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EP.1

突然、体から零れ落ちた白面。


センスも愛嬌もない無機質。


手に取り聞こえた、不相応な妖艶。


孤面(こめん)、それが私の名』

低く唸るような、女性の声。




なのに、不思議と心地良く。




安心さえするような、サラセニアフラバ。




そんな声が、語りかける。




無機質な仮面が、私に。








『”世界を救う孤独者”に、なってみる気はないか?』











「……」




結局 何一つ、頭に入ることのなかった授業。



窓際の机、頬杖て。



吹く入る風は輪郭を知りたがる。




「ク……?」


「……ねぇ、ピク?」




「ッ!」




添えられた肩の手、辿る元は同級生。



首を傾げ、見おろして。




「あ……うん、どうしたの?」




「それはこっちのセリフ、中々反応がないんだもん」




「ご、ごめん……」




正直言って、今の私に心も何もありはせず。



出たのは無機質な、謝罪の言葉。




「珍しいね、何か悩み事が?」




微笑む彼女に、渡してしまおうかなんて。




「ぁ……え、えっと」


「別に、そういうのじゃなくて……ね」




衝動に似た臆しを誤魔化して、下手な笑いと手振りで濁す。



白も蒼の気配さえ、圧する霧は掻き消えてしまえと。




「あ、ごめん!」



「今日はもう帰るね……そ、それじゃ」




伸ばし損ねた手が、小さな声と置かれる背中。



そそくさと教室を後にする、残した罪悪感と鞄を引っ提げて。







結び点が左右で異なるツインテール。



揺れる重きの違い。



先述の訳が、雑さをボカした故。




「はぁ………」




友の気遣いを無下にして、そういえば一緒に帰る約束を思い出して。



ほっぽし逃げた果て、一人でタメ息と徘徊。




「何やってるのかな、私」




自宅を目指さずウロノロ ウロノロ。



下る夕に嘲笑され、鞄に増えた 微かな重し に憎さ3倍。



よし。




「諦めよt___ッ」




切り替えようと上げた面、映る土煙はそう遠くない場所。



鼓膜に響く轟音、徐々に民衆が悲鳴で対抗。




「ッ!」



「今の……今のが?」




嗚呼、どうしよう。



いざ事が起こると、背中がヒンヤリしてきた。



喚く生物達と同方向へ、しかしコンパスの赤が許しはせず。




「……クッ」








背く踵、流れに反す孤独。







「▼▼▼!!」




「ねえ……」


「あれが、そう……なの?」




怪なくして、煙は無い。




『ああ、間違いない』




取り出した”お面”に見せた景色、だだっ広い公園がお似合いの巨体。



赤黒い温かみが絡み合って、人型を形成していた。



目前に。




「お、思ったより……大きいなあ………」




”怪物” が居る、私の目前に。




「▼▼▼▼!」




木々は倒れ、遊具が萎み。



定期的に、轟声が待ちわびる。




移動と破壊が伝わっているのか、夥しい鼓動なのか、もはや分からない。



慰める汗の逆効果、滲む勇気。




『わざわざ歩き廻った甲斐があったようだ、迷いの絶ち切り時が来たぞ』




「………」




図星に一寸の我が帰り、尚も手は引き寄せず。




『……』


『逃げても、良いんだぞ』




「ッ」




『選択など直前で、いくらと変わって良い』



『戦うも逃げるも死ぬも、全て自由だ』




場が場であるためか。



痺れを切らせ、低音は諭し始める。




『ただ、どちらにせよ』


『変身自体は早く、した方がいい』




「それってどうい……」




『相手が気付いた』




「ッ__」




詰まる息、危うく心停止しかけるほど。



移す瞳が、生々しさに不相応な黒い仮面を捉えてしまう。



私の持つモノと似た無機質と、真っ直ぐ見つめる違い。




「▼▼?」




「ホントに目、こっち見てるじゃん?!」




『それが ”気付いた” という行動だ』




冷めた返答。




『ピク』




「なな、何……孤面………」




『今一度、述べよう』


『ワタシは ”力” だが、束縛を持たぬ自由』




冷静な復唱に、浮かぶ走馬灯が初対面に置き換わっていく。



ツマミが捻られ、火が立つのを感じる。




『力 を使い相手を殴ろうが、この 力 で一目散に退散しようが、はたまた棒立ちだろうと』



『全て君の ”自由”』




「……」




ひっくり返して向ける表、目が合うはずもなく妙に落ち着く声色。



不審な私を警戒してか、巨怪の歩みはゆっくりと。




『殺人、救済、名誉』



『悪、偽善、正義、全てに優劣は無く』



『万生が成れる、君でなくとも』




説教じみた優しさが、早く装着しろと言われているようだ。








『ヒーローは、誰にでも担える』




ただ、催促に難儀を示したい訳ではない。




『君である必要は、毛頭ない』




「……ッ」




その瞬間ピクリと、震えていた手より消える表情。



泡がポコポコ、血サワー。




「……なんか、さっきから……ずっとさ」




姉から時折、ヘソ曲がりと言われた。




「私が逃げる前提だったり、偽善者みたいな言い方してない?」




『……』




即座に明答できないのは、億に一つ でも該しているから。




「昔からね、回りくどい要望と謝罪が私、大嫌いなんだ……」



「昨日からろくに過ごせないのも、根幹は貴女にある」




「戦い、世界を救って欲しいのなら」



「直球で、そう言えばいい」




望んでもいない邂逅。



提示された提案に自由が付いていたから、なまじどっち付かずで悩む羽目。



それでもドチラかになりたいと、切羽の急躁を求めた結果。



自由を被せて、逃げろだの無理だの。




「そっちから現れたクセに、ヒーローは私でなくても良い……?」




ブクブクブク、沸騰が大きな泡弾く。



後は火を、止めるだけ。




『敵との距離、20__』




「成るよ」




『?』




他で構わないと気遣われたら、唯一無二に成りたい偏屈。




「現る ”悪” を」


「貴女という ”偽善” を被り、倒して」



「私は、”正義” に成る!」




逃げていいと言うのなら、むしろ立ち向かう天ノ邪鬼。




『善的発言すらしていないワタシの、偽とは一体何だ?』




「こ、細かい事は気にしない……」



「声も話し方も内容も、偽善っぽいし」




自ら首を絞める人生。



損得の分量比は、いつだって 9:1 。



故に、私。




沿えば束縛、反すは自由。



代償ありき、だが後者。




「……」




深呼吸。



顔を上げ。




「変身!」




スナップを効かせ表裏転換、憧れの掛け声と共に面を着ける。








「……」



「………あれ?」




も、変化無し。




「え、なんで」


「変身できないんだけどッ」




『絵空事とは訳が違う』




近付く震跫、焦る心情。



遠回しな否定の一低声に、舌打つ愚行。




『引き金は ”コメンド” 、それで変身を可能とする』




「……肝要は、先回しが良いかな」




タメ息。



目線を上げ。




「コメンド!」








蠢く肉音が、また鮮明に。




『アクセントが少々違う、”マスクド” のニュアンスだ』




「……」




肩が落ち。



見上げた陰り、次が無く。




「コメンド」



「__ッ!」




光を挙げた体に、思わず手を離すが。



テンプルもバンドも無しに、依然と白面は落ちぬまま。




「▼▼!」




生意気に喫驚を、後退りで表現する黒固定面。



更なる威嚇、と。



見せつけるように紅梅がビビッど放つ、一際の光源。








「……」




役割を終えたのか、桃輝はスパりと分散。



その様、定時に問答無用でシャッターを降ろす役場職員。




「……本当に、変身できた」




残された私は、ペタペタと頬に触れる。




仮面と肌に、境目が感じられない。



かと言って、陽気な緑に習った一体化とは相違気味。



硬感触は確か、接地面のみ溶け込む形で敷きならされている。




「▼ッ」




「おわッ?!」




浸る余韻もない、間一髪。



厚さ1mmは防げても、拳の直下を受け止めた両手より伝う重量。



足裏に届いて沈む地面、初 打たせ湯を思い起こす衝撃。




「グッ……うぅ」




「▼▼__!」




「うお………りゃッ」




目一杯退かす要領で、側方へ飛ばす。



捻るようにバランスを崩す肉怪。



脇腹へドロップキックしてみれば、下手クソながら距離を出せた。




(無痛じゃないけど、思っていたよりパワーが与えられてる)





マゼンタにボリュームを上げたツインテール、不思議と重くはない。



ラバーに似た質感のアンダースーツは、紛えぬほどピンク。



弓道着とセーラー服の間の子は胸部まで、スカートの短さは、恐らく機能美。



籠手と脚甲は どこか甲冑じみて、肩鎧に角が隆起。




「このリボン、邪魔じゃないかな」




ピッチリスーツに纏う服装は基本黒、ドデカい背腰のリボンが辛うじてチャーミング。



要所的に非対称なデザインは多分、あざとさ。




「お面が無ければ、もっとマシなのかな……」




戯れつつも、力 への疑いは霧となく。



苅安バリカーを抜け、尚 転げた害へ一歩一歩。




(うわ……)




ふとした道すがら、端々に映る無惨な遊具達の多出血。



潰れた小児や捻れた親子、余計な茶々で巻き込まれた誰か。



私が歩く地面もヌチョグチョで、今踏んだのは多分小腸。




『鼓動からして、動揺と脅えは明白』



『然るに表だった反応は薄い、慣れているのか?』




「道路で伸びてる猫に比べたら、かな」




あ、今の指だ。








「!」




起き上がり途中経過の巨体、それを尻目に気付いた”もしや”。



申し訳程度で生えた木々の下、原型を保つ震えに駆け寄る。




「ウッ……グ」




「やっぱり、生きてる!」




踞り待つは時経つ解決か、はたまた いつかの汁散を望んでいるのか。




「ねえ、貴女」




「へ……?」


「ッ?!」




この方向へ吹き飛ばず、良かった。




「此処は私に任せて、さあ早t__」




屈まない周到、伸ばす手の安堵。




「ヒィィ……ッ」




「?」




返ってきたのは、悲鳴。




「イヤ……ぁ」




四肢を あわふた、後退る微かな嗚咽。



こんな気色悪い仮面、無理もない。




「あ、えっと……」



「変な お面を付けてますが、私は怪物ではなくってですね」




「ヒェッ」




「一先ず危険なので__……って、あー」




ジリジリと詰めた、弁解虚しく。



逃げるように決死の足つきで、彼女は消え失せた。




「御礼の一言、あって良いと思うんだけどな」




命への執着、その必死さに癪。




『ピク、彼女に君の声は聞こえていないぞ』




「……どういう意味?」




後出すアドバイスに、眉が潜まる。




『孤独者は比喩に在らず』


『君達の声は一切、変身中に他者へ聞こえることはない』




「……」



「要点は先にって、そう言ったよね」




声色に黙り、寸秒後。




『申し訳ない』



『では御託の前に、一つ』




「な__」




『背後、脇腹』




「__にッ?!」




棒線口が発するより刹那、右脇腹に衝突。



“く”の字も束の間。



風圧を添えた、空と地の水切り。








「い”っ、た……ッ」




「▼▼▼!!」




咄嗟に掴んだバリカーで、なんとか勢いを殺したが。



机の角がめり込んだ際に似た鈍痛は、流石に殺し損ねる。




「完全に態勢を上げて……向かってきているなら、さ……」



「本当に、早く言って欲しかったよ……」




支えに徹する右手、ダメージ元を押さえる左手はほんの代役。



骨は無事、出血ゼロ。




『君の弁明を無下にするのは、気が引けた』




御託に爪が立ち、軋むゴム。




『それと、見返りを求める行為は偽善ではないのか?』




可笑しな気遣い、図星な指摘。




「ああもう……分かってるよッ」




負った痛みより募った怒り、圧倒的総数に上がる軍配ミルフィーユ。



ベラベラ喋る粗大ゴミ、悔しいかな。




「▼▼」




痛みは幾分と、和らいでいた。




(耐久性、力量)




片方を軸とし、一方の足を引く。



構えは低く、放つ一歩。




「▼!」




(まずったッ__)




目算20m、1秒。



赤身まみれた景色、ぶつかる直前で屈ませた膝。



溢る速度も上乗せて、地を離す。




「おわ、ちょ!」




風景は空と、見下ろす街並み。



思いがけぬ超跳躍は、戦う少女のテンプレート。




(直飛び でないにしても、ここまで高さを得られるとは……)




ビチビチと靡く、大ぶり髪。



感心 過ぎ去り、背がヒヤリ。



黒能面は無段階式に、視点を天から地へ。




「ウ……」




ジーンと、足裏から昇りくる負荷。



顔が顰むヒーロー着地。




「運動力、跳躍力」


「共に申し分なし、と」




ただし、距離のある落下は避けたい。




「▼▼▼!」




「__」




飛び越えた為に、ノイズは背中越し。



迫る。




「っと」




「▼ッ」




180°。



体返しと 回避は同時。



空振る肉握りで、私の居た平砂が歪む。




「良し、今度はしっかり避けられた!」




すかさず懐。




「御返し」




「__▼ッ」




中手指節関節から上腕骨頭へ伝う、殴打命中の好感触。




「まだまだッ」




後方へ転がる朱団子、よろけ混じりで踏ん張る様へ助走。



目前で捻り跳ね、威力は脚に。




「▼__」




回し蹴りが脇腹へ沈み。




「__▼ッ?!」




“く”の字も束の間。



水平に弾かれピチャピチャポチャ、ジャングルジムが受け止めた鳴動。




「▼”▼▼……ッ」




食い込む編み鉄、猪口才に悲痛な唸り。



一部絡まった肉と、伏した現状解決に、蠢く。



感じた既視感はいつかの赤子、有刺鉄線に着飾られていた艶笑譚。



即日撤去された敏捷さ。




「孤面」




『如何したかな』




「必殺技とかって、有る?」




猿真似ジークンドースタイルで、削がれた脈絡の乏しき問い。




『各々に定められた能力は無作為、故に必ず殺せると顕示は__』




「ねえ、”有る”かどうかの質問ならさ」



「”有る” か “無い”か、で答えてくれないかな」




チョッ切る与太予防線。



浪費お面へ突きつける、二本となった短糸。




『ある』




スルりと左一本、先端にはYESと書かれた白紙がペラり。




「発動は、どうすればいい?」




『初期微動は ”コマンド”』



『すまないが、後の言葉は君次第だ』




「了解、私次第ね」




文末を濁す非効率は、一旦捨て置く相槌。




「▼▼▼」




裂き剥がれる筋や皮、ブチビチと。



脈打ちに比例する血飛沫、再起の予兆と期待が催促止まず。








「__コマンドッ」




右手に激熱。



吹かれた火の粉は根を広げ、瞬時に腕を炎で満たす。




(腕、炎………パンチか)




泥臭い単調に咲く、魔法紛い。




「▼▼▼▼!!」




「フッ__ハッ__」




反復で詰め、距離を稼ぐ発作の心電図。



伸ばせば一線、上乗せる速度の一閃。








狙うは一点。



黒の面。








「バーン!」




「▼ッ___」




柔らかに、砕き進む拳。



トンネルが開通迫る頃、肉中へ炎が集結。



爆炎に頭部が膨張、風穴を開けるより先に、真横で破裂した。




「___」




爆散、右頬に付着する血肉と脳片。



粉々となった黒、虚しく途絶えた叫び。




(中身、人間だったんだ)




ラストヒットのスローアングルに類す余韻、小さな瞳に内を知る。








「……倒せた」



「いよっしゃ!」




ガッツポーズ、焦燥は皆無。



敵を倒したなら、もちろん次は。




「ん……っと」




境目に爪を掛け、ヌルり外れた硬質パック。



視界良好になったかと思えば、身なりは既に元通り。




ここで変身を解くと、脚が汚れるのでは。



思うも遅く、ローファー裏に湿着く脳梁へ、大きく悔恨。




「?」



「本当に、倒した……よね」




もちろん次は。




『仮面を破壊し、残るは文字通り肉塊』




「そう、それ」




『?』




辺りは血臓無象、スクラップ。



過去となるはずで、今尚続くバックトラップ。




「倒した後、敵の残骸が消えないのは何故?」



「それに遊具や中の人間も、修復されないまま……」




次は、旧に復す。




『君の思うヒーローは、それが常套なのか』




当たり前の如く、疑うこともなく。




「……」




『輓近で話したように、絵空事とは訳が違う』



『転がる血肉、壊れた固体』



『主犯を殺せば再生するのか?』



『結果 出来た死骸は、君を殺せば生き返るのか?』




睥睨を見上げる表面、ベラベラベラ。



蛇に足が生えて、十も百も。




「くどい、一行で言って」




『倒したとて過程含め、消えはしない』




つまり、固定観念。



バカの一つ覚えが根付いていた私こそ、真に物知らぬ門徒。



肩が落ち、腕が垂れ。




『従い行動は、御早めに』




仰ぐ空へ、舌を打つ。








「あっそ……」




確信痛感、この婉曲非能不燃仮面と。








相容れることは、出来ない。




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