36.ASMR
……目が覚めたようだね。
ふふっ、そんなに震えちゃってどうしたんだい?
ここがどこって? ここは、私の屋敷の地下室だよ。
ん?どうしてここにいるのかって?
もう、そんなの決まってるじゃないか。
──君を、私だけのものにしたいからだよ。
……ん? なに?
こんなこと望んでない? 話を聞いてくれ?って?
ふふっ……声、震えてるよ?
小さくて、必死で、まるで……子犬の鳴き声みたい。
……抱きしめたくなっちゃうじゃないか。
君のことは好きだけど、こんな形は望んでない?
──知ってるよ。
君がまっすぐで、優しい人だってことくらい。
でもね、私はもっと君を見ていたいんだ。
君の世界を小さくして、私のことでいっぱいにして……
その全部を、私だけが見つめたい。
それって……そんなに、いけないことかな?
……ああ、泣きそうな顔。
やっぱり、可愛い。
抵抗なんて、もうしなくていいよ。
ほら、手……震えてる。
ねぇ、こっち向いて?
……うん、そう。
ふふ……
ああ、そんな顔しないで。
君はもう……私から、逃げられないんだから。
───そして僕は、その台詞の続きを書きながら、一度ペンを置いた。
(……やりすぎたかな)
自分で考えたとはいえ、これは完全にヤンデレヒロインの誘拐劇だ。
実際の彼女はこんな強引じゃない。
いや、思い込みが激しいところはあるけれど、根は誰より優しい。
でも、誕生日プレゼントを聞かれたとき、ふと頭に浮かんでしまった。
最近ヤンデレもののASMRにハマっていて、その台本を恋人に読んでもらえたら──と。
彼女は最初きょとんとしていたが、
「君の頼みなら喜んで引き受けようじゃないか」と、どこか誇らしげに言ってくれた。
(よかった、これなら今年の誕生日も、変な超高級プレゼントは回避できるな)
僕は内心ほっとした。
誕生日当日。
完成した台本を彼女に手渡すと、彼女は静かに読み始めた。
数行——。
まだ序盤の台詞を読み終えたところで、彼女はふと顔を上げて尋ねた。
「……ねぇ、君って、こういう女の子が好きなの?」
確かに、この台本には……僕のちょっとした“願望”も混ざっている。
「そうだね」
僕は正直に答えた。
彼女は数秒だけ黙り込み、何か考えるように伏し目がちになる。
「……あ、でもね、今の君が一番だよ!」
僕が慌ててフォローを入れる。だが、彼女には届いていないようだった。
彼女は思考に潜ると、僕の声をまるで聞かなくなる癖がある。
そして──
ゆっくりと顔を上げ、僕の目をまっすぐ見て、
「……そっか」
満足そうに笑った。
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