5つ目の試練
「やあああ!!!」
ゲイ・ジャルグの剣が魔石を貫き砕く。
屈強なゴーレムの黄色い瞳が消えた事で両手に握られていた大剣は地面に落ち、身体は形を無くすように崩れ落ちる。
ゴーレムの活動が完全に停止したのを確認して構えを解く。
「すげぇ。」
傭兵達が驚愕するのは無理もない。
自分達は全く歯が立たなかったゴーレムをエリカ一人で倒したのだから。
ユーノ達は4つ目の部屋まで到達していた。
この部屋に待ち構えていたのは前の部屋と同様のゴーレム。
しかし形状は前よりも大型で武器も槍ではなく大剣であった。
最初は傭兵達が一斉に攻撃を仕掛けるが強烈な一振りで全員戦闘不能、エリカに出番が回ってきたのである。
前回のゴーレムと比べるとスピードはかなり遅く攻撃はすんなりと当たるが耐久性と攻撃力は凄まじく高く、油断は一切出来なかった。
エリカは先の戦いでのゴーレムの素早い動きを参考。
一撃で終わらせるのではなく持久戦に持ち込む。
強力で大振りの一撃を避けて素早く攻撃して、即座離脱。
それを繰り返して鎧を徐々に削り取る。
「見えた。」
砕けた鎧から覗き見えた動力源である魔石。
勝機を見出したエリカ。
弱点を見透かされたゴーレムの大味な斬撃を素早く避けてトドメの一撃を入れたのである。
「エリカお疲れ様。」
ユーノが労いの言葉を送る。
「ありがとうユーノ。」
受け取ったタオルで汗を拭うその横で残骸に群がる傭兵達。
「これで4つ目の試練を突破。残すはあと一つね。」
「ああ。と扉が開かれたな。」
ゴーレムが倒された事で閉じられていた扉が一人でに開かれる。
「次が最後だ。頑張ろう。」
二人は先へと進む。
(くっ、どういう事だ?)
ドナルドは心の中で唸る。
このダンジョンに潜ってからずっと彼のプライドはズタズタ。
何故なら自分が創った自慢の武器が通用していないからだ。
(何故だ?何故俺の武器は簡単に折れてあの『名折れ』の女が持つ武器は通用するのだ?)
疑問が渦巻く彼の興味はエリカの腰に携えているゲイ・ジャルグの剣へ向く。
(あの古びた剣だと思っていたがもしかして名剣なのか?)
鍛冶職人としての性と欲望が疼く。
(知りたい。どんな材料が使われ、どのようなにして造られたのか。)
もはや抑える事さえせず、欲が向くまま突き進むドナルド。
その表情は醜く野獣。
(ああ、手に入れてやる。このダンジョンに眠っている剣も。あの女が持っている剣も。全て手に入れてやる。)
5つ目の扉。
さすがに今までの教訓が生きたのであろう。誰一人我先に出て扉を開けようとはしない。
「ここが最後?」
「おそらく。」
扉に刻まれた5/5の文字を黙読して一つ頷くユーノと共に扉を開ける。
「あれが最後の相手。」
中央に待ち構えているのは勿論ゴーレム。
腕が四本あり、各々違う武器を持っているそのゴーレムは前の二体とは少し違いより人型により近い創り。
(これは完全にジーノ父さんの趣味だな。)
厚い胸板や逞しく二の腕の筋肉を一目して確信。
大魔武王ジーノは『全ては筋肉で解決する』と豪語する程の筋肉マニア。
生前、戦場であっても絶対に筋トレを欠かさない。
ジリ、ジリ。
四本腕のゴーレムの圧は前の部屋のとは雲泥の差。
青く輝く眼に部屋に入るのを尻込みする中、果敢と前に出たのは勿論エリカ。
ゲイ・ジャルグの剣を構えるとそれに鼓動して独特の構えをみせるゴーレム。
誰もが固唾を飲む緊張感が走る中、先に動いたのはエリカ。
迎え撃つゴーレム。
右肩甲骨から生えている腕から振り下ろされる片手斧を躱して相手の懐へ。
しかし左腕が持つランスの突きが目の前に。
瞬時に剣で防御。間合いを下げられてしまう。
それを好機と読んだゴーレムは反撃に出る。
エリカは足を動かしてゴーレムの猛攻撃を耐え凌ぐ。
(左腕には片手斧とレイピア。右腕にはメイスとランス。一つ一つの攻撃は強力だけど全て単調。ユーノから教えてもらった通りだわ。)
ゴーレムは人の手により造られた人工魔物。
動物的直感などは一切なく、造り手の命を忠実に守る事しかできないのだ。
故に動きも単調。
エリカは4つの腕がそれぞれ動作一つしか出来ない事をこの短期間で見抜いたのだ。
(攻撃は鋭くて強力だけど、イケる。)
ゴーレムの攻撃と攻撃の合間を掻い潜り懐に入ることに成功。
好機と言わんばかりに連撃。
金属音が部屋中に響き渡る。
(やっぱり硬い。)
この連撃で鎧を砕くつもりだったが失敗。
頭上から振り下ろされるメイズをバックステップで避ける。
間合いを広げられたのでもう一度懐へ入り込む為に攻める。
先程よりも動きが機敏になるゴーレム。
一度突破された事でエリカを脅威と判断したのだ。
4つの腕を最大限に扱い、エリカを倒そうと躍起に。
だがゴーレムは判断を誤った。
脅威なのはエリカ一人ではない事。
「貫き焼かれろ!プロミネンス・ランス!」
人知れずゴーレムの背後まで移動していたユーノ。
密かに詠唱していた魔法から現界したのは槍を模した炎が二つ。
それらは狙い通りゴーレムの肩甲骨から生える二つの腕に命中。
手首ごと破壊される。
「エリカ、今だ!」
ゴーレムは人工魔物で痛みなどは感じない。
だが、腕を同時に二本失った事での動揺で一瞬のスキが生じたのだ。
エリカはその隙を見逃さない。
「てやああ!」
ランスを持つ腕を渾身の一撃で破壊。
苦し紛れに繰り出すレイピアの突きを躱した勢いを利用しての回転斬り。
バランスを崩し仰向けに倒れるゴーレム。
「これでトドメ!」
起き上がろうとするゴーレムに馬乗りして剣を突き刺す。
鎧の下に隠された魔石を砕いたことによりゴーレムの機能は完全停止。
身体の形状が崩れる音が空しく響いた。
「見事だエリカ。」
「ユーノ、アシストありがとう。」
互いの健闘を讃えあう。
「これで5つの試練、全てクリアね。」
そう微笑むエリカには達成感で満ち溢れていた。




