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Stage0  作者: 塚山 凍
Stage0.6:あなたが一番
40/59

離別(Stage0.6 終)

※短いです。

 これより後の出来事は全て後日談と言って良いので、記載は最小限に留める。

 まだ自分で歌ってもいないのに「後日」談と言い出すのも我ながら酷いが、気分的には本当にそんな感じだった。

 本番である合唱までの間に、色々と起こりすぎたのだ。




 まず、羽佐間による柚葉という少女への取り調べは上手く行った。

 腕について問いかけた瞬間、観念したように自ら名札を提出したらしい。

 不正のために行われた様々な小細工を思えば、呆気ない程に簡単な幕切れだった。


 しかし時間的な都合を言えば、彼女のこの割り切りの早さは良いことだっただろう。

 そのスピード感故に、二年生の部が終わってすぐ、俺たちは犯人を教師陣のところに連れていくことができたのだから。

 俺のロッカーから見つかった本物の投票用紙と一緒に。


 当然というべきか、教師陣の間では割と騒ぎになった。

 担任やら顧問やらの前で、何が起きたのかを丁寧に説明する羽目になったのは当然のことだろう。

 そう言う意味では、二年生の部と三年生の部の間にお昼休憩が挟まっていたのは、実に幸運だった。


 まあしかし、犯人が自首していたというのはかなり大きく、自然と騒動は収束した。

 程々のところで、よく正直に言ってくれた、まずはお母さんと話をしようと言う流れになったのだ。

 児童相談所への連絡先を探す教師たちの対応は妙に手慣れていて、こうなることを事前に想定していた節すらあった。


 恐らく、誰しもが薄々思っていたのだろう。

 いつかこんなことが起こってしまうのではないかと。


 それを分かっていながら未然に防げなかったのは、教師と言う立場による制約──証拠もなく生徒の家庭事情に立ち入れない──のせいだろうか。

 犯罪を未然に防ぐことを至上とする姉さんが聞けば怒りそうな理由だが、仕方のないことな気もする。

 人が手を伸ばす範囲には、どうしたって限りがあるのだから。


 無論、俺たちもそれは例外ではない。

 早々にお役御免となった俺と羽佐間は、その後普通に合唱コンクールに戻った。

 後は大人の仕事になったんだ、ということだけを確認して。


 薄情な対応にも思えるかもしれない。

 しかし、他に何かすることもできなかった。

 まだ中学生の俺たちの手の長さは、こんなものである。




 続いて、恙なく進行した合唱コンクールの話。

 こちらは、何とも地味な終わりをした。


 本物の投票用紙を元に再集計した結果、一年生はちょっと上手かった三組が優勝。

 二年生は、真面目な子が多いらしい五組が優勝。

 俺たち三年生の方も、各々が適当に歌った末に一組が優勝した。


 俺と羽佐間の属する三組は、特に良くも無ければ悪くもなく。

 こう言うとアレだが、まあこんなものだろうという出来だった。

 そんな感想が出ているあたり、どこまでも俺は合唱コンクールに対して本気じゃなかったらしい。


 何なら、俺たちが本気にならざるを得なかったのは合唱コンクールの終了後である。

 どこかで述べた通り、俺と羽佐間は委員の中でも撤収組に入っているので、仕事としてはここからが本番だった。

 荷物の引き上げに大掃除、バスの誘導から鍵の返却まで、あっちこっちへ走り回ったのである。


 全てが終わったのは、午後六時を回ろうかといった頃。

 観客席にいたらしい姉さんも飽きて帰ったのか、スマホに「お前の歌う様子は撮影しているから、また見よう」というメッセージが届いていた。

 こういう時、一人で撮るだけ撮っていくのが姉さんらしいと思う。




 ──さて、帰りはどうするか……。


 午後六時過ぎ、暗くなってきた会場入口前。

 お疲れ様でしたー、と背後で撤収組の委員が言い合う中、俺はスマホを抱えてちょっと考え込んでいた。


 撤収組はそのスケジュール上、他の生徒が使う帰りのバスで学校に戻ることができない。

 そのため、会場からの撤収が終わった後は普通に現地解散となっていた。


 しかし現地解散と言われても、ここから各自の家までは少々歩く。

 だからなのか、委員の多くは親が車で迎えに来ていた。

 子どもの活躍を見に来た親が、そのまま帰りの足になってくれているのだろう。


 ──でも、姉さん帰っちゃったからな……徒歩しかないか。


 もし姉さんに時間の余裕があったのなら、一緒に帰るという手もあったのだが、生憎とそれは不可能になってしまった。

 多分、何かの仕事が入ったのだろう。

 元々「残ることができたら残る」としか言われていなかったのだから、仕方がない話だ。


 幸いと言うか何というか、合唱コンクール委員になってすぐの頃に体験した通り、歩いて帰れない距離ではない。

 ため息交じりに、俺は足を進めようとして────。


「……松原君、待って」


 この一ヶ月程で随分と聞き慣れた声に、後ろ髪を引かれた。

 一応振り返ってみると、勿論そこにあるのは俺の彼女の姿である。

 作業中に自然と別行動になっていたのだが、羽佐間も仕事は終わったのか。


「どうかしたか?」

「いえ、歩いて帰るのかなって思って……皆みたいに、車に乗ってないから」

「ああ、ちょっと迎えに来てくれる人がいなくて……」


 そこまで答えたところで、羽佐間はどうするんだろうと思う。

 昼間に会話をした彼女の父親がまだいるのなら、あの車に乗って行けるはずなのだが。

 すると俺の思考を読んだように、羽佐間は首を横に振った。


「私も、お父さん急いで帰っちゃって……歩いて帰るの」

「あ、だったら」


 どうせなら一緒に帰ろうか、という言葉はすんなりと出てきた。

 羽佐間もまた同意見なのか、コクリと頷く。


「最初の時と同じで、長く歩くことになるけど……松原君、良い?」

「いや、一応は彼氏なんだしさ。これで駄目とは言わないだろう、普通」

「そう?」

「ああ。もう暗くなってて危ないし、一緒に帰るよ」


 妙に自信なさげな返答をする彼女に、俺は彼氏としてツッコミを入れた。

 そして、それ以上の会話はせずに自然と歩きだす。

 ほぼ同時に、羽佐間は「良かった」と呟いた。


「実は、松原君に真面目な話があったから……早いところ、伝えておかなくちゃと思って」

「……どんな話?」


 何となく察するものはあるな、と思いつつ敢えて聞いてみる。

 すると、羽佐間は一度だけ目を閉じて。

 そのまま、俺の顔は見ずに言い切った。




「別れ話」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誰かと交際することが彼女なりのSOSのサインだったとかですかね? 目的が達成されたのか、はたまた諦めたのか。 後者だとしたら手段を殺人に切り替える可能性もありますね。
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