28.屋上
僕は、漫画が大好きだ。最近のお気に入りは学園ラブコメで、高校生の頃から、いろいろな作品を買っては読み漁っている。漫画を読んでいる間だけは、退屈な現実を忘れられる。
毎日同じ時間に登校して、つまらない授業を受け、同じ時間に帰宅する。そんな平凡な日常から、少しの間だけ逃れられるのだ。
ある日、少しでもいつもと違うことをしてみたくなって、屋上で弁当を食べることにした。だが季節は冬。教室のエアコンで温まった体も、弁当を食べ終える頃にはすっかり冷え切っていた。
帰ろうとしたとき、屋上の隅に誰かが座っているのに気づいた。手に一冊の漫画を持ち、真剣な表情でページをめくっている。
その背表紙は、僕が今読んでいるのと同じ『恋色スクールデイズ』だった。
珍しい。同じ漫画を読んでいる人に出会うなんて、滅多にない。
その人が顔を上げた瞬間、僕は息を飲んだ。
隣のクラスの委員長、△△さん。成績優秀で、仕事もきっちりこなすあの人が、こんなところでこの漫画を読んでいるなんて。
「あ、それ……」
思わず声が出た。
△△さんは顔を上げ、僕を見つめた。その視線が、次の瞬間、僕の手にある漫画に釘づけになる。
「え、もしかして、あなたも『恋色スクールデイズ』を……?」
彼女は立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。その瞳は好奇心で輝いていた。
「うん、最近ハマってて」
「私も! なんだか、こういう出会いって運命的じゃないですか?」
そこから始まった会話は、止まらなかった。登場人物の魅力、ストーリー展開の巧みさ、好きなシーン——話しているうちに時間を忘れていた。意見が一致することもあれば、違う視点に驚かされることもあって、どれも新鮮だった。
それから僕たちは、毎日屋上で漫画の話をするようになった。冬の冷たい風の中、弁当を食べながら、たわいのない話も交えつつ。教室では見せない△△さんの表情——好きなキャラを熱く語る姿や、考察を語るときの真剣な横顔が、僕にはどんどん魅力的に映っていった。
一週間後。『恋色スクールデイズ』の新刊発売日。
本屋の新刊コーナーでその本を手に取った瞬間、背後から声がした。
「——あ、君も来た!」
振り返ると、△△さんが同じように新刊を握って立っていた。
「こういうときに会うとか、本当に運命的ですね」
僕は笑った。
「そうですね。明日、これについて語り合いましょう」
「了解。じゃあ、また明日、いつもの場所で」
家に帰ると、一気に新刊を読んだ。
そこには驚くべき展開が待っていた。
——屋上で語り合う二人の主人公が、次第に距離を縮め、ついには恋人になるというストーリー。
抱きしめるシーン、唇を重ねるシーン、心の距離が近づく瞬間。
それらすべてが、僕たちの関係と重なって見えた。見えてしまった。
苦しくなるほど、心臓が鳴っていた。
翌日。屋上に着くと、△△さんはすでに来ていた。
けれど、どこか様子が違う。頬は赤く、視線は落ち着かず、弁当を開く手が少し震えている。
「新刊、読んだ?」
僕は声をかけた。
「は、はい……」
彼女の声は小さく、どこか震えていた。
「どう思った?」
△△さんは深呼吸をひとつして、勇気を振り絞るように口を開いた。
「あの、その……私たち、もしかして……あの二人みたいな……」
言葉が途切れる。彼女はぎゅっと目を瞑り、絞り出すように言った。
「これは、ただの独り言たなんですけど……」
「——私たち、恋人になりませんか?」
その言葉は、冬風に紛れるほど小さな声だった。
頬をかすめる冷たい風が、彼女の顔をいっそう赤く染める。
僕の心臓は、もう止まりそうだった。いや、数秒は止まっていたのではないか。そう錯覚してしまうほどに、その鼓動を速めていた。
漫画の中だけの出来事だと思っていた世界が、いま、目の前で現実になっていた。
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