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ラブコメs日和  作者: 水無月盈虧


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38/40

38.枕

 僕には、少し年の離れた幼馴染の女の子がいる。僕が年上だ。

 彼女は小さい頃から僕にべったりで、よくお互いの家でお泊り会をした。そのたびに僕の腕を枕にして、穏やかな寝顔を見せてくれていた。


 ――見せてくれた、過去形だ。


 僕が大学生になる頃、彼女は中学生になった。そう、反抗期まっさかりである。

 あれほど頻繁だったお泊り会も、今ではすっかり途絶えた。どれだけ幼馴染とはいえ、大学生の男が女子中学生にお泊りを提案するのは、さすがに事案になりかねない。だから、こちらから連絡することもほとんどなくなっていた。


 ある朝、1限に間に合わせようと早めに家を出ると、久しぶりに彼女と鉢合わせた。

 僕を見ると少し口を開きかけ、けれどすぐにプイっと顔をそむけて、速足で行ってしまった。相変わらずだった。


 その日の夕方、スマホが震えた。画面に浮かんだのは、見慣れないほど久しい彼女の名前だった。

 恐る恐る開くと、短いメッセージがひとつ。


『……久しぶりに、お泊まり会、しない?』


 昔のように絵文字はひとつもない。文面は妙に硬くて、ぎこちない。

 それでも、その一文を見た瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。


 指定された時間に彼女の家を訪ねると、玄関の向こうで彼女が待っていた。

 目が合った途端、気まずそうに視線をそらす。そこまではいつも通りだ。

 ただ、その目の下にうっすら隈があるのが、今日は違った。


「ちょっと来て!」

 困惑する間もなく、手首をぐいっと掴まれ、そのまま部屋へと引っ張られる。

 部屋に入るなり、彼女はぷいっとそっぽを向き、少し怒った声で言った。


「……毎日お泊まり会して腕枕してもらってたせいで、普通の枕じゃ全然眠れなくなったの! 責任、とってよね! これから毎日……腕枕、しなさい」

 最後の方は小声だったが、しっかり聞こえた。

 今までの、厳しい態度とのギャップについ吹き出してしまう。


「な、なに笑ってるの!」

 耳まで真っ赤にして詰め寄ってくる姿が可愛すぎて、余計に笑みがこぼれた。

 その瞬間、


「もういい!」

 と言って、僕の腕をぐいっと引き寄せ、自分の枕代わりにしてしまった。


「ほら……もう知らないから。寝る!」

 言い終える頃には、声がだんだん小さくなっていき――

 ほんの数十秒後には、すぅ、と規則正しい寝息が聞こえ始めた。


 その寝顔は驚くほど昔のまま。小さかった頃、僕の腕に顔を乗せて眠っていた時と何ひとつ変わらない。

 けれど今、腕に感じる重みだけは、確かに“成長した彼女”のものだった。



いつもお読みいただきありがとうございます!!

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