被災
「そんな・・・。」
肩で息をするルシアは言葉を失う。
それは全壊した村を目の当たりにしたから。
数時間前まではのどかで明るい雰囲気はなく、死屍累々、悲鳴と泣き声が轟き蠢いていた。
「コイツはひでえ有様だ。」
遅れて数分後、追いついたジェイクの一言で我に返ったルシアは村の中へ。
「おい嬢ちゃん!」
「ルシア殿、中はまだ危険です。お戻りを。」
「ましろ!どこにいるの!返事をして。」
二人の声は届いていない。
村の中を駆け回り、懸命に娘の名前を呼ぶ。
「ワンワン!」
「ましろ。」
元気よく駆け寄るましろ。
ジャンプ一番でルシアの胸の中にダイブ。頬を重ね再会を喜び合う。
「無事だったのね。良かった。ん?どうしたのましろ。」
突然腕の中で暴れ始めるましろ。
地面に着地して数歩走り振り返り吠える。
どうやら何処かに案内したいようだ。
疑う事無くましろの後に続く。
「お母さん。お母さん。」
頭から大量の血を流し、横たわるのは真白を預かってくれていた宿場の女将。
意識はなく、幼い娘の呼びかけに全く反応はない。
女将は大地震発生した際、娘をかばって柱の下敷きとなってしまったのだ。
周囲にいる村人も女将が助かる望みはないと諦めており娘を引き離そうとするが、泣き叫びその場から離れようとしない。
「嫌だよ、お母さん。」
「もう無理だ。諦めるんだ。」
「どいてください!」
大人達を押し退け、娘の隣にしゃがむルシア。
「まだ息はある。待っててください。すぐに治しますから。」
胸の前で手を組み回復魔法を発動。
眩い白い光が女将の身体を包み、傷口を瞬く間に塞がる。
「おいおいおい、なんだよこの嬢ちゃんは・・・。あの大怪我を一瞬で治しただと!」
大怪我が完治して目を覚ました女将。
眼に涙を貯める娘と熱い抱擁する光景を一部始終目撃したジェイクは眼を大きく見開き驚く。
「女将さん、傷は塞がりましたが失った血液は戻っていません。貧血状態なのでゆっくり動いてください。」
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
何度もお礼を口にする女将。
「おい村長。驚いている場合か。被害状況は?」
「あ、ああ・・・。軽い怪我の者は数人程。大ケガを負った者が殆どだ。薬は殆どないし、其れにまだ生き埋めになっている者をおる・・・。」
「その怪我人の所に案内してください。私が全て治します。」
「わ、わかりました。こちらです。」
「ガウル。俺の家からツルハシとジャベルを全部取ってきてくれ。おい、動ける奴は生き埋めになっている奴を救助するぞ。今のを見ただろう!生きていればあの嬢ちゃんが助けてくれるぞ。」
ジェイクのこの一言に活力を失っていた者達の眼に光が戻る。
「ましろ、あなたも救助の方を手伝って!」
「ワン!」
こうして決死の救助活動が始まった。
「わんわん!」
「おい、こっちだ!こっちにいるぞ!手伝ってくれ!」
「こっちが先だ!」
救助活動を行っている者はジェイクとガウルを含め僅か8名。
圧倒的に人手不足。
だがその状況にも誰一人文句を言う事無く、ひたすら手を動かし声を出し続ける。
「おい!生きているか?返事をしろ!希望を捨てるな!」
「この村には凄腕の回復術士がいるんだ。どんな怪我でも治してくれるぞ。だから諦めるな。」
「手伝いに来たぞ!」
「お前、足を骨折して動けなかったはずじゃあ?」
「青髪のお嬢ちゃんが治してくれたんだ。他の者のすぐ応援に来る。」
「よし、あっちを手伝ってくれ!」
「わかった。」
人口が少ないカルマタン村は村全員が気心知れた仲。
団結力は高く、見事な連携で救助活動を続ける。
「見えたぞ!こっちに三人だ!」
「まだ息はある!あの嬢ちゃんの所に運ぶんだ!」
「こっちにも一人いるぞ!」
「駄目だ!こっちは大怪我で動かせない!傷口が開いてしまう!」
「傷口を抑えて、延命させろ!おい、あの嬢ちゃんをこっちへ――――。」
「怪我人はどこですか?」
全力疾走で駆けて来たルシア。
一か所に集められていた怪我人達を全て治療し終え、その足で現場に急行してきたのである。
一息入れずに治療を開始。
お腹が裂け、内臓が見えている男性に回復魔法を施す。
「次の人は?」
「こっちだお嬢ちゃん。」
求める声へ駆ける。
「休むな!手を動かせ!一人でも多く助けるぞ!」
絶え間なく動き続けるルシアの姿に感化され、村人達は互いを鼓舞し合う。
その救助活動は日が暮れる前―――最後の一人の生存が確認されるまで続けられた。




