表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/71

最後の試練

 闘技場に響く戦いの音。

 剣同士のぶつかる金属音に地面を蹴る音が反響。

 傭兵達は倒され、意識があるのはトマス達のみ。

 彼達は息を殺すように身を隠していた。

 自分達には何もできない現実が突きつけるこの状況。 

 出来ることはただ祈る事だけ。

 目の前で戦っているエリカに心の中で応援する事しかできなかった。 

 

 一方のエリカは満身創痍。

 攻めるも簡単に押し返され、地面に転がされる。

 何度も何度も。

 遊ばれている、掌の上で転がされているとしか思えない。

 剣が一切届かない、圧倒的な力の差がある相手に只々転がされるだけ。

(どうしたら、どうしたら私は勝てるの?ねえユーノ、教えてよ・・・。)

 気を失うユーノの方をチラ見。

 彼からの返答はない。

 その事がエリカに悲壮感がのしかかる。

 勝てる手立てが見つからない、絶望的な状況。

 それでもエリカは闇雲に剣を振り続ける。

 どんなに空振りしようとも。

 どんなに心を折られようとも。

 それでも剣を振るう。

 相手に刃を向ける。

 なぜならそれしかできないから。

「がはっ!」

 攻撃は空振り、ガラ空きとなった腹部に柄頭がめり込み、息が止まる。

「ふん!」

 宙に浮くエリカの頭を鷲掴み、地面に叩きつけるジーノ。

 意識が一瞬だけ飛ぶ。

 目の前にはジーノが握る剣。

 エリカは転がって間一髪避ける。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・。」

 全身に走る痛みを堪えて立ち上がるエリカ。

 息を出来るだけ整え、再び動き出す。

 スピードは乗らない、いつもより鈍いが足を止めることはしない。

 止まれば負ける。

 自分だけではなく、最愛の人までも殺される。

 だから動く。

 地面を駆け、何度も剣を振るう。

 その刃が相手に届かなくても。

 押し切られ、何度も地面を舐めようとも。

 何度も立ち上がり、何度でも立ち向かう。

 声は枯れ、体力を削られようとも。

 腕が重くても、足が鈍くなっても。

 頬や肩、身体のあちこちに傷ができ、血が地面に落ちるのも構わず。

 意識が朦朧、視界がぼやけても尚、構えを解く事はしない。

 型も構えもない、無様な恰好を晒してでも立ち向かう。

 でもエリカの刃はジーノには届かない。

(勝てない。でも、勝ちたい。例え勝つ手立てが一切なくても・・・・。私は勝ちたい。)

 何度、地に膝をつけたかわからない。

 時間の感覚が全く無くなったのだ。

 痛覚は完全に麻痺をし、痛みすら感じない。

「――――――。」

 ふと、ぼんやりとした視界にトマス達の姿が。

 叫んでいるが、エリカには何も聞こえない。

 彼達の声を聞き取る力も残っていないのだ。

 眼の焦点も合わず眼の光も僅かな灯程度。

 それでも立ち上がる。

 どうして立ち上がっているのか?

 自分でもわからない。

「はぁ・・・・・、はぁ・・・・・。」

 息する体力さえもない。気力も使い果たしている。

 でも剣を構えるのは止めない。

 足を前に出す。が動かない。

 心は折れず、前へと向かうが身体は言うことを聞かない。

「ま、だ・・・。わ、私、は・・・・・・。」

―――何故(なにゆえ)だ?何故(なにゆえ)力を求める?――

え?

 脳内に直接問いかけてくる声。

 その声は今まさに対峙しているジーノの声であった。

――お前は何故、力を求める?我が剣を求める?―――

そ、それは・・・・。

――名声?それとも金か?己の欲か?―――

・・・・・・。

――答えるのだ。何故(なにゆえ)この剣を欲する?―――

 エリカの瞳から光が消える。

 意識を手放し、暗闇の底なし沼へ沈む。

 問いかけにも答えぬまま、奈落へと沈む感覚だけが残る。

私は・・・・・。

 瞼が閉じられ暗黒の檻へ閉ざされた中、見えた一筋の光。

 そこには見覚えのある親友の女の子と親愛なる人の顔が。

 魔法を受け、気を失うユーノ。

 そして困憊の中、欠け無しの魔力で回復魔法を施すルシアが。

まだだ。

私はここで倒れる訳にはいかない。

 光に手を伸ばし、檻を壊す。

――何故(なにゆえ)だ?何故(なにゆえ)この剣を欲する?名声か?金か?己の欲か?――

「私が力を欲するのはただ一つ。ユーノの力になりたいから。背中を守りたいから。ずっと一緒に。ユーノとルシアと一緒にいたいから。だから二人を守れる、支える力が欲しい!だから、その剣が必要なの!」

 その瞬間、エリカの視界は晴れ渡り、意識も周囲の声を聞き取れる程はっきり。

「ハッハッハ!愛する者と同じ者を愛する友の為か!それはいい!」

 腹を抱え大笑いするジーノ。

 その視線は気を失うユーノの方へ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 誰にも聞こえない小さな独り言を呟き、そしてエリカに向き直る。

「この心意気、実に清々しい。いや好ましいぞ。」

 ふと視線が手元にある剣に。

 自分が創った中で一番だと言える最高傑作の剣。

 鍔の中心部に埋め込んだ魔石がキラリと光り、ジーノがほくそ笑む。

「(ほう、お前も好ましく思うか。)ならばこの大魔武王が最後の見極めを行おう。」

 上段の構え。

「この一撃で終わりにしよう。耐えることが出来ればお前の勝ちだ。」

 今持つ全ての力を手にする剣に込め構えるその先には満身創痍の中、立ち向かうエリカ。

(怖い・・・、強い。)

 ジーノから発せられる圧が凄まじく一瞬怯むが、それ以上に一矢報いたい意思が上回る。

「ゲイ・ジャルグの剣、お願い。ほんの少しでいい。私に力を貸して。」

 剣全体が光り輝き、エリカの想いに応えるゲイ・ジャルグの剣。

 痛みと身体の重さは消え、力が湧き溢れる。

「ありがとう。後は私が勇気と意地を見せるだけ。」

 平青眼(ひらせいがん)の構えで対峙するエリカの真剣な眼差し。

 それを垣間見て満足気なジーノ。

「エリカ=ウィズガーデン。ワシの一撃を受けてみろ!」

 地面を蹴るジーノ。

 エリカも駆ける。

「ぬおおおおおおおお!」

「はあああああああ!」

 正面衝突する渾身の一撃。

 その余波で瓦礫が飛散、目が眩む程の光が部屋を覆う。

「・・・・・・・。」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」

 全てが静まった頃合い、部屋の中央で背中合わせで立つジーノとエリカ。

 平然と仁王立ちを見せるジーノに対して、肩で息をし続けるエリカ。

「くっ。」

 気力が底を尽き、地に膝をつけたのはエリカだった。

「届かなった・・・。」

 エリカの一撃はジーノの一撃に飲み込まれてしまったのだ。

「確かに・・・。お前さんの攻撃はこのワシには届かなかった。」

 大きく息を吐き、エリカの前に立つジーノ。

 その佇まいにはまだまだ余力を感じる。

「だがワシの一撃を耐えたのも事実。実に素晴らしかったぞ。」

 ニコッと子供みたいな満面の笑みを見せるジーノ。

 それはユーノと面影が重なる。

「お主こそこの剣を持つに相応しい。さあ受け取れ。」

 剣を鞘に納め、差し出すジーノ。

「私に?」

「そうだ。この剣はお前さんを(あるじ)と認めたのだ。ほれ、受け取れ。」

 恐る恐る剣に触れる。

「っ!!」

 全身に駆け巡る電撃。

 直感が走る。

 まるで元々、自分の身体の一部かのように。

 今まで欠けていた一部を取り戻したかのように。

「鞘から抜いてみなさい。」

 言われた通りにする。

「剣身の光沢が違う。」

 ジーノが手にしていた時は青白く輝いていた剣身。

 だが今は白金に輝き、若干のオーラが漏れている。

「その剣は生まれて間もない、まだ名もなき剣だ。その剣が聖剣と謳われ世を残すか。それとも邪剣として呪われた半生を送るのか。それとも他に埋もれ、存在が知られる事無く消えるのか。それはお前さん自身に委ねられる。」

「私次第・・・。」

 エリカの言葉に鍔の中心部に飾られた魔石が一瞬虹色に光る。

「そうだ。だから励むのだ。その剣と共に成長するのだぞ、エリカ=ウィズガーデン。」

 ポンっと肩を優しく叩くその姿は我が子の巣立ちを見送る父親のよう。

「では、また会おうエリカ=ウィズガーデン。」

 右手を挙げたのを合図にジーノの姿が徐々に薄くなり、そして煙のように消えた。

 まるで最初から存在していなかったかのように。

「・・・・・・・。」

 呆然と立ち尽くすエリカ。

 今起きていたことが夢ではないかと錯覚に陥っていたのだ。

 我に返ったのは1分後。

 ユーノの事を思い出し振り返ったその瞬間、突如エリカ達の足元に巨大な魔方陣が。

「これは・・・・。っ!ユーノ!」

 駆け出そうとした瞬間、魔方陣は発動。

 エリカ達は強制的に転送される。

 誰もいなくなったダンジョンは崩壊し始める。

 静かに、誰にも邪魔される事無くゆっくりと。

 こうして、ジーノが創造したダンジョンは世に知られることもなく消え去ったのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ