大魔武王ジーノ
「ど、どど、どういう事だよこれは!!」
次々と悲鳴が挙がる中、ただ一人平然としている者が。ユーノである。
「どうもこうも、さっき言っただろう来る戦いと。これがそうだ。」
「来る戦いだと!」
「大魔武王ジーノが自分の創りし武器を与える際、条件がある。それは使い手がその武器に相応しいかどうか。そしてその判断が自分と手合わせして実力を示すこと。さっきの部屋は宝部屋ではなく、自分へ挑む為の武器部屋に過ぎない。」
「ガッハハハ、そこの賢い少年の言う通りださぁ、ワシが最高傑作の剣を授けれるかどうか、この大魔武王ジーノ直々に見極めてやろう!!」
天に掲げたその手が突如姿を見せた剣を掴む。
ドナルドが、傭兵達が、トマスとその仲間が、そしてユーノとエリカ、その場にいる全ての者がジーノが手にする剣に心を奪われる。
一見ごく普通の剣。
しかし剣から放たれる存在感と魔力は他の剣が霞む程。
そして青白い光沢を放つ剣身の美しさに誰もが見惚れる。
「あれが、ジェイクさんが言っていた最高傑作の剣・・・。」
エリカの胸が高鳴る。
ジーノが手にする剣が欲しい、と思ったのだ。
喉から手が出る程。
あの剣は私に相応しい、と見惚れる。
「さあさあ、始めようぜ。血の滾る戦いをな!」
「ひぃいいいいいいい!」
「ぎゃああああああああ!」
「く、来るな!!!」
散り散りに逃げ回る傭兵達。
ドナルドが自分を守れ!と叫んでも誰も耳を貸さない。
皆、目の前にジーノに恐れ戦き繊維消失。
中には泡を吹いてそのまま気絶する者もいる。
蜘蛛の子を散らす傭兵達をジーノは高笑いを発しながら一人、また一人と倒してゆく。
「ア、アニキ!!」
「退け!逃げるんだ!」
トマスは仲間を庇うように剣を構えて後退。
自分が犠牲になっててでも3人を逃がす心構えだ。
幸いにも今は自分達の方には向いていないので、3人が上手く身を隠したのを見届け、自分も別の場所で身を隠す。
ジーノは腰を抜かしてているドナルドと対峙していた。
「く、く、来るな!!」
ゲイ・ジャルグの剣を振り回しながら後退るドナルド。
彼自身剣を心得は少しあるが、戦場や殺し合いには一度も縁がなかった。
恐怖で半泣き状態の彼に対して追い打ちが。
「我が手に戻れ、ゲイ・ジャルグ。」
ユーノの声に反応して、ゲイ・ジャルグの剣はドナルドの手から離れ、ユーノの手元に。
「ワハハ!」と笑いながら剣を振り上げるジーノを目の前に限界を超えたドナルドは失禁、そのまま泡を吹いて気絶した。
「何だ何だ?骨のある者はいないのか??」
煽るジーノの視線はエリカをはっきりと捕えている。
「エリカ。」
ユーノからゲイ・ジャルグの剣を受け取り構える。
「俺が後ろから援護する。二人で倒そう。」
「ええ。」
「ほほう、やはりいい眼をしている。さぁ、才溢れる若き強者よ。このワシを楽しませてくれ!」
「行くぞエリカ。」
ユーノの合図に颯爽と駆け出し、ジーノへ剣を向けるエリカ。
それを正面で受け止めるジーノには余裕の笑み。
「ゲイ・ジャルグ・・・か。お前達が何故ワシの親友の武器を持っているのかは知らぬが、手加減はせぬぞ。」
鍔迫り合いは力が強いジーノの方に分がある。なので、押し潰される前に間合いを切り、足を動かし攪乱。
「いい速度。そして立ち回りだ。だが、それでワシを倒せると思っているのか?」
(思っていないわ。)
今自分にすべきことは注意を引き付けて足止めする事。
本命はユーノ。
「轟き 穿て 雷鳴よ この手に集え 災禍を払う雷よ」
足を負傷して前線には立てないが、戦う手段を持つユーノ。
棍を媒介にして、大気中の魔素を集めて魔力に変換。
体内にある魔力も注いた事で強力な雷魔法を展開。
「流石のジーノ父さんでもこれには耐えれないはず。ブリッツ・ザ・ブラスト!」
雷魔法を選んだのは魔法速度が速く、命中すれば相手を麻痺させる事が出来るから。
大ダメージを与え、さらに動きを封じさせるのが狙いだ。
ユーノが魔法を放ったと同時にエリカはその場から離脱。
ジーノの死角から放たれた魔法は見事命中―――した瞬間、弾かれるようにかき消される。
「魔法阻害?!」
「魔法なんか使うんじゃねえ!」
「うあああああああああああ!!!」
「ユーノ!!」
ジーノが指を鳴らした瞬間、ユーノに強烈な電撃が襲う。
「ガハハッ!この部屋ではワシに魔法を通用せん。しかも使った本人にその魔法が跳ね返る仕掛けになっておるのさ。」
「ユーノ、しっかりして!」
全身から煙を上げ、崩れ落ちるユーノ。
完全な不意打ちで意識はなく、起き上がれない彼に慌てて駆け寄ろうとするエリカ。
だが、ジーノがそれを許さない。
「おっと、お前さんはワシの相手もしてもらわんとな!」
「ぐっ!」
慌てて剣で受け止めるエリカ。
「そんなにあの男の事が心配か?目の前にこのワシがいるにも拘らず。大した余裕だな!」
「きゃあ。」
ジーノの太い足がエリカの脇腹を蹴り、吹き飛ばす。
「どうした?こんなものなのか?ワシの試練を全て突破してきたお前さんの実力はこんなものなのか?」
ジーノの煽りに答えないのは余裕が一切ないから。
痛みを堪え、歯を食いしばり立ち上がる。
「そうだ。その調子だ。でないとワシはユーノを殺してしまうかもしれないぞ。」
「さ、させない。」
再び駆け出すエリカ。
「ほう。」
驚きの表情を見せるジーノ。
エリカのその動きは3の部屋で見せた槍を持ったゴーレムの動きを瓜二つだったのだ。
「剣を交えた相手の動きを真似て―――、いや自分のモノにしたか・・・・。いいぞお面白い!」
高笑いを見せるジーノ。
その表情には余裕がある。
「その調子で俺を楽しませてくれ!簡単に壊れるなよ!」
嬉々としてエリカに立ちはだかるその姿はまさに戦いを好み、戦いを愛する戦場で息絶えた鬼神そのものであった。




