たらず、俺は落胆する。やはり、そんな都合のいい薬なんて存在しないのだろう。
時間が過ぎ、彼女は門限が近づいたことを告げるように、帰り支度を始めた。そして、玄関へ向かう途中、ふと振り返って言った。
「・・・ジュースのお礼」
そう呟いたかと思うと、突然、俺に抱きついてきた。
「また何か企んでるな?」
この程度では動じない。いつものことだ。
「・・・ばれたか」
彼女は少しムッとしたように身を離す。
「・・・また来るから、漫画用意しといて」
そう言い残し、彼女は帰っていった。
そんな幼馴染の様子から好意を感じ取ることはできず、改めて惚れ薬のような都合のいいものはないのだと理解するのだった。
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