初ダンジョン(2)
50階は他の階層とは少し違っていた。
まず天井がなく魔法によって青空が広がっており、地面は石畳ではなく若葉が生い茂る草原。
風が運ぶ土の匂いが鼻を擽る。
想像の斜め上の光景に驚きのあまり呆然と立ち尽くす勇者一行。
しかし空から聞こえた甲高い奇声で我に戻る。
「勇者様、あそこですわ。」
ミゼーヌが指差す先に見える三つの影。
悪魔みたいな黒い羽を羽ばたかせるゴブリンに似た魔物、レッドゴブリンである。
全身が深い赤色の肌に不気味な黄色い眼。
三体の頭に生える角がそれぞれ本数が違い、細い腕には異なる武器(一本角のレッドグレムリンは鎌、二本角は鉤爪、三本角は三又の槍)を握っている。
「あれです。このダンジョンのラスボスのレッドグレムリンです。」
「ヨウダーさん、ここは危険です。どこか安全なーーーあれ?」
後ろにいたはずの大柄なヨウダーの姿が見えず。
よくよく探してみると十数メートル先の大きな岩裏まで避難し、密かに声援を送っている姿を発見。
「行動、早すぎ…。」
流石、冒険者歴二十数年の大ベテラン、と感心。
「リリシアさん、きますわよ。」
ミゼーヌの声と同時に一本角のレッドグレムリンが口から黒い火の玉を発射。
「させない!」
ミゼーヌとリリシアを狙った黒い火の玉をオアシスの聖剣で切り払う。
「お前達の相手はこの僕だ。」
オアシスの聖剣を向けられてもケタケタ笑う三体のレッドグレムリン。
上空から黒い火の玉を口から吐き続ける。
「こっちが上空に行けないと鷹を括っているようだが、甘い!」
降り注ぐ火の玉の雨を切り払い、地面を蹴って空を駆け上がる。
「僕は王宮魔導士から直々に指導を受けた。空を飛ぶ事ぐらい動作でもない。」
カリウスが迫ってきた事に慌てた三体のレッドグレムリン。
すぐさま手にしている武器で応戦。
1対3という数的不利は全く感じられない戦い運び。
レッドグレムリン達の連携が皆無で各々が好きがってな動きをしているからに他ならない。
その事をすぐさま見抜いたカリウスは防御ではなく回避を選択。相手の同士討ちを狙う。
「ギギギ。」
「ギャアギガ。」
互いの攻撃がぶつかりそうになり一本角と三本角が言い争いを始めたその隙に二本角へ集中攻撃。
カリウスの圧倒的な攻撃を防ぐことが出来ない二本角。
ダメージが次々と入り、苦し紛れに後方へ飛び逃げる。
「オアシスの聖剣よ、今こそ力を!」
魔力装填。
剣先から眩い光が。
「喰らえ、ホーリーレイ!」
光属性の散乱弾を発射。
悪魔族であるレッドグレムリンにとって光属性魔法は弱点。
レッドグレムリン達は急旋回して必死に回避。が、全てを躱す事はできず。
ホーリーレイを受けた箇所は塵となり、消失していた。
「これでトドメだ。」
宙に留まるのが精一杯のレッドグレムリン達。
光属性を纏わせたオアシスの聖剣を構えたカリウスの突撃。
瀕死状態のレッドグレムリン達は真っ二つにされ、絶命。
塵となり消滅。
圧倒的な力を見せつけたのだ。
「見事ですわ、勇者様。」
全てを片付けて地面に着地したカリウスを大絶賛で出迎えるミゼーヌの後ろでリリシアは落胆。
(やっぱりダメかもね。)
結局、このダンジョンに潜って一度も戦いに参加させてもらえなかった事に憂う。
自分は何の為に勇者のパーティに加わったのか?
その意義を見出せなくてモヤモヤが募る。
信頼されていない事に対する怒りなのか、憤りなのか分からず。
一つ分かるのはこのパーティに自分が所属する必要性を全く感じない事。
(やっぱりやめよう。)
改めてそう決意する。
「(このダンジョンを出て先生にこの事を伝えてーー。)あれ?」
「どうかなされましたか?」
キョロキョロと周囲を見渡すリリシアの行動に不審感を抱いたのはミゼーヌ。
「ねえ二人とも。ラスボスを倒した報酬、手にした?」
リリシアの質問に首を横に振る二人。
「確かラスボスを倒したら、報酬が入った宝箱が出てくるはず。」
「そういえば、そうだったな。」
キョロキョロ見渡しが、目的の宝箱は見当たらない。
「何故だ?どうして宝箱が出てこない?」
その時、リリシアの背筋に寒気が走る。
彼女は今、良くない事が脳裏に浮かんだのだ。
「もしかして、ラスボスは他にいる?」
「そんな馬鹿な事ありませんわ。情報にはそんな事は一切――――。」
ズシーーン!!
地響きの音と振動が勇者一行に伝わる。
ズシーーン、ズシーーン!
地響きは足音。
遥か前方から山のような大きな陰がじわり、じわりと近づく。
「嘘・・・。」
「これは・・・。」
迫る正体を目の当たりにして絶句するミゼーヌとカリウス。
ヨウダーは驚きのあまり泡を吹いて気絶。
リリシアは絞り出すように影の正体を口にした。
「グラビティタートル・・・。何でこんな所に?」
グラビティタートルは火山帯に生息する魔物である。
全長は小さくても5mはあり体重も1tを超える。
基本的には温厚で大人しいのだが、一度暴れ始めると手に負えなく絶対に手出ししてはいけないよう注意魔物として認定されている。
背中の甲羅には複数の火口があり怒るとその火口溶岩を噴火、瞬く間に辺り一帯を一瞬で火の海を化してしまうのだ。
「落ち着くのだミゼーヌ君、リリシア君。グラビティタートルを刺激しないように。」
「無理よ、既に激怒しているわ。」
グラビティタートルの瞳は通常、穏やかな黒色なのだが怒ると赤く染まる性質を持っている。
「そもそもどうしてグラビティタートルがここにいるのですか?!」
「私に聞かないでよ!」
グラビティタートルの荒い鼻息が突風となり、勇者一行を襲う。
「何よこれ!」
風に流されリリシアの顔に張り付いた一枚の紙を剥がす。
紙に書かれた文字が書かれており、こう記されていた。
『あまりにもレッドグレムリンが弱過ぎるのでラスボスに相応しい魔物を用意しておいた。若人達よ、このグラビティタートルを倒してみせるのだ。
ダンジョンを突破した暇人三人衆、S・G・Dより』
「・・・、余計なことしないでよ!!!」
リリシアの叫びとグラビティタートルの咆哮が50階層に響き渡った。
暇人三人衆SGD。
SOPRANOS
GINO
DELTA
の三人の事です。
本当に好き勝手してますね、この三人。




