40.真面目+不真面目=
僕の友人の女の子は、真面目だが、真面目ではない。
誰よりも早く卒業要件に含まれる資格取得に励み、講義中に誰かと話している姿を見たことがない。
約束の時間に遅れることはなく、いつも十分前には到着しているらしい。
そういう意味では、彼女は間違いなく真面目だ。
だが一方で、彼女は決して「模範的な学生」ではない。
高校生の頃から、その兆候はあった。よく担任から、勉強時間をもっと増やすように言われていた。だが、彼女がそれを聞くことは無かった。だが、彼女は勉強ができないわけではない。勉強時間を変えることなく、彼女は模試の点数で、担任を黙らせていた。
大学生になってからは、さらにひどくなった。
出席しなくても問題ない講義であれば、資料に目を通すだけで終わらせる。出席が必要な講義なら、開始直前に出席登録だけして、そのまま帰る。判断がつかない講義では、後ろの席に座って資格の勉強を始める。課題も、基本的にはAI任せだ。
「課題を解く能力より、AIを使いこなす能力の方が大事だよ!」
それが彼女の口癖だった。彼女は、もともと文芸部に所属していたようだが、今となっては、レポートの文章に彼女の文芸部としての能力は、全くない。最近は「どうすれば教授にバレないか」を本気で考えるようになってしまったらしい。文芸部としての能力を、誤った方向に使っているようだ。
そんな彼女が、最近その不真面目さの報いを受けた。
ある講義で、最初の三回ほどは、授業前に一度出席を取るだけだった。だから彼女も、いつも通り出席だけして帰っていた。
ところが四回目の講義で、事件が起きる。講義の途中でも、もう一度出席を取るようになったのだ。
もちろん、そのことはすぐに彼女へ伝えた。
『□□概論、途中でも出席取るらしい』
『……は?』
彼女は激怒した。必ず、かの邪知暴虐の教授を除かねばならぬと決意した。というのは冗談だが、それくらい珍しく感情を爆発させていた。
五回目の講義。席に座って三分ほどすると、彼女がやってきたので、隣に置いていたリュックを足元に下ろす。
彼女はドカッと腰を下ろし、まだ教授が来ていないのをいいことに、溜まっていた不満を吐き出した。
「講義資料を読むだけの授業に、出席とかいらないだろ!」
「だいたい、他の人が休みすぎるから、抜き打ちで出席が増えるんだよ!ちゃんと真面目に出席しとけっての!」
思い切りブーメランな発言だった。
だが、講義が始まると、彼女の雰囲気は一変する。
背筋を伸ばし、教授の方を向いて、きちんと講義を聞いている。
僕は、その横顔をちらりと盗み見る。さっきまでの苛立ちが嘘のような、きりっとした表情。そのギャップに、不意に見惚れてしまった。
すると彼女がこちらを見る。目が合う。僕は慌てて視線を逸らし、教授の方を向いた。
マスク越しに、彼女がほんの少し微笑んだのが分かった。
そして彼女は、ノートの隅に何かを書き始める。
『この講義終わったら、カラオケ行こうな!』
その文字を見て、思わず苦笑する。
やはり、彼女は彼女だ。真面目と不真面目を両立している。
再び目が合うと、今度は遠慮のない満面の笑みがそこにあった。
それにつられて、僕も笑う。苦笑いではない、自然な笑みだった。
教授の声が、やけに遠くに聞こえた
いつもお読みいただきありがとうございます!!
ご感想をいただけると、今後の創作の参考になりますし、とても励みになります。
一言でも大歓迎ですので、お気軽にお寄せください!




