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3つ目の試練

「着いた・・・。」

 三度目の扉。

 上部の淵に3/5と記されている。

「ここまでの道のりは全て一本道。トラップも仕掛けられていない・・・。」

 口の中だけで完結させる独り言。

「今度こそだな。」と意気揚々、ただ一人声を弾ませているのはドナルド。

 扉を開けるよう、指示を飛ばす。

 部屋の中は今までの部屋とほぼ同じ。

 違うのは至る所に太い柱がある事ぐらい。

「なんだ?今度はあの柱を壊せばいいのかい。」

 前の部屋で手に入れたハルバードを肩に担いでる一人の傭兵が疑いもなく前に出る。

 すると奥からガチャン、ガチャン、と金属同士がぶつかる音。

 そして素早く蠢く影が。

 それに気付いたのはユーノ(一人)エリカ(二人)、かろうじでトマス(三人)

「下がれ!」「危ない!」

「ああん?何を言って―――――。」

 傭兵の言葉が途切れる。

 目の前の視界に突如、姿を現したのは鎧を装着した人型のゴーレム。

 全身銅で形成されたゴーレムは目を赤く光らせ、その手に持つ長槍は傭兵の肥満腹を貫いていた。

「ぐはっ!」

 血を吐き、地面に横たわる傭兵。

 次の瞬間、ゴーレムは消えた。

「消えたぞ!」

「違う!あのゴーレムの速さに目がついていけてないだけだ!」

 ユーノの隣にいたエリカが前へ飛び出し、ゲイ・ジャルグの剣を振るう。

 何かが掠った音と感触。

 すぐさま背後に振り返ると目の前に槍の矛先が。

 咄嗟の反応で受け止める。

(お、重たい・・・。それに速い!)

 剣から伝わる重たい一撃に押し込まれそうになるが、ゴーレムは鍔迫り合いを嫌い後方へ飛び退き、再び地面を駆ける。

 独特なステップでこの場を駆け回るゴーレムの動きを必死に目で追いかけるエリカ。

 一瞬でも見失えば致命傷、いや死。

 額から嫌な汗が流れる一方で既視感が。

(この戦い方、何処かで・・・・。)

 脳裏に浮かんだのはユーノ。

(似てる・・・。ユーノの戦い方に少し似ている・・・。)

 ゴーレムの動きに惑わされないよう動こうとするが、自然と防戦一方状態に。

 身体のあちこちにかすり傷が生まれる。

「動きを止めろ、サンダー!」

 後方からユーノが繰り出した魔法が地面にぶつかり、轟音と砂煙が。

「エリカ、こっちへ。」

 相手の視界を遮った隙に柱の陰に隠れ、身を隠す。

「大丈夫かエリカ。」

「ええ、致命的な一撃は受けていない。それよりもユーノ、あの動きって。」

「ああ、あの動きは間違いない。あのゴーレムはデルタ父さんを模倣している。」

 ユーノの戦い方はデルタを参考にしている。

 これは同じ槍の使い手としてデルタから学んだからである。

「とは言え、全てを真似ている訳ではないな。父さんの戦い方の一つ、ヒット&ウェイだけを取り入れているみたいだ。」

 柱の陰から顔を半分覗かせ、様子見。

 ゴーレムはエリカの姿を探す素振りを見せる。

「弱点は額にあるあの魔石だ。あれが動力源。あれさえ壊せれば動きを止められる。」

「それじゃあ私があのゴーレムの動きを止めて、ユーノが魔法で・・・。」

「それは無理だ。」

 ユーノが首を横に振り、エリカの作戦を否定。

「あのゴーレムには魔法攻撃は効かない。どうやら魔法無効化の術式が組み込まれているようだ。」

 サンダーを打ち込んだ時、実はゴーレムにも直接攻撃を仕掛けていた。

 しかしその魔法は当たる寸前で壁に阻まれ弾かれたのを目撃したのである。

「だからエリカがあの魔石を壊すしかない。ゴーレムと対等に戦えるのはエリカしかいない。」

 二人の視線は自然とユーノの左足首へ。

(私が・・・、私が一人で何とかしないと・・・・。)

 全身に圧し掛かる重圧。

 それが表情に露になっていたのだろう。

 突然ユーノがエリカの顎を持ち上げ、自分の方を向かせる。

「え?え?何??ちょっとユーノ?」

 困惑するエリカ。

 ユーノの顔がゆっくりと接近、赤面するエリカ。

「ちょっと待って!他の人が見てるから。」

「大丈夫だよエリカ。力を抜いて。」

 耳元で囁かれて、ビクッ、と体を震わすエリカ。

 気恥ずかしさと心地よさが全身を駆ける。

「エリカなら勝てるよ。ずっと近くで見てきた俺が言うのだから間違いない。だから、ね。」

 ポン、と軽く肩を叩かれる。

 するとどうだろう。

 強張った表情は消え、身体も軽く感じる。

「俺がついている。だからいつも通り楽しんで、ね。」

「わかった。」

 ユーノに背中を押され、再び戦いの場へ赴く。

 作戦会議中、ゴーレムは中央でジッと佇んでいた。

 そしてエリカの姿を見つけると再び眼が赤く光る。

 どうやら正々堂々と戦うよう命令が組み込まれているようだ。

 エリカが剣を構えたのを確認して動き始めるゴーレム。

(やっぱり速い。)

 エリカの周りを高速で駆け廻るゴーレム。

 あまりの速さに残像が見える。

 目で追いかけるのは無理だと判断したエリカ。

 気配と音で位置を探る事に切り替える。

 足音と鎧同士がぶつかる音から位置を割り出し相手の攻撃を防御してカウンター。

 鎧もだが、身体の部位全てが鉄で生成されており一撃与える度に手に振動が。

(硬い!でもダメージは与えているはず。)

 致命傷を受けないことを第一に相手の攻撃を受け流す。

 それを繰り返していく内に目が相手のスピードに慣れて追えるように。

(焦りは禁物。ゆっくりでいいから徐々に。相手の動きは変わっていないから落ち着いて。)

 ゴーレムは一定の戦い方しかできない仕様のようだ。

 不利な状況に陥り始めているが、戦い方を変えない事がそれを証明している。

「そこ!」

 ゴーレムの突きを躱した動きを利用しての回転斬り。

 脇腹を守る鎧が砕ける音。

 初めてバランスを崩すゴーレム。

 それを好機と見たエリカ。

 剣に魔力を注入。

 切れ味が増した剣を大きく振りかざし上段斬り。

 狙うのは一番装甲が脆い右腕の関節。

 腕ごと槍を失ったゴーレムは失った腕を見た後、その場に立ち尽くす。

 為す術なし、と無駄な抵抗を見せない相手の意を表しながら額にある魔石へ剣を貫いた。


「ふう~~~。」

 完全に動きが停止した事を確認して大きく息を吐き、警戒を解く。

 やり遂げた達成感と高揚感が全身を駆け巡る。

「頑張ったねエリカ。」

 ご褒美の頭撫でに頬を緩ませていると反対側にある閉ざされた扉が開く。

「ようやく先に進めるのか・・・。まったく時間を取らせやがって。」

 悪態をつくのは恐怖で部屋の中にすら足を踏み入れようとしなかったドナルド。

 安全だと確証を得た上で入室する。

「おっ、この槍は上等なモノじゃないか。戴くとするか。」

 傭兵達がゴーレムの亡骸からモノを漁るのを尻目に眺めていたエリカはゴーレムに腹部を貫かれた傭兵が元気よく混ざっている事に気付く。

「ちょっと待って。貴方、大怪我はどうなったの?」

「ああん。そんなの回復薬を飲んだからさ。」

「何ですって!もしかしてその回復薬はまだ――――。」

「残っている。がお前達に渡す義理はない。」

 答えたのはドナルド。

 ユーノの怪我が治る事で立場の逆転を起こさせたくないのだ。

(あの男が怪我をしているからこそあの女が言うことを聞くのだ。この優位な状況を手放す訳ないだろうが。)

「エリカ、先に進もう。」

 反論しようとしたエリカの口を止め、先を促す。

 仕方なく従うエリカ。

 その二人の様子を見て、ほくそ笑むのはドナルド。

 そして戦利品を焦っていた一部の傭兵達も同様にほくそ笑むのであった。


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