求めるモノ
(やっぱり回復薬を隠し持っていたか・・・。)
先頭を歩きながら、横目で後方をチラ見。
傭兵達に囲まれたドナルドは不安ながらも笑みは絶えない、そんな表情を見せていた。
(変にアイツ達に恩を売るのは危険だ。たかが足の捻挫。危険を冒すまで手に入れる必要はないな。)
隣では気を張り続けるエリカ。
気負いすぎているように見える。
「エリカ、そんなじゃ後が持たなくなる。力を抜いて。」
「でも・・・。」
「周囲の索敵は俺がやるよ。それにエリカが考えているような罠や奇襲はないよ。」
「え?なんでそう断言できるの?」
大声が出そうになったのでエリカの口を塞ぐ。
「それはこのダンジョンはジーノ父さんが創ったからさ。ジーノ父さんは義を重んじる性格。自分が創った剣を持つに相応しいかどうかを図る場所―――いわば試練の間感覚でこのダンジョンを生成したと思う。全て一本道であるのと今までトラップの一つも見つかっていない事が証拠だ。」
「成程、ね。一理あるかも。」
「ただこの事は誰にも言ってはいけない。後ろにいるドナルド達はトラップ等があると思い込んでいる。その方が俺達に利がある。」
「わかった。」
「エリカは試練の間の事だけ集中して。後は俺が何とかするから。」
「うん。(また私はユーノに守られている・・・。)」
それでもなお表情が硬いので、不安を取り除くために一つ行動に移す。
「エリカ。」
「え?キャ――。」
突然、腰を抱き寄せられて黄色い声が飛び出す。
「トラップか?」
ユーノの足が止まった事に驚いたドナルド一行。
罠だと勘違いし、数歩引き下がる。
それを好都合だな、とドナルド達が暗闇で見えてないのをいい事に少し大胆な行動へ出る。
「悲観することなんて一切ない。自信を持って。俺はエリカを守る。だからエリカが俺を守ってくれ。」
「ちょっとユーノ。どこを触って―――。」
「愛しているよエリカ。強く優しい君の事を。だから自分自身に自信と誇りを持ってくれ。」
甘い囀りと力強い抱擁にエリカは身も心を砕かれ、只々小さく頷くだけだった。
「どうやら何もなかったようだな。」
ユーノ達が再び歩き始めたのを目視して安堵を漏らすトマス。
「ケガとかなかったようですし良かったです。」
「そうだな・・・。」
トマスが後ろを振り返る。
ドナルド達の後ろから続くのはダンとジョー。
まだ怪我の影響があるのか、ダンは弟のジョーの肩を借りている状態。
「ダンの容体は?」
「戦える状態ではないですが、移動には問題ないかと。」
「そっか・・・。」
「アニキ、もし依頼者とあの二人が対立したらどうするつもりですか?」
「それは決まっているだろう。オレは―――。」
「僕はあの二人の側につきます。」
「カール、お前。」
「あの二人は親友の命の恩人です。本当なら他の目を盗んで回復薬を盗んで渡したいぐらい・・・。」
「それは止めておけ。」
釘を刺しておく。
「わかっています。でももしそうなったら僕は―――。」
「それ以上何も言うな。」
「アニキ・・・・。」
「お前達の気持ちは十分伝わった。オレに任せろ。」
そういってこの話題を切り上げる。
(さて、どうやったらオレ達はここから生き延びれるか・・・。)
首の痒みは今の所、ない。
「まだ歩くのか・・・。このダンジョンはどこまで続いているのだ・・・。」
トマス達の後方、ガラの悪い屈強な傭兵達を盾にして進むドナルドの口から零れるのは悪態。
「くそ、Lスターの剣を手に入れるだけだったのにまさかダンジョンに潜る羽目になるとは・・・。」
それでも尚、先に進むのはどうしても手に入れたいから。
(Lスターの剣さえ手に入れれば俺の名声がさらに上がる。アイツ達を見返せる。)
ドナルドは貴族の生まれ。
賢く学才もあったが、三男と理由だけで成人を迎えた時に家を追われた。
自分より劣る長男が家を継ぎ、自分より冴えない次男が有力な商家へ婿として出迎えられたのに自分だけが追われる身。
その事に憤り、両親と兄達を見返す事が彼の生きる糧となった。
鍛冶職人になったのは元々手先が器用だったのと貴族との接触が図れやすく成り上りやすいから。
王都一と噂されるジェイクの元へ出向き、弟子入りしたのもそれが理由だ。
全ては自分の野望のため。
その為、有力な貴族との交流に精を出し、師を追放して王都一の鍛冶職人の称号を手に入れた。
(もう少し、あともう少しだ。Lスターが創りし剣を手に入れ、それを献上して大貴族の娘を政略結婚。そうすれば俺を追い出した家を超えることが出来る。見返す事が出来る!)
自然と拳に力が入る。
(そうだ。もう少しだ。その為に汚れ仕事だってしてきたのだ。)
深い黒みの炎を秘かに燃やし続けるドナルド。
(誰にも邪魔はさせない。Lスターの剣は俺のモノだ。)




