傭兵達の欲望
「くそっ!面白くねえ!」
ボヤくのはハルバードを手にする傭兵。
名はサージェス。
腕っぷしには自信をあり、今までドナルドの下で数々の荒事を収めてきた彼は今、不満が募り溜まっていた。
それは先頭を歩く少女――エリカに。
自分をあっさり倒したあのゴーレムを倒したことに不満タラタラ。
彼の思考には女は自分よりも劣り、侍らす事しか能がない生き物だと思っているからだ。
「くだらねぇ。あんなガキみたいなオンナが俺よりも強い訳ないだろうが。」
「苛立っているなサージェス。」
「うるせぇ!」
さっきの部屋で槍を手に入れた長年の相棒が黒髭を撫でる。
「まあ落ち着けってサージェス。あの女、すぐに俺達の慰め者になるさ。」
「ああん?」
「さっき旦那に了承を得た。あの女、俺達の好きにしていい、てよ。」
「本当かガイ?」
「ああ。」
槍を肩に担ぎ髭の中で不敵な笑みを浮かべる傭兵、ガイ。
「あの女、隣の男に惚れているみたいだ。回復薬を餌に俺達の言うことを聞かせてやろうぜ。」
「ソイツはいい。最近オンナを抱いてないからな。楽しみだ。」
「女剣士はしまりがいいからな。」
下世話な会話を続ける二人。
もちろん他の者には聞こえない小言で。
その機会はすぐに訪れる。
休憩地点らしき場所に足を踏み入れたのだ。
「疲れた。休憩にするぞ。」
ドナルドが腰を降ろすと取り巻きの傭兵達が食事の準備を始める。
「俺達も食事にしよう。」
「ええ。」
傭兵達から距離を置き、視界に入らない端を陣取るユーノとエリカ。
ポーチから干し肉や保存食を取り出し、二人で分けあう。
「エリカ、君は少し体を休めた方がいい。見張りは俺がやるから。」
「ありがとう。」
食事後、ユーノは少し外の様子を確認する為にその場を離れた。
「よう。ちょっといいか?」
それを見計らい、サージェスとガイがエリカに近づく。
「何?」
「そう警戒するなよ。いい話を持ってきたのにな。」
「こいつ、欲しいのだろう。」
意地汚い笑みを浮かべて、回復薬を見せびらかす。
欲しい、と伸ばしたエリカの手が途中で止まる。
嫌な予感がしたからだ。
「ま、タダで渡すわけにはいかないな。」
「数少ないからな。無駄にする訳にはいかない。」
エリカは黙り続ける。
「意固地になるなよ。ちゃんとやるからさ。」
「その代わり、俺達の言う事を聞いてもらうけどな。」
傭兵達の手がエリカの胸に。
「触らないで。」
「な!」
手を払われたことに驚く傭兵達。
「おい、回復薬が欲しくないのか?」
「要らないわよ。あなた達に体を汚されるぐらいなら。ユーノを裏切るぐらいなら要らないわ。」
明確な拒絶をされるとは一切思わなかったのだろう。
唖然を食らう。がそれも一瞬。
逆上したサージェスが実力行使に打って出る。
エリカも隣に置いていたゲイ・ジャルグの剣を掴み、構えた時、
「何だこりゃあ!」
突然、サージェスとガイの身体に太い蔦が絡まり、拘束されたのだ。
「間に合ってよかったぜ・・・。」
「あなたは!」
物陰から姿を見せたのはトマス。
トマスは仲間と共にドナルドから少し離れて陣取っていた。
ダンの容体が確認した後、ドナルドの取り巻きの人数が少ない事に気付き、首の痒みを頼りに行方を探していたのである。
「すまなかった。この二人が君に不快な思いをさせてしまって。」
礼儀良く頭を下げ、許しを請う。
「大丈夫です。何もされなかったですし。でも、もう二度とこんな事はごめんです。」
「・・・・わかった。以後気を付ける。」
返事が遅れたのはエリカと視線が合い、急激に首の痒みを感じたから。
拘束された二人を引きずり、この場を離れる。
「おいオマエ達、よくもしでかしてくれたな。肝が冷えたぞ!」
「うるさいトマス。」
「そうだ俺達の邪魔をするな。」
「お前には関係ないだろうが!」
「ああ関係ないね。オマエ達がどんな悪事に手を染めようがオレには関係ない。だがな今回のはあまりにも悪手過ぎる。オレ達全員を殺す気か?」
「何だトマス、あのオンナにビビっているのか?」
へっ、薄笑いを見せるサージェス。
「オンナなんか力でねじ伏せて犯せば、すぐに堕ちるだろうが。」
「そうだぜ、何なら今ここで実践してやろうか?」
反省の色が全く見えない二人に畳みかけるように言葉をぶつける。
「馬鹿かお前ら。オレが恐れているのはエリカの隣にいるユーノだ。」
胸倉を掴み、ガンを飛ばすトマス。
「足を怪我しているあのガキのどこが怖い?」
「いいかよく聞け。あのユーノは危険だ。この中で唯一魔法を扱える人物。しかも強力な魔法を、だ。もしこの狭い洞窟の中で魔法を解き放たれたらどうなる?全員生き埋めで全滅だぞ!」
トマスの説明でようやく状況を理解したのだろう。
顔を青ざめる二人。
「だが、あのガキがそこまでの事を―――。」
「前に忠告したことをもう忘れてのか!」
トマスは恐れていた。
1つ目の部屋で忠告を受けた時のユーノの眼。
「(あの目は本気だ。エリカに手を出せば慈悲も容赦もない、そんな恐ろしい眼をしていた)いいか。エリカには手を出すな。命が欲しければな。」
コクコク、と何度も頷く二人。
(ひとまず安心だな・・・。)
首の痒みが収まった事で二人を解放。
(とはいえ、アイツ達がこのままおとなしくするはずはない。監視の目を強めておくか・・・。)
厄介事が増えた、と重々しくため息をつくトマスは知らなかった。
その一部始終をユーノが見ていた事に。
「・・・・・・。」
無言を貫くユーノが何を思い、何を考えているのか?
それは当人しかわからない。
厳しい視線を数秒ほど向けた後、背を向ける。
エリカの元へ戻る頃にはいつもの穏やかな笑顔に戻っていた。
「お帰りなさいユーノ。」
「ただいま。」とエリカの隣に腰を降ろし、肩に腕を回す。
エリカも彼氏が隣にいることに安心し、身体を預ける。
「大丈夫?」
「うん平気。」
そう答え目を閉じるエリカ。
彼女がゆっくり休めるように優しく抱きしめる。
「無事にここを出よう。二人で。」
「うん。」
身を寄せ合う二人。
地上で待つもう一人の最愛の人を思い浮かべながら。




