20.日傘
『3.扇子』の続きです
最近の異常気象はとんでもない。特に暑がりの僕からすれば、ここ最近の気温は蒸し風呂に入っているような気分になる。
先日買った鉄扇も、外で使うと熱風しかこない。やはり暑さの元凶である日光を遮るのが良いだろう。そこで僕は日傘を買うことにした。鉄扇同様、少し高い買い物になったが、実際に登校中に使ってみると、かなり暑さが軽減されているのが分かる。高かったが良い買い物をしたと嬉しく思いながら学校に向かった。
日傘を買って一週間。委員会の仕事で、いつもより早い時間に登校することになった。朝早いこともあってか、いつもよりは暑くないが、あくまで相対的に涼しいだけで、校門に着く頃にはたくさん汗をかいていた。
「あれ〜?○○くん〜?」
特徴的だが聞き覚えのある声が後ろから聞こえてくる。振り返ると、同じクラスの彼女がいた。あの鉄扇を貸してあげた、のんびり屋でおっとりした女の子だ。日傘はさしておらず、前髪がおでこに引っ付いている。冬場は人間カイロとして重宝されている彼女だが、やはり夏の暑さには弱いようだ。
「おはよう、□□さん」
挨拶をすると、彼女がニパッと笑みを浮かべる。
「おはよ〜、○○くん。そういえば、○○くん、日傘さしてるんだね〜。涼しそ〜」
彼女は挨拶をしつつ、こちらの持っている日傘に興味を示す。
「ねぇねぇ、○○くん〜、日傘、一緒に入ってもいい〜?」
この前の鉄扇の件があったから、こうしてお願いしてくれるのかもしれない。唐突なお願いだが、あの時のお礼の抱擁を思い出して少し顔が熱くなる。
「えっと、僕、登校してすぐだから結構汗かいちゃってるよ?」
普段は教室に着いたら制汗剤を使っているため、まだケアができていなかったのだ。だが彼女は、そんなことは些細なことだというかのように、
「私は全然気にしないよ〜。あ〜、でも私も汗かいちゃってるから、○○くんが嫌なら無理は言わないよ〜」
少し悲しそうな顔をするものだから、断ることはできなかった。
「い、いやいや、僕も全然気にしないよ!」
「良いの〜?やった〜!」
さっきまでの悲しそうな表情はどこに行ったのか、すぐに満面の笑みを浮かべて、こちらの日傘に入ってくる。僕の持っている日傘はあまり大きいものではないため、自然と体が密着するようになる。彼女の匂いがこちらに届く。
石鹸の白い香りと、透明な汗の匂いが静かに溶け合っている。詩的な言い方をすれば、そんな匂いがこちらに届く。
せっかく日傘をさしているのに、体温は上がり続ける。そんな僕の心情を知ることもなく、彼女は嬉しそうに僕の隣を歩く。
「ねぇ、明日も日傘に入っていい〜?」
断る術を僕は持ち合わせてはいなかった。すぐにその提案を受け入れると、彼女はもっと嬉しそうな表情を浮かべる。
心なしか、彼女の体温が上がった。そんな気がした。
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