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15.バス

 大学に入学してから、通学手段が自転車からバスに変わった。最初の頃は乗り間違えることもあったが、一ヶ月も経てば、無意識のうちにでもバスに乗れるくらいには慣れていた。


 毎日同じ時間のバスに乗っていると、バス停で見かける顔ぶれもだいたい決まってくる。もっとも、田舎なので、僕以外に待っているのは二人だけなのだが。


 一人はスーツ姿の初老の男性。いつも無表情で、彼が表情を変えるところを一度も見たことがない。


 もう一人は制服姿の女の子。おとなしそうな印象で、彼女もまたいつも無表情だ。


 そして僕自身もまた無表情。早朝のバス停で、無言の三人がじっとバスを待つ。それがいつもの風景だった。


 だが、その日常は思いのほか早く、崩れることになる。


 ある朝、いつも通りバスを待っていると、バスの中が信じられないほど混雑していた。平日なのに、なぜこんなに人がいるのかと思うが、それでも三人が乗れないほどではない。


 いつも通り乗り込むと、地獄だった。


 人の波に押しつぶされそうになりながら、なんとか踏ん張る。なぜ平日の朝にこんなにも人がいるのかと、恨めしそうに周囲を睨むが、当然ながら状況は変わらない。


 ふと視線を動かすと、同じバス停の女の子が目に入った。彼女は、背が低いせいもあり、まわりの人に埋もれて身動きが取りにくそうにしている。見過ごすわけにはいかず、乗客に頭を下げながら、彼女と他の乗客との間にどうにか割って入った。


 彼女はバスの壁際にいたので、僕は壁に腕をついて、少しでも彼女が落ち着いて立てるようなスペースをつくった。


 思った以上に腕にかかる圧力はすさまじかったが、苦しそうな顔を見せるわけにもいかず、無理やり笑顔を作って声をかける。


「大丈夫?」


 彼女は少し驚いたように、


「あ、ありがとうございます……」


 と、小さな声で応えた。


 腕は相変わらずしんどいが、良いことをしたという満足感で、心は少し温かくなった。


 次の日。いつものようにバスに乗る。今日は混雑もなく、いつも通りのバスだ。ただ、ひとつだけ違うことがあった。


 僕がいつも立つ壁際に、なぜか彼女が寄りかかるように立っている。彼女は、いつもは座っているはずなのに。


 そう思っていると、彼女が僕の方を見た。その瞳には、どこか期待のようなものが宿っていた。


 後から乗り込んできたサラリーマン風の男性が、そんな僕たちのやりとりを見て、微笑んでいた。

いつもお読みいただきありがとうございます!!

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