第八章~挑戦~
なにかに縛られている自分が居た。クラスという名の扉や暴力という名の精神に縛られている。
どれだけ、歩いても学校は未だ遠くに。いや、それは、ただの言い訳だった。
唯単に寝坊しただけだったのだ……
僕はもう 学校などどうでも良くなっていた。遅刻上等。怠惰上等。
そして、本鈴30秒まえに到着。着席した。
1時間目は鳥部担当の算数の時間。
そして、暗闇に落とされた僕は幾度目かの罵声を聞いた。
「堀内!! 」
鳥部の奴、起こしやがった。
「なんだよ? 」
学校ではどうせ一人っきり。反抗した方が特だとおもった。
「教科書27ページ、問い3を解いてみろ! 」
「教科書? 」
机の中を見る。
足下が水浸しなのは、これが原因か。机の中がビショビショに濡れている。
「こんなんで、授業受けられっかよ! 」
「てめーじゃ解けないものだから、業と水かけたんだな? 」
喧嘩上等。
「鳥部、じゃあ問題出してみろよ! 」
鳥部が睨みながら問題を早口で言う。それを理解することなど、容易かった。
「答えは、20km/sだろ? 」
正解だった。鳥部の顔が引きつる。それと共に、周りからは、
「ホッちゃんって頼りになりそうだね。勉強教えて貰わない? 」
「でも虐められてるよ? そんなの私たちが潰せばいいでしょ? 」
「たしかに。頭良さそうだもんね~ 」
クノイチやその他女子数名の声が聞こえるさなか、男子たちは、
「あいつなんで解けるんだよ!? 」
「あいつが日能研はいったら、ボロボロだって。絶対に。」
「でも、教科書無しで解けるか? 」
などなど、意見は様々だったが、1つ変わった。
山口がこちらを睨まない。もう、手を出しても無駄だと察したのだろうか?
しかし、普段、寝てばかりの山口が今日ばかりは目の前をじっと見つめ何かを考えている。
そして、休み時間になった。加奈子が寄ってくる。
「この間は有り難う。」
「ううん。別に良いんだ。アイツ等が悪いんだから。」
その時、火花が飛び散った。そう、山口とクノイチとの間に。
「まぁまぁ、で、加奈子、用事とかある? 」
「うん、ホッちゃん危ないじゃない? 山口たち絶対に懲りていないから。で、クノイチで考えたんだけど、休み時間勉強教えてくれないかな?? 」
「だめかな? 」
高林まで寄ってくる。怖くはないのだが、何処か大人びている高林にはたまに参る。
「別に良いよ。何でも教えるよ。」
交渉成立というわけだ。その時、浜崎あゆみの「kanariya」が鳴った。
ヤバイ、僕の携帯だ。クノイチは円形になり、僕を隠す。
「今の内電話でなさいよ! 」
「もしもし。」
その電話は、井上室長からだった。
「はい、結果ですか? 」
「2組でも栄冠組でも良いとは? 」
「2組にとっては、十分な学力でも、栄冠組だと微妙だけど入りたいなら入れる? 」
「僕が、選んでも良いんですか? 」
「2組でお願いします。え? 理由? 」
「室長、最初からトップクラスに入っていたら面白く無いじゃないですか。」
「では、2組で決定お願いいたします。」
「ツーツーツー」
電話を切った。
僕は2組からスタートした。
「やったじゃん。」
「でもなんでトップクラスに入らなかったの? 入れたんでしょ? 」
「いや~ だってさ、最初からトップクラスだったら詰まらないジャン。スリルがないっていうの? だから挑戦する。それで一番上に行けないようだったら室長の言葉もリップサービスだったって言うことでしょ。」
クノイチも納得したらしい。
「バカいってんじゃねーよ。お前が栄冠組に入れるわけ無いだろ? 精々、2組で必死こいてろ! 」
相手は、日能研栄冠組の石川だった。
「絶対に、入る。栄冠組にね。」
「俺も麻布志望なんだよ。」
「上等だ。勝負しようじゃないか。」
「お前が栄冠組に上がってからな? 」
「上等。」
このやり取りに誰も口出しは出来なかった。
そして後日、日能研本入塾、初授業となる。