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初ダンジョン(3)

「―――――!!」

 グラビティタートルの咆哮に身体は硬直。

 地面を揺らしながらの突進。

 しかしグラビティタートルは重量型でスピード感は一切ない。

 故に一撃必殺の突進を辛うじて躱したカリウスはすかさず側面に移動。

「くっ、これでどうだ!」

 渾身の斬撃。

 ガチン、と鉱石にぶつかった音が響き、オアシスの聖剣を通して手に痺れが。

 グラビティタートルの黄土色した皮膚と甲羅は鉱石のように頑丈で生半可な攻撃は一切通らないのだ。

 「このオアシスの聖剣ですら一撃で血を流せていないとは・・・。ならば。」

 カリウスは一点集中で何度も斬り続ける。

 が、功を期す兆しは見えそうにない。

 その頃、リリシアは一目散へ岩陰に駆け出していた。

「ちょっとヨウダーさん。しっかりして!!」

 泡吹くヨウダーの身体を激しく揺さぶる。

 今この状況を一番理解している彼女はかなり焦っていた。

「え?あ、あの・・・。」

 意識を取り戻したヨウダーに早口で質問。

「ねえ、転送石は幾つ用意しているの?回復薬は?」

「えっと、転送石は3つで回復薬は2ダース用意してますけど。」

「じゃあ回復系と転送石は全てここに置いて。そして貴方はこの転送石で離脱して。」

「俺一人、ですか?」

「バードナー君は意地でも撤退しないわ。今貴方がすべき事はここから離脱してこの事をギルドに報告。救援を呼ぶ事。」

「わ、分かりました。」

 リリシアの指示を理解したヨウダー。

 背負っていたバッグから回復系の薬と転送石を取り出し、転送石を使って離脱。

 無事にここから離脱したのを確認したリリシアはバックから回復系の薬と転送石を取り出してポシェットに仕舞い、次の行動へと移す。

「ミゼーヌ!」

 彼女はただただ驚き、立ち尽くしていた。

 幸いグラビティタートルからかなり離れていた為に攻撃対象にならずにいたが、無防備な彼女はとても危険な状況である。

「ちょっとしっかりしなさい!」

 グラビティタートルの甲羅が赤く光り始める。

「拙いわ。早くここから離れるわよ!」

 引きずってその場から離脱すると同時にグラビティタートルの甲羅の火口からマグマを噴火。

 それは近くにいるカリウスだけではなく、離れていたリリシア達にも襲う広範囲の攻撃。

 幸いカリウス達に直接ダメージはなかったが、地面に落ちたマグマは周囲の草木を燃やし一瞬にして火の海と変える。

「水よ、今ここに体現せよ。ソニックウェーブ!」

 構えた杖から水の渦が出現。

 それを操り周囲の火災を鎮火していく。

「何ぼっとしているの。ミゼーヌも手伝って!水属性魔法使えるでしょう!」

 リリシアの叱責でようやく我に返ったミゼーヌ。リリシアに言われるまま魔法を発動させる。

「拙いわね。」

 消火活動を行いながら、戦いを続けているカリウスに視線を移す。

 グラビティタートルの噴火を躱したカリウス。

 再び突撃、攻撃に転じる。

 しかしカリウスの攻撃は殆ど通っておらず、手詰まり状態。

 苦戦を強いられるカリウス。

 顔に焦りが見え始める。

(どうすればいい?どうすればいいのだ?)

 今まで相手を圧倒して勝利を手にしてきたカリウス。

 ここまで苦戦した経験がなく、この状況を打開する術を身につけていないのだ。

 今まで一振りで相手を蹴散らしていた斬撃は僅かな擦り傷しか与えず。

 この事実がカリウスの心情に動揺と不安を与える。

 そしてその焦りが彼に誤った判断を下す。

「光よ、ここに集い 邪を払え。」

「バードナー君!ダメ!」

 詠唱を始めたカリウスを見て、リリシアの制止の声が飛ぶ。

 だがカリウスの耳には届かなかった――いや耳を傾ける余裕がなかった。

「ホーリーレイ!」

 光属性魔法はどの魔物にも大きなダメージを与える事ができる希少で優秀な魔法。

 だからこそカリウスは光属性魔法を放った。

 だが、この場面では間違った選択であった。

 グラビティタートルの頭頂部にある群青色の魔石から自身の身体を隠せる程の八角形の魔法の盾が出現。

 無数の光弾はその魔法の盾に弾き返され、カリウス達に降り注ぐ。

「ダメよ!グラビティタートルはリフレクターを持っていて遠距離攻撃は全て弾き返してしまうわ。」

「斬るのも駄目。魔法も駄目。ならどのようにしてあの魔物を倒すのよ!」

 金切り声をあげるミゼーヌ。

 絶望的な状況だと知り、撤退の意思を示す。

「私だって撤退したいわ。でも出来ない。」

「どうして!!」

「グラビティタートルをあのまま放っておけばこの50階層は火の海に、いいえもしかしたらダンジョンの外にまで影響を与える恐れがある。」

「ではどうするですの?」

 リリシアは考える。

 一つはこのままグラビティタートルの怒りが鎮まるまで戦う。

 しかしそれは非現実的。

 いつ怒りが収まるか分からないし、三人だけで一睡もせず戦い続けるのは無理難題。

「(ヨウダーさんに援軍を頼んだとはいえ、ここは複雑な迷宮のダンジョン。人員を集める時間もあるし、いつ来るかなんて分からない。)全く、余計なことをしてくれたわ暇人三人衆。」

 紙を地面に叩きつけ、会ったこともない暇人三人衆に怒りをぶつける。

「こうなったら方法は一つよ。」

 決意を固める。

 それは自分達でグラビティタートルを倒すこと。

 だがその為には一つ問題がある。

 それは今グラビティタートルと戦っているカリウスだ。

「(生き抜くには三人の力を合わせないと絶対に勝てない。)ミゼーヌ、今から話すことをよく聞いて、覚えて。」

「な、なんですの?いきなり。」

 眼を丸くするミゼーヌにリリシアはある内容を伝えた。


(このままでは・・・。)

 カリウスの表情にはいつもの余裕はない。

 グラビティタートルを倒す手立てが全く思いつかないのだ。

(僕が倒さないと。倒さないとあの女性(ひと)が。)

 脳裏に浮かぶのは綺麗に着飾れた女性の笑顔。

「あの女性(ひと)の為に僕は絶対に負ける訳にはいけないんだ!!」

 今残っている魔力全てオアシスの聖剣に注ぐ。

 一気に勝負を決める算段。

「オアシスの聖剣よ、この僕に力を!」

 雄叫びを響かせ、攻めるカリウス。

 光輝くオアシスの聖剣を振り翳し、フェイントを入れて高々にジャンプ。

 側面から首を狙う。が、グラビティタートルは本能で反応。

 首を動かし、カリウスに向けて咆哮。

「うわああ!!」

 熱気を含んだ咆哮音圧にカリウスは耐えれず、吹き飛ばされる。

「ぐはっ!」

 受け身を失敗し、全身に強烈な痛みが。

 起き上がれないカリウスに追い打ちの噴火が。

 上空から襲う溶岩を全身に浴び、絶叫。

 焼け落ちる皮膚の痛みと熱さに耐えきれなかった彼はそこで意識を手放した。


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