37.クレヨン
僕の学校には、少し変わった場所がある。
空き教室の奥の壁に、四分の一を占めるほどの大きな画用紙が貼られているのだ。そこには誰でも自由に落書きができる。掲示板のように使っても、イラストを描いてもいい。本当に自由だ。
だがその空き教室は校舎の奥にあり、移動教室のついでに寄るような場所ではない。そのため、画用紙はほとんど手つかずのまま残っていた。
高校一年の僕がその存在を知ったのは、ただの偶然だった。
早く学校に慣れたくて校内を探索していたとき、ほとんど真っ白な画用紙と、何本かのクレヨンを見つけたのだ。
僕には一つだけ趣味がある。四コマ漫画を描くことだ。
けれど、自分の作品にまるで自信がなく、誰かに見せたことは一度もなかった。
だからこそ思いついた。ここに描こう、と。
誰が描いたかも分からないこの場所なら、気負うことなく、のびのびと描ける気がした。
僕はクレヨンを手に取り、画用紙の隅にコマを描き始めた。
三コマ目まで描き終え、四コマ目に手を伸ばそうとした瞬間、下校のチャイムが鳴った。これが鳴ったら帰らなければならない。残れば、待っているのは先生の雷だ。
仕方なく四コマ目は明日描くことにし、クレヨンを置いて教室を出た。
手のひらは、カラフルに汚れていた
翌日の放課後。
いつもより軽い足取りで空き教室へ向かった。
扉を開けて目に飛び込んできたのは、見覚えのない四コマ目だった。
僕が描いた三コマに、誰かがオチを描き足している。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、昼休みに誰かが寄ったのだろうと考える。
その四コマ目は悔しいほど面白く、絵も丁寧で読みやすかった。
また、同一人物が描いたであろう、三コマ目で途切れている四コマ漫画が目に入った。横には小さく、【挑戦状】と。
僕はすぐに新しい三コマを描いた。こちらにも【挑戦状】と書く。
そして、誰かからの挑戦状に取り組む。ポニーテールの女の子が体育で全力疾走して息を切らしているコマ。何とか、そのオチを書き足す。
次の日、また四コマ目が描かれていた。
悔しい。でも面白い。
それから毎日、互いに三コマと四コマ目を描き合った。
画用紙は日に日に賑やかになり、僕たちの絵もどんどん上達していった。
ある日、違和感を覚えた。
描かれている主人公が、いつものポニーテールの女の子ではなく、男の子になっていたのだ。
よく見ると、その眉の角度も髪の跳ね方も……何故か僕にそっくりだった。
息が詰まる。向こうは僕を知っている。気づいている。
それが悔しくて、そしてどこか不気味で、僕は描き手を探し始めた。
昼休み、廊下、移動教室の途中──しかし誰も怪しい人物はいない。
それでも、向こうは僕を描き続けた。
ある日の昼休み。
空き教室の扉が、いつもより少しだけ開いていた。
胸の鼓動がひとつ跳ねる。中に誰かいる──。
僕はそっと扉を押し開けた。
画用紙の前に、ひとりの少女が立っていた。
ポニーテール。細い背中。紛れもなく、あの漫画の主人公。
気配に気づいた彼女は、ゆっくり振り返る。
その口元には、柔らかい笑み……ではなかった。
狂気が滲むほど歪んだ、甘い笑み。
「やっと……来てくれたんだね」
彼女は右手に握ったクレヨンを強く握りしめた。
その手は色とりどりに汚れていて──昨日の僕の手と、まったく同じ色だった。
最近、ヤンデレヒロインが多いですね。次回は、変えるつもりです
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