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首都アレキロス

 ユーノ、ルシアとリリシアは乗合馬車に乗り込み、目的地イスカディール帝国へ。

 馬車に揺られること3日。

 大きな事故や問題もなく三人は無事イスカディール帝国の首都アレキロスへと到着。

「ここがイスカディール帝国か・・・。」

 目の前に広がる高い石壁を目の当たりにしてユーノは感嘆を漏らす。

「ユーノ君は来るの初めて?」

「ああ、今まで村から出た事がないからね。」

 自分が住んでいた村と大きさを比べても雲泥の差。

 唖然と立ち尽くすユーノをルシアは背中を押して入場門へと案内する。

「こちらが仮滞在証明書となります。」

 衛兵にライトザルト学園の受験票を提示。

 審査後、三人に仮滞在証明書が手渡される。

「こちらの証明書はライトザルト学園の合格発表日の翌日までが期限となっておりますのでご注意を。」

 合格の場合は学園が発行する学生証が滞在許可証代わりになっているのこと。

 帝国内での大まかなルールを聞いた後、いよいよ入国。

 街中は大勢の人が行き交っており、華やかで活気があふれていた。

「凄いな・・・。」

「でしょう~。」

 おもわず漏れた感想にルシアが嬉しそうに答える。

「この辺では一番の大国だから。他国の人や様々な種族が大勢いるの。」

 リリシアの言う通り、服装や人相、種族も多様多彩。

 店の品物を吟味する人、食材の値切りで攻防を繰り広げる主婦と店主。

 カフェで紅茶を嗜みながら談笑する猫の獣人とドワーフ。

 誰もが楽しそうで賑わっていた。

「ねえユーノ君、この後どうするの?」

「そうだな・・・。」

 周囲を見渡す。

 実はある人と待ち合わせをしており、その人にこれから住む家の場所を案内してもらう段取りになっている。

「まだ来ていないみたいだな。」

「だったら―――。」

 近くのカフェでお茶でもしない?

 しかしルシアのお誘いはユーノの耳には届かなかった。

 なぜなら、

「きゃああああああ!」

 甲高い声が周囲全体の活気を全て消し去ったからである。

 悲鳴を上げた主は初老の女性。地面に蹲り倒れている。

「大丈夫ですか?」

「何があった?」

 ルシアが真っ先に老婆へと駆け寄り、続けてユーノが後を追う。

「ど、泥棒よ。か、鞄を。」

 指さす方を見ると男性二人組が不似合いな花柄鞄を脇に抱え逃げ去る姿とそれを追いかける少女の姿を捉えた。

「あの鞄には私の大切な――っ。」

 立ち上がろうとした老婆は再び蹲る。

 どうやら先程の躓きで足を痛めたらしい。

「ルシア!」

「うん、ここは任せて。」

 一瞬のアイコンタクト。

 ユーノは犯人を追いかけ、ルシアは老婆の治療を。

「大丈夫ですよお婆さん。すぐに治しますから。」

 ルシアの優しい問いかけを見送り、ユーノはその場を後にした。


「待ちなさい!」

 目標を見失ったユーノ。しかし少女の声を頼りに追い駆けた事ですぐに目標を再び捉える事が出来た。

「アイツらだな。」

「えっ?」

 紅髪のポニーテールに碧色の瞳。

 鍛えられることが一目でわかる健康的で引き締まったスタイル。凛々しさと美しさを兼ね備えた美少女は驚いた顔をユーノに見せる。

「手伝うよ。アイツらを捕まえるのを。」

「助かるわ。」

「とはいえ俺は不利だな。来たばっかりで土地勘がない。追いかけるので精一杯だな。」

「それなら大丈夫よ。私は詳しいわ。」

 その時、泥棒二人組は裏路地へ逃げ込む。

「あなたはそのまま後を追いかけて。挟み撃ちするわ。」

「了解。」

 紅髪の少女は別の道へ。

 犯人の二人組は追手を振り切ろうと入り組んだ道を選ぶ。

 ユーノは絶妙な距離感を保ちつつ犯人を追跡。

 犯人達の焦りが見え始めた時だった。

「そこまでよ!」

 前方の建物の陰から先程の少女が飛び出し挟み撃ち成功。

 逃げ場を失った二人組は何度もユーノと少女を見比べる。

「くっそ!」

 犯人の片方――盗んだ鞄を持っていない方が懐からナイフを取り出し、少女に襲いかかかる。

 男のユーノよりも少女の方が突破しやすいと考えての行動。

 しかし少女は途中で拾ったであろう木の棒を構え、素早く小手打ち。

 痛みでナイフを落とした隙を見逃さず足の脛に一撃。男はその場に蹲る。

「っ!」

 片割れが瞬殺されたのを見て踵を翻し、ユーノの方へ。

「残念だけどこっちも逃げ道なしさ。」

 背負っていた棍を抜くと同時に足払い。

 体勢を崩したその隙に脇に抱えていた鞄を奪い返し、そして棍の先で背中を押し込んで追い打ち。

「一丁あがり。」

 犯人の背中に棍を押し込んで動きを封じる一方でポーチからロープを取り出し、少女へ投げ渡す。

 それを受け取った少女は自分が倒した犯人の手足を拘束。

 その後、巡回中の騎士に犯人を引き渡した。


「ありがとう。私一人じゃ捕まえることが出来なかったわ。」

「そんなことないだろう。君一人でも十分捕まえられたさ。俺はほんの少し手助けしただけに過ぎないさ。」

「それでも助かったわ。」

 握手を求めてきたのでそれに応じる。

「それにしてもいい動きだったね。いい剣の腕をしているよ。」

「そ、そんなことないわよ、私なんて・・・。」

 ユーノの素直な感想に嬉しさを見せながらも影を落とす少女。

 触れてほしくない内容だったのか、唐突に話を逸らす。

「それよりあなたさっき土地勘がない、って言っていたわよね。この国には何しに来たのかしら?」

「ライトザルト学園に通う為さ。」

 その事を伝えると少女は驚きの表情を見せたのでどうしたのか?と尋ねる。

「あなたも受験生?」

「も、という事はもしかして君も?」

「ええそうよ。」

「そうか。なら学友になる、って訳だね。」

「お互い合格していれば、ね。」

「大丈夫。君なら合格間違いなしさ。」

 ユーノは太鼓判を押す。

「あ、自己紹介がまだだったね。俺の名前はユーノ=トライシア。」

「エリカよ。エリカ=ウィズガーデン。よろしく―――てどうしたの?」

 少女―――エリカの名を聞き、ユーノの眼が見開いた次の瞬間、

「きゃっ。」

「そうか、君がエリカか!」

 エリカの両肩を掴み、歓喜を挙げるユーノ。

 互いの顔が急接近、エリカの頬が赤く染まる。

「な、何事?」

「あ、ごめんごめん。エリカが俺のことを知らないのは当然だな。君の事は兄のマイクから聞いていたのさ。」

「兄さま、から?」

 マイクの名を耳にした途端、エリカの表情が険しくなる。

「あなた、どうして兄さまのこと知っているの?」

「知っているも何も君の兄――マイクは俺の親友さ。今、彼は俺の村の駐屯騎士をしているのさ。」

「そうなのね・・・。」

「どうしたエリカ?」

 突然、背を向け立ち去ろうとするエリカを呼び止める。

「待ってくれ、実はマイクから伝言が―――。」

「聞きたくもないわ!家からいなくなった人の言葉なんて!」

 何よ!今更。と呟き走り去るエリカを呆然と見送るユーノ。

「あれ?何がどうなっているんだ?」

 その問いに答える者は誰もいなかった。


「ユーノ君!」

 鞄を抱えたユーノの姿を見つけたルシアが大きく手を振る。

「鞄、取り換えせたのね。」

「ああ。」

「ありがとうございます。実は中には亡くなった主人の形見が入っていて。」

「良かったですね、お婆さん。」

 ルシアと共に付き添っていたリリシアの言葉に満足そうに頷く老婆。

「あの・・・、あなたと一緒に犯人を追いかけてくれた女の子がいたはずですが・・・。」

 老婆の言葉にエリカの去り際を思い出したユーノ。

 背を向けた時に一瞬だけ見えた、嬉しさと怒りと虚しさ、そして諦めが入り混じった表情を忘れることが出来なかった。

「ああ、彼女なら所用があると言って先に帰りました。」

「そうでしたか。ちゃんと会ってお礼を述べたかったのですが・・・。」

「大丈夫ですよ、お礼の言葉はちゃんと彼女に伝えておきますから。」

 ユーノの言葉に納得した老婆は何度もお礼を述べなら立ち去って行った。

「トライシア君、適当な事言って大丈夫なの?」

 騎士に状況を説明し終えたリリシアが声をかける。

「適当な事って?」

「お礼の事よ。どこの誰か分からない人にどうやってお礼を伝えるのよ。」

「ああ、それなら大丈夫さ。彼女―――エリカならすぐに会えるさ。」

「ユーノ君、それってどういう事?」

「彼女は俺達と同じライトザルト学園の受験生だ。その内会えるさ。」

「そうなんだ!」

「成程ね・・・。ちゃっかりそういう事は聞いているのね。」

 リリシアがジト目を向けるが、当の本人は露知らず。平然とルシアと談笑を始める。

「もう!いくわよルシア。」

 ルシアの腕を強引に掴み、その場から離れようとする。

「ちょっとリリシアちゃん。」

「早く行かないと宿主が困るでしょ!」

「ま、待って。ごめんねユーノ君。また今度ね!」

 リリシアに引きづる形でこの場から立ち去るルシアを見送ったユーノは手持ち無沙汰。

 待ち人来るまでこの周辺を散策するか、考えをまとめた時だった。

 遠くから「ユーノ!」と呼ぶ声が。

 軍服を身に纏ったダンディな男性。

 整った鼻筋と左眉毛の刀傷がその男性の格好良さをさらに惹きたてている。

「アルベルトさん!」

 彼がユーノが待ち合わせをしていた人物。名はアルベルト。ゲイツの元同僚であり親友。イスカディール帝国騎士団の将軍である。

「待たせたな、ちょっと野暮用で遅れた。」

「大丈夫だよ。それにしても久しぶりだね。」

「ああ、2年ぶりか。」

 がっちりと固い握手を交わす。

「それじゃあ早速行こうか。お前さんがこれから過ごす家に。」


「いきなりどうしたのリリシアちゃん。」

 強引に連れ出されたルシアの嘆きの声がリリシアの耳に届く。

「ルシアは何とも思わないの?ついさっき知り合った女性に根掘り葉掘り言い寄ったトライシア君の態度を。」

「根掘り葉掘りって、名前と学園に通う事だけでしょう。それぐらいなら普通じゃないの?」

「それだけじゃないわよ絶対に。だってトライシア君、お婆さんから彼女の話題が出た時、表情が少し曇ったわ。あれは絶対に何か仕出かした表情よ。」

「そうかな~~。」

 とあれこれ話していた時だった。

「お嬢ちゃん達、こんな裏路地で何してるんだい?」

 突然、ルシア達に話しかけてきたのは、2人の冒険者。

「もしかして道に迷ったのかい。何なら俺達が案内してやろうかい?」

 足取りが疎かで語尾があやふや。

 顔も少し赤く、ルシア達を値踏みする視線を送りながらにやにや笑う彼等から漂う酒の臭い。どうやら少し酔っているようだ。

 ああ最悪、ナンパだわ。と内心舌打ちをするリリシア。

 酔っ払い二人を逆なでしない言い回しを考える最中、ルシアが前に出て言い放つ。

「大丈夫です。私達、迷ってなどいませんから。」

 堂々とそして平然とした態度でお辞儀したルシアにリリシアのみならず冒険者達を面食らい。

「ッハハッハ。」

「な、大丈夫だって言っただろう。」

 突然、高笑いをあげた二人に唖然。

「スマンスマン、少し怖がらせたな。」

「だから言ったんだ。こんな状態で声をかければ怖がられる、て。」

 口からアルコール臭をまき散らしながら謝る。

「あの、ナンパではなく本当に私達のことを助けるために?」

「ああそうだ、と言ってもこの状態では信用ならないだろうがな。」

「ごめんなさい。」と素直に謝りリリシアに二人は「気にするな。」と答える。

「とはいえ、嬢ちゃん達、首都とはいえ人気のない通りは危険だ。十分に気を付けな。」

「夜道は特にだ。出来るだけ人通りが多い道を選んだ方がいい。」

「わかりました。」

「わざわざありがとうございます。」

「そんじゃあ。」

 二人組が手を挙げ立ち去ろうとした時だった。

「お前達、その少女達に何をするつもりだ!」

 突然現れた乱入者が冒険者二人に剣を向ける。

 上等な服と装備品を身を纏った若い男性。

 年齢はルシア達と同年代。

 きちんと整えられた黄色い髪に希望で満ち溢れた輝きを放つ黄色い瞳。何よりまっすぐ伸びた背筋には自信が漲っている。

「いや、何って・・・。ただ俺達はお嬢ちゃん達に注意を―――。」

 事情を説明しようと近づく冒険者に対し青年は問答無用の一撃を放つ。

「うぎゃあ!」

 不意の一撃に受け身を取れず身体を壁に強打した冒険者。

「キサマ!」

 頭から血を流す相棒の姿に激怒したもう一人は青年に向かって突撃。だが、それを青年は最低限の動きで躱し、全力の一撃をお見舞いする。

「さあ君達、もう安全だよ。」

(・・・・・・。)

 息絶え絶えの二人を見降ろした後、爽やかに話しかけてきた青年の言動に絶句するリリシア。

 その横でルシアが突然、走り始める。

 青年は両手を広げる。ルシアが自分の胸に飛び込んでくる、と予想しての行動。

 しかしルシアはその青年を通り過ぎ、倒された冒険者達の元へ。

「大丈夫ですか、今すぐに治しますから。」

 応答がない、頭部から血を流している男性に回復魔法を施すルシア。

「回復魔法を扱えるのか、君は・・・。」と後ろから青年の声が聞こえたが、ルシアは治療に集中。

「っ・・・、俺は一体・・・。」

「良かった!気が付きましたね。」

「もしかして、君が治してくれたのか?」

「はい!あ、ちょっと待ってください。こちらも―――。」

 相方の方へ駆け寄り、先程と同様に回復魔法を施すルシア。

「ありがとう。君のおかげだ。」

「それに酔いも醒めたぜ。」

「それならよかったです。」

 何事もなく立ち上がり、お礼を述べる冒険者達にほっ、と胸を撫で下ろすルシア。

「お前達、良かったな。この子が聖女のような広い心の持ち主で。」

「なんだと!!」

「よせ!」

 横入りしてきた青年。自分が正しい事をしていると疑いない眼に怒りを向けるのを相方が制す。

「おい、何で止める!」

「アイツの手の甲をみろ。」

「手の甲?っ!!」

 青年の右手の甲にある青白い紋章を見て、眼を見開く。

「コイツはもしかして―――。」

「ああ、多分そうだ。関わらない方がいい。」

 その後、ルシアに改めてお礼を述べる。

「君、本当にありがとう。もし何か困ったことがあれば、俺達を頼ってくれ。」

「ああ、冒険者ギルドに俺達のパーティ名『人知無法』ていえばすぐに伝わるからな。」

 ルシアにお礼を述べた後、この場から立ち去る。青年には一切目をくれずに。

「君は本当に慈悲深い心清き人だね。強引に君達を連れ去ろうとした彼等を助けてあげるなんて。」

「連れ去ろうとはしてなかったわよ、あの人達は。真剣に私達を心配していただけよ。」

 馴れ馴れしくルシアに話しかけてくる青年の間に割って入るリリシア。

「成程、言葉巧みに誘導されていたのか・・・。」

「何なの、あなたは。」

「僕の名前は勇者カリウス。カリウス=バードナーさ。」

 自慢げに右手の甲をルシア達に見せるカリウス。

「僕が偶然ここを通りかかってよかった。」

「そうですか、それはよかったですね。じゃあ私達は急いでいるので。行くわよルシア。」

「うん。」

 リリシアは冷たい態度でルシアを連れてこの場から立ち去る。

「・・・・・・。」

 その場に取り残されたカリウス。呆然と立ち尽くすが、すぐに気を立て直す。

(成程あの子はルシアと言うのか。)

 二人が立ち去った方を見てしめしめ、と頷くカリウス。

(二人とも可愛らしい女性だった。特にルシア君、あのルックスに顔立ち、何より回復魔法の使い手。僕が思い描くパーティメンバーにふさわしい。)

 本来ならお茶でも誘い、友好を築こうと画算していたが、当てが外れた。

(まあいい。機会ならいくらでもある。)

 カリウスは見逃さなかった。

 二人が自分が通う予定であるライトザルト学園の受験票を持っているのを。

(そうさ、いくらでもね。彼女達には好印象を与えたのだから。)

 勘違いに期待を膨らませながらカリウスはこの場を立ち去るのであった。

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