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大魔武王のダンジョン(2)

「た、助けろ!この俺様を助けろ!」

 ドナルドが喚き、自分が集めた傭兵達を盾にする。

 彼達がいるのはユーノ達から数百m離れた大聖堂並みの広さがある一室。

 石畳が敷き詰められただけの質素な大部屋にいたのはハルバードを構え仁王立ちしたグレイオーク。

 グレイオークは灰色の肌に黄ばんだ牙を持つ不細工な怪物。

 筋力はかなり高いが知能はオーク族の中で一番低く、棍棒もしくは素手で相手を叩き潰す事しか能がない生物として世間では認知されている。

 だが、このグレイオークはハルバードを優々に使いこなしていた。

 凄まじくきれいな太刀筋でドナルドが引き連れてきた傭兵達を次々と惨殺。

 血飛沫は煌々と舞い散る。

「こ、れは・・・・。」

 トマスが自分の目を疑う。

 魔物についてある程度の知識を持っている彼はグレイオークが武器を巧み扱っているこの光景が信じられなかったのだ。

 他の三人は目の前で行われている殺戮に腰を抜かしてうごけない。

 その横を颯爽と駆け出したのはエリカだった。

 鞘から剣を抜き、グレイオークへ突撃。

「炎よ、敵を穿て。ファイヤーボール!」

 足を怪我して動けないユーノは魔法でアシスト。

 火の玉(ファイヤーボール)は腰を抜かしている傭兵を真っ二つにしようとするグレイオークの顔面にヒット。

 虚を突かれたグレイオークにエリカは地面を蹴って剣を振るう。

 ゲイ・ジャルグの剣がグレイオークのハルバードを持つ右腕を切断。

 悲痛の叫びを上げるグレイオーク。

 エリカは攻撃の手を緩めない。

 着地してすぐその場で回転斬り。

 グレイオークの首を飛ばした事で戦いに終止符が打たれた。

「す、すごい・・・。」

 ユーノの隣にいたダンが脇腹を抑えながら感銘。

 他の者達も同様の言葉を漏らす。

 誰もがエリカに戦う立ち振る舞いに目を奪われていた。

 ある一人を除いては・・・。

「くそ!お前、この俺は嵌めやがったな。」

 ドナルドが目を真っ赤にしてエリカに怒鳴る。

「『名折れ』が!俺をバカにしやがって。こんな所に俺を連れ込んでどうする気だ。」

 どうやらドナルドはエリカが罠に嵌めて、こんな場所に連れ込んだと思い込んでいるようだ。

 戸惑うエリカを庇う為、ユーノはドナルドに詰め寄る。

「意味が分かりませんね。ジェイクからダンジョンの地図を奪ったのは貴方でしょうに?」

「だ、ダンジョンだと!?しらばっくれるな。お前たちはあのジイさんの師匠、Lスターが創った剣を受け取りに来たはずだ。」

「成程、俺達の会話を部分的に盗み聞きしていたみたいだね。」

 ユーノは丁寧にこの場所がダンジョンで、その奥に自分たちが探し求めるジーノ(Lスター)が造った剣がある事を教えた。

「う、嘘だろ・・・・・。」

「聞いてねえぞ旦那!俺達は隠されている宝物を運ぶだけ、としか聞いてないぞ。」

「そうだ。ダンジョンに挑むとか聞いていないぞ。」

 事実を突き付けられ真っ青になるドナルドへ非難と鬱憤をぶつける傭兵達。

 その中でトマスだけがこれからどうするかを模索していた。

「う、うるさい!黙れ!ならばこのダンジョンを攻略して宝物を手にすればいいだけだろうが!」

「旦那は戦わないから簡単に言えらあ!今だけで何人死んだと思っているんだ!」

 その言葉通り、グレイオークと戦い、生き残った傭兵は僅か6人。(トマス達4人を含めず。)

 30人以上いた傭兵の大多数はこの戦いで失ったのだ。

「俺は抜けるぞ。」

「ああ抜けてやる。」

 ドナルドを見捨て、ユーノ達が来た道のほうへ歩き出す傭兵達。

「ま、待て。この俺を助けろ。報酬は倍出すぞ。」

 呼び止めるが歩む足は止まらない。

「おい、どこに行く!止まれ!」

 叫ぶドナルドは必死で思考を巡らす。

 そしてユーノ達を見てひらめく。

「おい、お前達。そっちに行っても無駄だ。外に出ることはできないぞ!」

「ああん?」

「この者達を見ろ。怪我を負っているにも拘らず、俺達の方へ来た。つまり出口はないのだ。生きて帰れたければ先に進むしかない。そうだろう?」

「無茶苦茶言っているけど、その通りだね。」

 溜息交じりで肯定するユーノ。

(それに退けば死あるのみ、だし。)

 この大広間の扉横の壁に刻まれた文字。

 それは古代魔文字と呼ばれ、現在は使用されない古代文字の一つだ。

 理解できない者にはただの模様としか認識できなかった故、誰も気にも留めていなかった。

(力求める者よ。我創りし剣を欲するのなら扉を開けよ。但し引き返し事ならず。その命を持って力を示せ。)

と記されたその文字を読み解いたのはユーノのみだ。

「生きたければ俺に従え!お前達もだトマス!」

「・・・。」

 言葉が見つからず、黙る。

 それを肯定と解釈したドナルドは唾を飛ばしながらユーノ達を指差す。

「まずはこの二人を捕えろ。武器を取り上げ抵抗できないようにするんだ。」

 ライバルを出し抜く為だろう、敵意を向けるドナルド。

 ユーノは慌てて武器を構えるエリカの前に立つ。

「ちょっと待ってください旦那。」

 首筋を掻きながらドナルドの元に近づくのはトマス。

「考えを改めた方がいいですって。いいですか?旦那が集めた傭兵達が勝てなかった魔物をあの嬢ちゃんは一人で倒しました。この先、もっと手強い相手が出てくる筈です。ここは一つ出てくる相手は全てあの嬢ちゃん達に押し付けましょう。何あっちには足を怪我している奴がいます。彼を人質にして言う事を聞かせればいけますって。」

 耳元で語るトマスの意見にドナルドは大いに賛同。

「俺が交渉しますから、旦那はドンと構えていてください。」

「よしわかった。」

 了承を得て、ほっと胸を撫で下ろすトマス。

 首の痒みは鎮まる。

「すまないな。こう言わないと無駄な血が流れる、思ってな。」

「その勘は正解だったかも知れないね。向かう道は同じ。見えない所で疑心暗鬼になるよりは目の届く範囲にいた方が対処しやすい。」

「あんた達は仲間の命の恩人だ。悪いようにはしない。信じてくれ。」

「いいだろう。但し一つ、条件がある。」

「条件?」

 ユーノはエリカの肩を抱き抱え、こう宣言した。

「エリカに指一本触れることさえ許されない。もしその約束が破られたら、即この場にいる全員を葬ってやる。」

 顔を真っ赤にするエリカと対称に青い表情のトマス。

 何故なら首の痒みが少しぶり返してきたから。

「わかった・・・。その旨は他の者に言い聞かせる。」

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