コアラ
本日2つ目の短編です。
僕が小学生になったころ、お隣に引っ越してきた女の子がいた。年下で、人懐っこくて、僕によく懐いてきた。
当時の僕は小学生にしては背が高くて、彼女はよく僕の足にしがみついていた。大人たちはそれを見て「コアラみたいね。」と微笑んでいたのを覚えている。
けれど、それも昔の話だ。
僕が高校生になる頃には、彼女は急に僕から離れていった。思春期なのだと自分に言い聞かせたが、やっぱり寂しさは拭えなかった。
そんなある日、友人から旅行の、お土産としてコアラのぬいぐるみをもらった。置き場所に悩んでいるうちに、ふと彼女の幼い頃を思い出し、ぬいぐるみを足に抱きつかせてみた。
懐かしい感触に少し目頭が熱くなる。そんなとき、インターホンが鳴った。
「○○~、□□ちゃんが来たわよ~」
母の声に、僕は一瞬耳を疑った。まさか、彼女が来るとは。
玄関のドアを開けると、そこに彼女がいた。
「久しぶり!」
「……久しぶり」
明るい声と無愛想な返事。彼女は家族旅行の土産を持ってきたのだと言う。そんな話をしていると、彼女の目が僕の足元に釘付けになった。
「……それ、何?」
僕の足には、あのコアラのぬいぐるみがまだしがみついていた。どうやら、そのまま来てしまったらしい。
「あぁ、これは友達にもらったやつで……」
言いかけた瞬間、彼女はそのぬいぐるみを掴み、家の中に放り投げた。
「コ、コアラーーーー!」
まだもらって日が浅いとはいえ、少し愛着が湧いていた。でも次の瞬間、彼女は真剣な顔で言った。
「……そこは、私の場所なの!」
そう言って、彼女は僕の脚に抱きついた。
身長差は、幼い頃と変わらない。見慣れた景色がそこにあった。
一つ違うことを挙げるなら、彼女の耳が、ほんのり赤く染まっていることだけだった。
以降は周1の更新を目指します。