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試験

「絶好の試験日和ですぞユーノ様。」

 快晴の青空へ合格必勝の遠吠えをあげるガウル。朝から近所迷惑である。

「筆記用具は持ちましたか?受験票は?急な腹痛があるかもしれませんので薬の用意を。あ、誰かが妨害するかもしれないので呪い返しの札…、いや、魔物避けの札も用意した方がいいか・・・、」

「ガウル、緊張し過ぎ。」

 あたふたするガウルとは対照的にユーノはどこを吹く風の如く平常心。普段と変わらない。

「それじゃあ、いってくるよ。」

「ええ、参りましょう。」

「・・・・・・、もしかしてついてくるつもり?」

「当たり前です!」

 息巻くガウルに何を言っても無駄だと判断したユーノ。

「いいけど、大人しくしていてよね。」


 学園は到着するとそこには大人数の受験生で溢れかえっていた。

(ルシアとエリカはいるかな?)

 二人の姿を探してみるが、人が多すぎて見つけることが困難。瞬く間に試験官の誘導が始まったので探すことを諦めて試験に集中。

 午前は全学科共通の筆記試験。

 配られた用紙に書かれた問題を読み解き解答を記入。

 手を止め無音で唸る者、髪の毛を掻き毟りながら解答する者、緊張な面持ちで手を動かす者、軽快に解答欄を埋める者。

 各々のペンで書き込む音と秒を刻む音のみが支配する静寂の試験は昼時のチャイムによって終焉を迎えた。


「中々の好感触ではないでしょうか。」

「そうだね。」

 中庭にて自作の弁当を食しながら自己採点を行うユーノ。

「やはり村の者達が一致団結して教えた甲斐がありましたな。」

 ガウルは影の中から話しかけているのでは第三者の視点ではユーノが独り言を話しているようにしか見えない。

 少し不可解な視線を向けられるも気に留めることなく会話を続ける。

「本当だね。特にマイクには大いに助けてもらったよ。」

 駐屯騎士のマイクは学園の卒業生。

 学生時代に試験監督をしていた経験を生かして、試験傾向や対策を惜しみなく授けてくれたのである。

「そうですな。マイク殿の勤勉さには頭が下がります。」

 わずか4年という短い間柄であるが、ガウルの中ではマイクの評価はかなり高い位置にいる。

「この調子で午後も頑張りましょう。目指せ首席です。」

「はいはい。」

 意気込むガウルとは対称に普段通りのユーノであった。


 午後は学科別での実技試験。

 魔術科は魔力量検査の後、実演。

 騎士科は身体測定と体力テスト、そして模擬戦が行われる。

「流石ですな、ユーノ様。」

 持久走グループトップで終えたユーノに賞賛を送るガウル。

「またまたさ。組分けがよかっだけさ。」

 受験者がかなり多い為、いくつかのグループに分かれて測定。

「ご謙遜を。軽く流しての1位。お見事でございます。」

(スパルタ指導の賜物さ。父さん達のね。)

 ゲイ・ジャルグへお礼のグータッチ。

「それでは最後に模擬戦を行います。」

 試験官の指示に従い、案内されたのは複数ある訓練場の一部屋。

「今回お前達の試験担当のゴルドーだ。」

 耳を突き刺すような大声。

 一段競り上がる舞台上で仁王立ち。

 彼の高圧的な言動に萎縮している受験生が何人か見受けられる。

「試験内容を説明する。いいか、どのような形でもいい。この俺から一本取れれば合格だ!」

「試験内容、変わった?」

「みたいですな。マイクの情報では動きを確認するのが目的で一本取る取らないは関係ない、と仰っていましたが。」

「それでは早速始める。」

 舞台端にいる補佐2名のうち1人が受験番号と名前を読み上げる。

「お、お願いします。」

 緊張した面持ちで舞台に登り、模擬剣を構える。

「それでは、はじめ!」

 模擬剣を構えたゴルドーが自分のタイミングで開始の合図を出しての先制攻撃。

 意表をつかれた受験者は何もできずに吹き飛ばされる。

「何をしている。やる気あるのか!」

「めちゃくちゃですな。」

 影の中から事の成り行きを見ていたガウルがダメ出し。

「あの試験官、相手を見定める気持ちがありませんな。ただ自分が気持ちよく打ち負かす事しか考えていないようですぞ。」

 めった打ちに遭った一人目が足を引きずるように降りると入れ違いに二人目が舞台の上へ。

 前の人の状況を目の当たりにしている為、顔は真っ青。

 それをみてかゴルドーは自分の合図より先に動き、受験者を吹き飛ばす。

「どうした!気が緩んでいるぞ。」

「何が、気が緩んでいるぞ、だ。ゴルドーの奴、毎回自分勝手にしやがって。」

 舞台袖で採点している試験補佐官の内の一人がため息。

「しかし今日は一段と酷いな。何かあったのか?」

「ああ、この前ゴブリン討伐で遠征に出たんだが、到着する前に逃げられたそうだ。しかも痕跡も消されていて追跡不可能。成果なしで帰ってきて上司から叱責されたそうだ。」

「なんだよそれ。憂さ晴らしをここでするなよ。」

 ちょうどその時、ゴルドーの容赦ない突きが受験者の鳩尾に突き刺さり悶絶。

「おい、これどうする?」

「後で個別に呼び出して型を見て決めればいいだろう。」

 この二人の試験補佐官はゴルドーより後輩で地位も低い為、彼に対して強く言い出せないのだ。

「おい、次を呼べ!」

 ゴルドーからの怒号の指示に苛立ちを腹奥に沈め込めて受験番号を読み上げる。

「774番、ユーノ=トライシア。」

「さて、行きますか。」

 自分の番号が呼ばれたので舞台に上がる。

「よろしくお願いします。」

 普段通りの面持ちで礼。

 愛用の棍を構えて準備万端、開始の合図を待つ。

 だが、「キサマ、なんだそれは?!」

 ゴルドーの怒号に流石のユーノも困惑。

「この試験は剣の使用しか認められていないぞ!」

「えっ?武器は何でも使用可だって聞いていたのですが?」

「何勝手な事を言っている。」

「勝手な事を言っているのはお前だろうが。長物が苦手だからって勝手にルールを変えるなよ。」

「おい、大丈夫か?保護者からクレームは出ないか?」

「・・・・・大丈夫だ。あの受験生は地方からで有名な貴族出身でもない。」

「おい、ごちゃごちゃ言ってないで早くコイツに模擬剣を渡せ。」

 ゴルドーの指示に、苛立ちながらユーノに模擬剣を渡す試験補佐官。

「はぁ、剣は苦手なんだよな。」

 ユーノの呟きが試験補佐官の耳に届いた。

「どうだ?」

「あの受験生、剣が苦手らしい。」

「仕方がない。あの受験生も後で呼び出して型を見せてもらおう。」と話している内に試験は始まる。

 怒涛の攻撃を繰り出すゴルドーに対してユーノは不恰好な動きで防ぐ。

「なんですかこの試験官は!相手を試す気が全くありませんぞ。」

 ガウルが影の中で猛抗議。

 身勝手だがゴルドーの腕は確か。

 一切の手加減なく攻め続ける彼に対してユーノは防戦一方。

 しかしその動きにはかなりの余裕が。

 それもそのはず。常日頃三大魔王の父親達から指導を受けているユーノにとってゴルドーの攻撃は天と地の差があるのだ。

(さぁ、ここからどうするべきかな?一応、手はあるけど・・・、あれは目立つしここでは使いたくないな~。)

 ゲイツから受け継いだ唯一の技が一瞬浮かんだが、すぐさま却下の印を押す。

(何かないかな~~~。) 

 とその時、ユーノの頭にある案が浮かび上がる。

「あの、すいません。質問なんですけど。」

 後ろに飛び退き、手を挙げて質問。

「何だ!?」と少し息切れしているゴルドーは声を荒げる。

「どんな形でも一本取ればいいのですよね?」

「そうだ。俺にどんな形でも一撃入れれば合格だ。」

 言質を取ったユーノは「わかりました。」と頷き、再び構えるとその場にいた者達全員目を丸くする。

 半身の体勢で左手を前に突き出し、剣を持つ右手を後ろに引いた構え。

「やり投げ?」

 受験生の一人がボソッと漏らしたのが合図となった。

「せ~の!」

 右腕を振り抜いて模擬剣が勢いよく投射。

「ひぃ~~~。」

 猛スピードで迫りくる模擬剣を間一髪躱したゴルドー。

 剣が壁に深く突き刺さるのを目撃して回避できたことにほっと安堵。

 しかし情けない悲鳴と無様な避け姿を曝した事に気付き、恥ずかしさを誤魔化す為に大怒号。

「キサマ!剣を投げるとはどういう―――――。」

 だが、ゴルドーは最後まで叫ぶことが出来なかった。

 何故なら宙を舞うユーノの足裏が目の前に迫ってきていたから。

 ユーノの華麗な飛び蹴りはゴルドーの顔面にクリーンヒット。

ゴキッ!

 何かが不規則な曲がり方をした音と地面に後頭部を打ちつけた音が体育館中に響き渡る。

「・・・・・・・。」

 大の字で青天のゴルドー。

 意識を失った彼を見てユーノは一言。

「あれ???もしかしてやりすぎちゃった?」

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