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大魔武王のダンジョン(1)

「こ・・・ここは?」

 意識を取り戻したエリカ。

 周囲を見渡すが、光が一切なく何も見えず。

「確か私は・・・・、そう。地震の後に突然地面が消えて、そして落ちて・・・。」

 しばらくして眼が暗闇に慣れてようやく周囲が見え始める。

 そして気づく。自分がユーノの上に乗っていることに。

「ユーノ。大丈―――きゃあ。」

 悲鳴を上げたのはお尻を弄られた感触があったから。

「その声はエリカか?」

「ええ、そうよ。」

 意識を取り戻したらしい。

 彼の視界はこの暗闇にまだ慣れておらず、無造作に手を動かしたらたまたまエリカの臀部に触れてしまったようだ。

「怪我はないか?」

「ええ、大丈夫。」

 長いこと上に乗り続けるのは悪いと感じたエリカ。直ぐに離れようとするが、ユーノがそれを許さない。

 腰に腕を回し、反対の手でエリカの頭を優しく撫でる。

「無事でよかった。本当に良かった。」


「ここはどこかしら?」

 立ち上がるエリカの顔が少し赤いのはユーノに自分の身体を堪能されたから。

「多分だけど、ここはジーノ父さんが創ったダンジョン内だと思う。」

「もしかして、あの魔方陣がダンジョンへの入り口?」

「そうだと思う。」

「だとしたら、あの魔方陣内にいた人達もこのダンジョンにいる可能性があるわね。」

「ああ。反対にルシアはこのダンジョンには入れなかった――っ!」

「ユーノ!」

 言葉の途中で突然うめき声をあげるユーノ。

 立ち上がった瞬間に左足首を抑え、蹲ったのだ。

「ちょっと見せて・・・・・。」

 ユーノを座らせ、靴を脱がせて触診。

 折れていないが肌は真っ赤、大きく腫れていた。

「捻ってしまったな。」

「医療セットは?」

「ない。俺が持っていたポーチは落下の際に紛失した。」

 エリカは慌てて自分のポーチを確認。

「回復薬はあるけど・・・・。」

 エリカのポーチには少々の回復薬が収納していたが、この落下の衝撃で殆どの瓶にヒビが。

「ダンジョンで必要な荷物はジェイクが全て持っていたからな。」

「そうね。とにかく1本は無事だから、これを飲んで。」

 回復薬の瓶を手渡す。が、暗闇の奥から突如蔦が瓶に絡んでエリカから奪い取る。

「返しなさい!」

 瓶を割らないよう細心の注意を払いながら奥へ逃げてゆく蔦を追いかけるエリカ。

 追いかけた先にいたのはトマス。

 蔦から回復薬を受け取るのを微かに見えた。

「待ちなさい、それは―――。」

 叫ぶ声が途中で止まったのは全貌を見たから。

 トマスのすぐ傍には脇腹から大出血している一人の男性の姿が。

 近くの尖った岩に大量の血痕。

 どうやら落下の際に突き刺さったらしい。

「おいダン!死ぬな。目を閉じるな。」

「兄さん。しっかりして!」

 顔面蒼白で今にも息絶えようとしている男性を目の前に「返せ」と言う言葉が失っていく。

「俺が押さえておく。その内に早くコイツを。」

 剣を抜き、回復薬を仲間へ渡すトマス。

 それに対してエリカは剣を抜かない。

 目の前で死にかけている人を見捨ててまで取り戻そうとは思わなかったのだ。

 そんなエリカの想いを察したのかトマスも戦闘体制を解く。

「すまない。でも仲間を、コイツを死なせたくないのだ。」

 回復薬を傷口にかける。

 すると傷口は瞬く間に塞がり、呼吸も次第に整い始める。危機を脱したようだ。

「エリカ、どうなった?」

 棍を杖代わりにしてユーノがゆっくりやってくる。

「ごめんなさいユーノ。実は・・・。」

「大丈夫だよエリカ。俺は君の行動を尊重するよ。」

 周囲を見て事を瞬時に把握したユーノは優しく頭を撫でる。

 それが嬉しくて表情が緩む。

 自然と頭がユーノの肩へと引き寄せられる。

「本当にすまなかった。いきなり回復薬を盗んで。ただ急を要していた。ダンを死なせる訳にはいかなかった。」

「気にしないでいい。ダンジョン内だ。困った時はお互い様だ。」

 足を庇いながら答えるユーノ。

「それよりも他の仲間は?」

「仲間?ああ、旦那が連れの事か。あれは寄せ集めでね。ここにいる連中以外は今日出会った奴ばかりさ。」

 トマス曰く、ドナルドからこの周辺に隠されている宝物を運ぶ為に集められた、の事。

「ダンジョンに潜るなんて寝耳に水。聞いていれば断っていたさ。」

 ユーノ達と同様で落下の際に気を失い、目を覚ましたらこの場にいたそうだ。

「他の奴らもこのダンジョンにいると考えているのか?」

「その可能性が高いな。」

「そうか・・・。」とトマスが答えた時だった。

 遠くから男の悲鳴が辛うじて聞こえたのだ。

 互いに顔を見合わせ声が聞こえた方へ駆け出す。

 とはいえ怪我人が二人いるのでスピードはそれほど速くないが。


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