初ダンジョン(4)
「お待ちください、国王陛下。」
「勇者カリウスよ、朕の判断に不満を申すのか?」
「そうではありません。」
「ならば問題はない。では先程申した通り勇者のパーティにあの娘を同伴させる。」
「国王陛下。私はいずれ魔王と戦う身。そんな危険な場所に彼女を―――。」
「その為に今も前線に送り、武勲と経験を与えているのだ。実力に支障はないはずだが。」
国王の言葉に言い返す言葉が見つからない。
無言となったカリウスに国王の隣に立つ第一皇子が不適な笑みを浮かべ言い放つ。
「ならば、妹よりも腕の立つ魔術師、もしくは回復術師を連れてくればよい。」
見つける事ができればな、と言葉をぶつけられたまま王宮を後にしたその日、カリウスはルシアと出会った。
一目見て、彼女ならばあの女性の代わりになり得ると確信した。
だからこそ、自分のパーティにしつこく誘った。
全てはあの女性を守る為に。
だからこそ僕は強くてはならない。
誰にも負けない圧倒的な強さを。
皆を護れる強さを。
僕が。
この僕の力で・・・。
「――君。バードナー君!」
リリシアに名前を呼ばれ意識を取り戻したカリウス。
ずぶ濡れとなっている自分の身体を見渡すと焼け落ちていた皮膚は完全に治っていた。
溶岩を浴びて意識を失ったカリウス。
それを一部始終目撃していたリリシアはすぐさまソニックウェーブでカリウスの身体を焼いていた炎を鎮火。
ミゼーヌが敵の注意を逸らしている隙に安全な所まで回収し、回復を行ったのである。
「どう?何処か身体に痛みはある?」
「大丈夫だ。」
上体を起こして確認。そして周囲に転がっている大量の空瓶を見つける。
本来であれば溶岩を全身に浴びた時点で即死。
カリウスが完全回復できたのは大量の回復薬を使った事ともう一つ、勇者の加護のお陰である。
不死鳥の涙で刻まれたとされるこの紋章は少しばかりの全属性魔法耐久と治癒回復上昇の恩恵を受けている。
「リリシア君のおかげで助かったよ。」
お礼をそこそこ。
立ち上がり再びグラビティタートルに挑もうとするのに対しストップをかけるリリシア。
「ちょっと待って!」
「いや待てない。ミゼーヌ君が危ない。すぐに助けないと。」
「だからちょっと話を聞いて。」
「あの相手は僕が倒さないといけない。この僕が。」
「だから話を―――。」
「勇者である僕が――。」
「話を聞いて!て言っているでしょうが!!」
我慢の限界を超え、カリウスの頭にゲンコツ。
頭を抑えて蹲った所に魔力回復薬が入った瓶を無理矢理口に突っ込む。
「何度も言っているでしょ!人の話を聞いて!一人よがりは辞めてと!何で分からないの!」
目尻に涙を溜めて訴えるリリシア。
「そこまで一人でするならパーティなんて、私達なんて必要ない!」
「そんな事はない。君達が必要だ。」
「何の為に?!」
「それは・・・。」
「私達は貴方の都合のいい道具じゃない。」
その言葉にカリウスは何も言い返せない。
「貴方が何故ルシアに固執するのか?私やミゼーヌを誘ったのに何もさせないのは何故か私は全く知らない。だって貴方が何も話さないから。だからもういいし、何も聞かない。勝手にして。だけど今だけは、この時だけは私の言うことを聞いてもらうわ。是が非でもね。」
魔法回復薬の瓶をもう一本口に押し込む。
「いい。グラビティタートルは頭ごなしで戦う貴方と相性が悪すぎる。ただ力任せに勝てる相手ではない事を念頭に置いて。」
「ならば―――うぐ!」
反論を魔法回復薬で塞ぐ。
そのおかげでグラビティタートルとの戦いで消費した魔力を全回復。
「倒す方法ならある。」
リリシアの言葉に目を見開くカリウス。
攻略への一筋の光が差した瞬間であった。
「そ、それはどうやって・・・・・。」
「話、ちゃんと聞いてね。」
「あ~~~~~~~~~~~~~~~~もう!面倒くさいですわ。」
悪態と苛立ちを原動力にグラビティタートルの後ろ脚に連続突き。
剣を握る右手には硬い岩石にぶつかった感触が伝わる。
「ダメージが通っている感触が一切ないなんて。ほっんとうにストレス―――っ!」
グラビティタートルの咆哮に素早くその場から離脱し、地ならしに備える。
(前足が地面を蹴った。突進ですわ!)
巨体を揺らして突進を繰り出すグラビティタートル。
数回転がり余裕の回避から再び攻撃に転じる。
(それにしてもリリシアさん、この短い時間でよく相手の攻撃パターンを把握しましたわね。)
グラビティタートルと対峙する前にリリシアからグラビティタートルの行動を頭に叩き込まれたおかげで一撃でも受ければ即死の攻撃に対してかすり傷程度で済んでいる。
「ただこちらもダメージを与えてなくてイライラしますけど・・・。とイケナイですわ。」
大きく深呼吸してイライラを吐き出す。
「(いいですか。これは耐久戦。短気を起こしたほうが負けです。根気比べですよ。)リリシアの言う通り我慢我慢・・・・おっと。」
グラビティタートルとの間合いが少し離れ過ぎたので慌てて間合いを詰める。
「(グラビティタートルは近眼で遠い相手を認識できません。体力が少なくなった時のみ離れてください。それ以外の時は出来るだけ距離を詰めて近くに敵がいることを認識させてください。でないと噴火をし続けます。)」
リリシアからの忠告を思い出しながら攻撃を続ける。
「とにかく私にはこの魔物を倒す手立てがありません。勇者様が戻るまでの間、注意を引き付けておかないと・・・・・・てまだですの?勇者様の復帰は!」
「遅くなったミゼーヌ君。」
「勇者様!」
全回復したカリウスがようやく合流。
ミゼーヌはここで一時離脱。
リリシアの所まで戻り、疲労の汗を拭い、魔力回復に努める。
「ミゼーヌ、魔力が回復したらすぐに戻ってもらうから。」
「人使いが荒いですわね。で、貴女はどうしますの?」
「少し距離を離れたところから援護する。ミゼーヌ、身体強化魔法は使わなくていいわ。私がやるから。」
「あら、いつの間に覚えましたの?それにあの魔物の事を詳しいですし。」
「勉強したのよ。空いている時間を見つけてね。」
「相変わらず勤勉な事ですわね。」
「当り前よ。だって私はね、負けず嫌いなのよ。」
戦線復帰したカリウス。
その動きは今までの一撃で仕留める動きではなく、ミゼーヌ同様、持久戦に持ち込む考え。
リリシアの言付を忠実に守っている。
しばらくしてミゼーヌも復帰。二人で前線、リリシアも後方支援に徹する。
長期戦。
三人ともここまでの長期戦を経験した事がなく、疲労はいつもより早く蓄積していく。
「カリウス我慢して。熱の息が来るわよ!」
グラビティタートルの鼻孔が膨らむのは口から熱風を吐き出す前兆。
リリシアの指示にすぐさま範囲外へと逃げ込む二人。
的確な指示を続けるリリシアに信頼して行動を続ける二人。
ミゼーヌは四足を狙い、宙に浮くことができるカリウスは目の前でウロチョロ動き回り、相手を苛立させる事に徹する。
根気よく戦いを続ける勇者一行。
それに対してグラビティタートルは苛立ちを募らせる。
本来は温厚な性格。
しかし強制的にこのダンジョンへ連行された事と周囲の環境が自身に適していない事に対するストレスが募り募り、苛立ちが抑えれていない状況。
そして周囲で動き回るカリウス達が鬱陶しくてより頭に血が上る。
「~~~~~~~~~!」
根気比べ。
先に音を上げたのはグラビティタートル。
今日一番の咆哮を天に放つ。
「来るわよ!」
グラビティタートルの前足が屈伸したのを目撃したリリシアが叫び、カリウスとミゼーヌは無言で頷く。
屈伸から上体を起こして勢い良く立ち上がるグラビティタートル。
自慢の巨体で全ての敵を全て踏みつぶす、グラビティタートルの切り札であり最強の技――ボディーブレスだ。
「その技を待っていたわ。バインド。」
グラビティタートルの後ろ脚が屈伸した瞬間を狙い、後ろに潜んでいたリリシアが予め準備していた魔方陣を瞬時展開。
複数の魔法の鎖がグラビティタートルの首を絡みつき、後方へと引っ張る。
「ミゼーヌ!」
リリシアの声よりも先に動いていたミゼーヌ。
猛ダッシュで突撃。
狙うは屈伸している左後ろ足。
「私の渾身の攻撃、受けなさい!」
ダッシュを生かした強烈な突き。
リリシアとミゼーヌの合わせ技にバランスを崩したグラビティタートルは耐えられず青天。
グラビティタートルは大きな甲羅の影響で一度ひっくり返すと起き上がることができないのだ。
そして普段表に見せない腹部は一番脆い部位である。
「お膳立ては出来ましたわ勇者様。今こそとどめを!」
上空に向かって叫ぶミゼーヌ。
「皆が作ったこの好機、無駄にしない。」
遥か上空から剣を天に掲げるカリウス。
今持っている魔力を全てオアシスの聖剣に捧げる。
「オアシスの聖剣よ、僕に力を!!」
魔力によって刀身が一回り、いや二回りも大きくなり、そして神々しい輝きを放つ。
それを目にするグラビティタートル。
自慢の装甲もなく、頭頂部になる魔石も今の状態では防ぐことができない。
この場から逃れようと四足をジタバタさせる。
「これで決まる!覚悟!!」
流星の如く急降下したカリウス。
オアシスの聖剣はグラビティタートルの腹部を突き刺す。
「やった!!」
体内にある心臓部の核を砕いたのを目視したリリシアはガッツポーズ。
「やりましたわね。」
ミゼーヌと勝利のハイタッチ。
だが彼女たちは勝利の余韻に浸ることはできなかった。
突如、足元が大きく揺れる。
「なんですの!もしかしてまだボスがいるのですか!」
ミゼーヌが叫ぶ。
だが、それは間違い。
全魔力を捧げたオアシスの聖剣はとてつもない威力であった。
貫いたのは腹部だけでなく、ダンジョン50層の地面まで貫通。
それでも尚、勢いは留まらず次々と下の階層を破壊。
最後は誰も踏み入れることができない地下層――このダンジョンの制御を行っている指令部までに到達、ダンジョンの動力部であるコアを貫いたことでようやく停まる。
その結果、ダンジョンの動力部が暴走し、大爆発。
イスカディール帝国領土全域に大地震を発生させたのである。
こうして勇者カリウスはダンジョン攻略の称号を手にしたと同時にイスカディール帝国に大きな被害を与えたのであった。




