表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

404

 僕の家の近くには、小さな神社がある。幼い頃、その長い石段を駆け上がり、よく境内で遊んでいた。


 そこには、狐耳のカチューシャをつけた、少し変わったお姉さんがいた。年齢はよく分からなかったが、優しくて、どこか現実味のない人だった。


 気がつけば、僕は彼女に恋をしていた。


 けれど、親の転勤で遠くに引っ越すことになり、その想いを伝えることなく別れた。伝えられなかった後悔は、今でも胸に残っている。


 僕はたくさん泣いた。まるで体中の水分が全部抜け落ちてしまうんじゃないかと思うほどに。




 時は流れ、大学を卒業した僕は、久しぶりに故郷へ戻ってきた。


 あの神社へ向かう足は自然と速くなる。彼女は、まだ、あそこにいるだろうか。


 不安を押し込め、僕は昔と同じように階段を駆け上がった。


 頂上にたどり着き、息を整えながら境内を見る。


 そこには、昔と変わらぬ姿で、狐耳のカチューシャをつけたお姉さんが、微笑んでいた。


 何も変わっていなかった。


 僕は駆け寄る。彼女はゆっくりと歩み寄る。


 そして、僕は彼女に抱きしめられた。あの頃と同じ温もりが、確かにあった。


 今では僕の方が背が高く、子どもの頃に包まれていた腕の中で、僕は彼女をそっと抱き返す。


 彼女がこちらを見上げ、静かに言った。


「ずっと、一緒じゃな」


 その瞬間、世界が切り替わっていく。


 空気がひっそりと入れ替わる音がした。光がわずかに歪み、音が静まり、すべてが滑らかにずれていく。


 僕は、もう「あちら側」にはいない。存在しない。


 彼女の狐耳が、嬉しそうにピコピコと動いた。

続きはありません。少なくとも【こちら側】には。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ