家族
常に冷たい表情を浮かべ、何があっても眉ひとつ動かさない。
そんな彼女は、陰で“氷姫”と呼ばれていた。
その彼女と僕は、学級委員を務めている。仕事の分担を決める場面でも、
「じゃ、じゃあこの仕事は僕がやるから、こっちはお願いしてもいい?」
「・・・わかった」
「・・・学級委員長の仕事って、やっぱり大変だね」
「・・・別に」
といった具合で、会話が弾むことなど今まで一度も無かった。
ある日、文化祭実行委員を決めることになった。だが、人気のない役だったため、結局僕たち学級委員がそのまま担当することになった。
準備の途中、必要な物資の買い出しに彼女と近所のホームセンターへと出かけることになった。道すがら何度か世間話を試みたが、全て空振りに終わる。その後は沈黙だけが続いていた。そのときだった。
「ママ~~~! パパ~~~!」
小さな女の子が、道の端で泣きじゃくっていた。どうやら迷子のようだ。
声をかけに行こうとしたが、買い出し中だったことを思い出し、まず隣の彼女に確認しようと振り返る・・・が、彼女の姿はすでになかった。気づけば彼女は、泣いている女の子のもとに駆け寄っていた。
「大丈夫か、□□?」
「お姉ちゃん!」
どうやら女の子は、彼女の妹だったらしい。
「迷子になったのか?」
「・・・うん。お母さんの誕生日プレゼントを買いに来てたの。でも、途中で迷っちゃって・・・勝手に外に出てごめんなさい・・・」
申し訳なさそうに頭を下げる妹に、姉である彼女は怒ることなく、優しく抱きしめた。
そして、普段の彼女からは想像もできないほど穏やかな声と表情で、
「謝らなくていい。無事でよかった」
そう言って、妹の頭をそっと撫でた。
やがて女の子も落ち着きを取り戻し、にこっと笑って僕の方を指差す。
「お姉ちゃん、この人は?」
僕は、軽く自己紹介をした。
「君のお姉ちゃんと同じ高校に通っている○○だよ」
すると彼女の妹は、目を輝かせて叫んだ。
「あっ! お姉ちゃんがいつも話してる人だ!」
思いがけない言葉に僕が驚いていると、
「ちょっ、□□!!」
彼女が珍しく慌てた声を上げた。そこからは、妹の独壇場だった。彼女が普段僕について話していることを、嬉しそうに次々と語り出す。
その内容については、彼女の尊厳のためにここでは伏せておく。
ただ、ひとつ言えるのは、氷のように冷たいと言われた彼女の頬が、その瞬間、恥ずかしさで真っ赤に染まり、まるで氷が解けてしまいそうなほどだったということだけは、ここに記しておく。
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