「い、いやだなぁ……人違いですよ……ははは」
あることから犯罪の濡れ衣を着せられた少年と、指名手配犯の少女(?)の物語です。
パッと思いついたものをまとめたものなのですが、読んでいただけると幸いです。
まずい! まずい! まずい! 脱獄したのが確実にバレた! 看守と思いっきり目が合ってしまった!
「追え!向こうに行ったぞ!」
夜の冷たい空気をかき消すように、背後から足音が迫ってきている。
はやく、はやく、隠れる場所を探さないと!
路地を右に左に駆け巡り、どうにかして追手を巻こうとするが相手は体格が2倍もある男だ。 息切れがひどくなってきて、横腹がちぎれそうなぐらい痛み出した。
「くそ! こんな狭いところに入りよって、あの小僧! どこ行きやがった!」
倉庫と路地の隙間に無理やり体をねじ込み、息を殺す。 目の前を男がドタドタと通り過ぎ、難を逃れる。 一応のため、3分ほど続けて潜んでおいた後、夜の静けさが再びやってきた。
もう、もう、大丈夫だろう、周りに足音は聞こえないし。
「はあ、よかったー……」
隙間から這い出し、緊張で固まっていた体をほぐす。
ひとまず、脱獄は成功ということでいいだろう。 よかった。 だがしかし、この後はどうしよう。 街には多分戻れないだろうな、放火犯か殺人者っていうレッテルを貼られているに違いない。 あれを起こしたのは俺じゃなくて、あいつだっていうのに。 全く、あいつは昔っから迷惑ばっかで挙句の果てにはこっちに犯罪の濡れ衣を着せてどっか行きやがった! もう一度会った暁にはこの手で殺してやる!!!!
それはともかく、とりあえず寝床の確保をしないとだな。 そんなことを考えながら、細長い路地に入っていった。
「あれ? もしかしてお前、巷で噂の放火魔?」
安心した矢先、目の前を通りかかったフードを被る女に声をかけられた。 しかも、最悪な一文で。
「い、いやだなぁ……人違いですよ……ははは」
だめだ。あからさまに視線を逸らしてしまった挙句、どう考えても自分だと言ってるような言葉になってしまった! 終わった……。 監獄へUターンすることに……。
「え、そうだろ。どう見ても。お前、嘘下手だな〜」
予想外の声の明るさに、恐る恐るフードから見える顔を覗く。 色白の肌に黒い目、黒いウルフカットの髪にはところどころ赤い髪も混じっている。 それから、嘲るような表情。 腹が立つ。
「はっはっは、何固まっちゃってんの? 大丈夫だよ。通報なんてしないさ。私だって、指名手配犯だからね! 安心しろよ、お仲間ってことさ!」
そう言って、こいつは驚いている俺の肩を2回叩いた。
それが、彼女との出会いだった。
「とりあえず、こんなところにいちゃあ、また捕まっちまうっしょ。おい! 一緒においでよ。犯罪者にピッタリの場所を教えてやるよ! どうせお前、犯罪初心者だろ? 」
そんなことを満面の笑みで言うこいつは、俺の手を引っ張って酒場の方へ向かっていった。 いや、犯罪者に初心も何もないから! 罪は罪だから! てか、俺犯罪してねえし! 濡れ衣だし!
読んでくれてありがとうございました。宇水天真でした。