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5階

僕らは5階に着いた。

 階段を上った先にはすぐに両開きの大きな扉があった。ここにはまどろっこしい雑魚もいないしただボス部屋に繋がる扉しかない。


 ここを開ければ…………


 「イミリア、開けて大丈夫か?」


 「……ああ、大丈夫だよ」


 僕はもう何も迷うことなどなかった。そもそもこんなに迷うことがあったことなど先程ナーシンに告白しようか悩んだことが初めてだったくらいだ。それ程今まで迷わず生きてこられたのだ。

 生まれてすぐに山に捨てられた時だってすぐに師匠の住む山小屋まで這って行けたし、仙人になるための修行をした時だって師匠に二言目には「よく出来た」と褒められた。どんな秘術も魔法も呪いも習得するのにそんなに時間もかからない、そんなイージーモードな退屈な人生だった。

 だからこそ、ナーシンが意のままにならないことがとても楽しかった。混乱したり怒ったり泣いたり、こんなにも自分の知らない自分を引き出してくれるナーシンが僕は好きだ。


 だからこそ僕はもう迷わない。君の言う『愛』が相手を信じて思い続けるものならば…………


 ナーシンはゆっくりと扉を開ける。


 中はいつもの通り、真っ白い世界があった。奥には玉座があり、いつも通り天女達が右往左往している。そして僕を見つけるや否や整列する。


 「「「お帰りなさいませ、イミル様」」」


 「ここは……ラスボスはどこに……」


 ナーシンがラスボスをキョロキョロと探しているのを横目に僕は玉座へ歩く。


 「イミリア!あまり奥に進むと危な………!」


 「よく来たな挑戦者よ」


 僕はドサッと玉座に座り、腕を組む。


 「!!」


 ナーシンは心底驚いたように目を見開く。


 「イミリア、どういうことだ……」


 「そのままの意味だよナーシン。僕が、僕こそがこの試練の塔の最上階のラスボス、イミルだ」


 「なんだって……そんな……」


 ナーシンは明らかにショックを受けている様子だ。


 「何故……教えて欲しい…何故ここの最上階のラスボスが俺と行動を共にしたんだ……?」


 「そりゃあ……挑戦者がたまに見る程度の強さだったからどこで死ぬのか見届けるのも一興だと思ったんだよ」


 「でも貴方は何度も俺のピンチを救ってくれたじゃないか!!」


 「救った?君、本当に馬鹿だね。ミシェルの言ってた通り学が足りない。ここの試練の塔は自分で乗り越えてこそ強くなれるものなんだよ?それを他人に手を借りっぱなしじゃあなんの意味もないじゃないか。つまり僕は最初から君の妨害をしてたに過ぎないのさ」


 僕はわざとらしく嫌味たっぷりに答える。


 「そんな……俺を騙していたのか…?」


 僕はニヤリと笑い、立ち上がる。


 「『騙していたのか?』ってなんで疑問形なんだい?こんなの騙した以外の何者でもないだろう?それとも未だに夢のなかなのかな?だからそんな寝言を言うんだろうねえ!?」


 僕が大声で笑うと天女達も一斉に笑い始める。その様子にナーシンは黙りこくってしまう。


 「そうだ!面白いことを提案してあげよう!君は思ったほどの実力者でも無さそうだし、万が一、いや、億が一僕に勝ったら褒美をあげようじゃないか。この部屋にある金の花瓶を全てお前にやろう!」


 この部屋に置いてある花瓶は全て本物の金で作られている。売ったら多分ナーシンの家は大金持ちになれるだろう。


 「…………もし、俺が貴方に負けたら……?」


 「おやおや、最初から負けることしか考えてないのかい?よっぽどの腰抜けだ。そんな腰抜けはそこの窓から飛び降りてもらおうか!」


 僕は大きなガラス窓を指さす。

 本当は負けた挑戦者はここから放り出して死んでもらうという先代からの謎ルールがあるのだが大抵のものはその下に生えている大きな木に引っかかり、無事に帰っているんだとか。それにナーシンの身体能力なら木に引っかからなくても生きてるかもしれない。


 「さあ!君との茶番も終わりだ!どこからでもかかってこい、挑戦者よ!!」


 これだけ嫌味タラタラに言われ、更に自分を裏切ったともなれば戦わない理由などあるまい。


 僕は最初からここで負ける気である。そしてナーシンには無事に花瓶を持って町に帰ってもらい、立派に騎士にでもなって幸せを掴んで欲しい。正直未だにここにナーシンを閉じ込めて一生一緒に居たいという気持ちは死ぬほどある。でも今の僕はそんなことしてナーシンが幸せになれないことを知っている。幸せじゃないナーシンと共にいるより、幸せなナーシンを遠くから見守るということを選んだのだ。


 「どうした?怖気付いちゃったかな?」


 僕はピクリとも動かないナーシンに挑発をする。


 「…………ひとつ、質問をしてもいいだろうか?」


 「なに?僕は結構忙しいんだよ。手短にしてくれないかな?」


 「貴方は俺が勝っても負けても、俺の町には来てくれないのか?」


 「は?何言ってんの?そんなの当たり前じゃないか」


 「貴方は、俺が故郷の話をした時に『楽しそう!』、『ぜひ行ってみたい!』と言っていたようだが」


 「そんなおべっかを信じるほどアホなのか君は」


 「じゃあ、おべっかを使ってない貴方でも、本心の貴方でも、それでも来てくれないのか?」


 「さっきからなんの話ししてるんだよ。行かないったら行かない」


 僕はキッパリと言い放つ。


 「そうか…………」


 ナーシンは俯く。そしてそのまままた喋りもせず動かなくなってしまった。

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