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二つ名『名折れ』

「そこまで!」

 試験補佐官の勝負あり、の言葉に受験生達の達が騒めく。

(嘘だろう・・・。試験官から一本取ったぞ。)

(マジかよ・・・。)

(凄いな、アイツ・・・。)

 と数々の小言が聞こえる中、エリカはじっと試験官に勝ったカリウスに注目。

(凄い・・・。)

 試験官の攻めを華麗に躱し防ぎ、力強い攻撃で試験官を圧倒。

 唯一の勝利者として壮大な拍手を受けているカリウスに尊敬とライバル心が湧き出す。

(私も負けてられない!)

「424番、エリカ=ウィズガーデン。いないのか?」

「あっ、はい!」

 何度も自分の名前を呼ばれていたことに気付いていなかったエリカは慌てて返事。舞台へと上がる。

(おい、今エリカって呼ばれたか?)

(エリカってあの『名折れ』の?)

 陰で不名誉な二つ名を指差す周囲に胆力で無視。

 目の前の試験官に集中する。

(ほう、この子も中々有能のようだな。)

 試験官は模擬剣を構えるエリカの第一印象をそう判断した。

「それでは、はじめ。」

「来なさい。」

「はい。」

 試験官の胸を借りる思いで攻めるエリカ。

(いい攻撃だ。一撃一撃にキレと強さがある。足捌きも悪くない。)

 試験官歴25年の大ベテランがエリカの攻撃面に合格点を与える。

(さて、それでは防御面をみせてもらおうかな。)

 エリカの連続攻撃をあっさり流すと反撃に転じる試験官。

(ほう、体勢を崩されても上手く防ぐとは。ふむふむ、悪くないぞ。)

 試験官の重たい一撃に対して上手く力を逃がして受け止めるエリカ。

 その技術の高さに試験官の口元が緩む。

(素晴らしい、A、いやSクラスでも十分通用するぞ。)

 有望な若手の出現に将来への期待を膨らませる試験官。

 その時、エリカは試験官の予想を上回る動きを見せた。

「そこ!」

 刀身を滑らせた事で試験官の体勢を崩したエリカ。

 エリカの渾身の一撃を試験官は長年の経験で培った反応で防いだ時だった。

バキン!

「あっ!」

「なんと・・・。」

 なんとエリカが手にしていた模擬剣が真っ二つに折れたのである。

 折れた刀身が宙に舞い、カランカランと虚しい音を鳴らす。

「そこまで!」

「・・・・・・、ありがとう、ございました。」

 終わりの合図に悔しさを押し殺して一礼。その場から走り去る。

(ほら見ろ、またやった。)

(騎士の恥だな。)

 ちらほらと聞こえる陰口から逃げ出したエリカを試験官はただ見送るのみ。

(惜しいな。)

 ただこの一言しか言い表せなかった。


「待って!待ってくれないか!」

 試験会場を出たエリカの後ろ姿を呼び止めるのはカリウス。

「エリカ、君だったよね。」

 足を止めたエリカに追いついたカリウスは名前を確認する。

「私に何か用ですか?」

 平常心を保つために大きく深呼吸した後、用件を聞く。

「その前に自己紹介だね。僕の名前はカリウス。勇者のカリウス=バードナーだ。」

 右手の紋章を見せつけるカリウスにもう一度、用件を尋ねる。

「君に一つ助言をしたくてね。」

「助言、ですか?」

 少し興味を惹かれ、耳を傾ける。

「ああ、悪いことは言わない。剣を諦めた方がいい。」

「っ!」

 心臓が締め付けられる思いだった。

 初対面でまともの話したことがない相手に面を向かって言われた事に大きなショックは受けたのだ。

 そんな苦しい思いをしているエリカに対してカリウスは饒舌に自分の考えを語り始める。

「さっきの剣を折る行為。あれは剣を極める者としてはあるまじき行為だ。そう、剣の才能は一切ない。君が剣士でいる事は周囲に迷惑をかける。」

(何よ、私の気持ち、思いも何も知らない癖に。)

 落ち着かせた気持ちは一瞬で崩れ、悔しさが先程以上に込み上げてくる。だが、カリウスは相手の気持ちなど一切考慮せず、話し続ける。

「とはいえ、君の足捌きは見事だったよ。そうだね、弓兵としてなら大成できるかもしれないな。」

「弓兵・・・。」

「あ、戸惑うのも無理もない。多分一度も弓を扱ったことはないはず。不安なのはわかるよ。でも大丈夫、この僕が一から教えてあげるよ。こう見えて武器の扱いは一通り習ってきたからね。」

 励ましの意味を込めたのだろう。気軽にエリカの肩を軽く叩く。

「という事だから。入学したら気軽に僕の所へ来てくれたまえ。優秀な弓兵にしてあげるよ。では。」

 一方的に会話を終わらし、試験会場へと戻るカリウス。

 エリカはただ両手を握り締め、そして唇を噛み締めてその屈辱に耐えるしかなかった。


「ユーノ、お前は何を考えておるのだ!全く!」

 試験から数日後、家に訪れたアルベルト。

 バン!と力強く机を叩いたので、机上のカップや皿が宙に舞う。

「試験官の顔に足蹴りなんぞ前代未聞だそ。」

「まあまあ、落ち着いて。」 

「落ち着いていられるか。下手すれば不合格だったのだぞ。」

「ということは合格、ですな。アルベルト殿。」

 ガウルの問いに、苦い顔を見せながら懐から分厚い封筒1通と学生証を机上に置き、ユーノに渡す。

「合格おめでとう。ゲイツと同じくFクラスだ。」

「ありがとう、アルベルトさん。」

「おめでとうございますユーノ様。いや~、安心しましたよ。」

 この数日間、不安のあまり不眠症を患っていたガウルが胸を撫で下ろす。

「全く肝が冷えたぞ。最後の模擬でかなりのマイナスを受けたが、筆記と身体測定が高得点だったおかげでギリギリな。」

「でもアルベルトさん。俺はあの試験官にはちゃんと確認したよ。」

「ああ、その話は聞いた。全くゴルドーの奴め、試験を私物化しよって。」

「という事はやはりこの者は自分勝手にルール改竄していたのですな。」

「ああ、気を失っている数日の間に同僚から事情を聞いてな。まだ病室にいるが退院したら即懲罰だな。」

「それはご愁傷様だね。」

「自業自得ですな。」

 ガウルが鼻息を荒くしてセリフを吐き捨てる。

「さてと、合格お祝いにご馳走でも用意しようかな。アルベルトさんも食べていく?」

「ご相伴に預かろう。」

「では我は村の者達にユーノ様が合格した事を報告してきましょう。皆、首を長くして結果を待っておられるはずです。」

 ガウルが応接室から出ていくのを見送った後、炊事場へ向かうユーノはふと、思い出しUターン。ゲイ・ジャルグの元へ。

「合格したよ、父さん達。」

 ゲイ・ジャルグを撫でると向こう側から「よくやった!」「今夜は宴じゃ!」の賛辞が伝わってきた。

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