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初ダンジョン(1)

「オアシスの剣よ、力を解き放て!」

 輝きを放つオアシスの剣の一撃に数体のボスゴブリンは瞬殺。

「戦闘終了、先に進もう。」

 爽やかな笑顔を後ろに控えている仲間に先を促す勇者カリウス。

 彼は今、イスカンディア帝国領土内にあるダンジョンを絶賛攻略中。

 広い草原の中に聳え立つ塔型ダンジョン内は複雑な迷路となっており上下階を何度も行き来して最上階の50階を目指す仕様。難易度も高く、過去にここを攻略したのは1組だけ。(因みにこの時の報酬がオアシスの剣である。)

 カリウス達がダンジョンに潜って早3日。

 彼達は現在46階まで到達。

 複雑な迷路であるこのダンジョンをこの短時間でここまで到達しているのは驚異的な早さ。

 しかしこれには訳がある。

 事前に騎士団が下見、そして冒険者達から情報を入手して地図を作成。

 その情報を頼りに最短ルートを辿っているだけである。

 これはイスカディール帝国国王の勅令で、短時間で達成したと世に広めて箔をつける魂胆である。

 そんな思惑がある事を知らない勇者一行。

 攻略は順調で大きな問題もないのだが、ただ一人不満を抱いている者が一人。

 リリシアである。

 彼女の不満、それは全ての戦闘をカリウス一人が受け持っている事。

 5階毎に待ち構えているボスモンスターはもちろん、その他の戦闘も先陣を切るカリウスが一人で倒しているのだ。

「改めて凄いですな、勇者様の実力は。」

 荷物係(ボーダー)として今回カリウス達に同行しているヨウダーはただただ感心するばかり。

「そうでしょうとも。」

 おほほ、と高笑いするミゼーヌ。

 自分の事の様に喜ぶ一方、リリシアは笑顔なし。ずっと難しい表情をしている。

「勇者様、もう少し進むと休憩地点(セーフティーゾーン)があります。そこで休息をとりましょう。」

「了解したヨウダーさん。」



「それで何かな?僕に話って。」

 休憩地点(セーフティーゾーン)にて、ミゼーヌとヨウダーが寝静まったのを見計らいカリウスが口を開く。

「二人っきりで話したいと言っていたけどどうしたのかな?」

「こんな所でこんな話をするのはどうかと思うけど、ただこの機会を逃せばもう次がないと思うの。」

 前置きを並べるリリシア。

 カリウスは神妙な面影を見せる彼女が何も語るか全く想像ができなかった。だからこそ次の発言は心底驚く。

「私、このダンジョンを出たら貴方のパーティーから抜けさせてもらうわ。」

「なんだって!!どうして急にそんな事を。な、何故だね?」

「そうね。理由は色々とあるわ。」

 大きく息を吸い、積もり溜まった思いを全て吐き出す。

「人の話は聞かない。自分勝手な解釈をする。自分の価値観を人に押し付ける。身勝手な行動が多い。」

 矢継ぎ早の言葉は全て急所(クリティカルヒット)。崩れ落ちるカリウス。

「まだまだ言い足りないけど、一番の理由は私を見ていないことよ。」

(見ていない?何を言っているのだ。僕はちゃんとーーー。)

「私の言葉が全然理解できていないみたいね。」

「当たり前だ。君が支離滅裂な事を言うから。」

「じゃあ、カリウス君が理解できるように話すわ。まず一つはこの前の実習の事。ワザと私を怒らせてルシア達と一緒に追試を受けるように画策したわよね。」

「あの事ならあの後に謝罪したではないか。」

「あの一言で全て解決したと思っているのは貴方だけよ。」

 追試の後、肩を軽く叩いて「お疲れさま。今回はすまなかった。」の一言のみ。

 それも目を合わさずに立ち去りながら。

 誠意が感じられず又、何に対しての謝罪なのかわからず今日に至る。

 その事を指摘するとようやく自分の行動の愚かさに気づいたのか、罰悪そうな表情を見せる。

「それにカリウス君は私の事を一切見ていない。必要とされていない。誰でもいいのでしょう。魔法が使えれば。」

「心外だリリシア君。僕は優秀な魔術師である君だからこそパーティーに加わってもらったんだ。」

「そうとは思えないわ。貴方の行動からは何一つ。一人で戦って終わらせる。今回だってそう。私達の声を一度でも聞いた?」

「それは君達を危険に合わせたくないからで―――。」

「私は自分の意思でダンジョンに足を踏み入れたの。危険な事ぐらい覚悟してきたわ。」

 リリシアの反論に言い返せず。

 いつも聡明で自信に満ち溢れた表情はなく、困惑と迷いが見える。

「ただただ貴方が戦っている所を遠目で見るだけなら私じゃなくてもいい。そう思ったから抜けようと思ったの。」

「誰でもいい訳ではない。リリシア君でないと困る。」

「それはルシアが欲しいからでしょう。親友の私を使ってルシアを加えようとした。でも上手く行かなかった。だから今度はトライシア君を抱き込もうとした。それだけの理由で私に声をかけただけ。ルシアと恋仲になりたいだけでーーー。」

「違う!!」

 カリウスの怒号にリリシアの発言が止まる。

 一度も見たことがないカリウスの怒り。

 肩を振るわせ、息荒ける彼の姿に驚き戸惑う。

 時間が止まる。

 ヨウダーのイビキだけが響く。

「すまない・・・。いきなり大きな声を出して・・・。いや、そうではないな。僕の言動が君に不信感を抱かせてしまった。」

 ゆっくり頭を下げる頃には落ち着きを取り戻していた。

「確かにリリシア君の言う通りだ。君を誘ったのはルシア君を自分のパーティーに呼ぶ為。打算がなかったと言えば噓になる。だが、勘違いしないでほしい。僕はそれだけの理由で君を誘ったのではない。君の実力を見込んで誘ったのだ。僕には必要なんだ。リリシア君の魔術師としての才能、そしてルシア君のあの回復魔法の力が。勇者パーティーに必要なんだ。恋仲とかは一切考えていない。」

「私とルシアの力が?」

「ああ、君達2人ではないといけないんだ。他の人では駄目だ。見劣りしてしまう。それでは駄目だ。でないと・・・、でないと・・・。」

 徐々に尻込みしていき、最後の方は何を言っているのか分からない。

「頼む!脱退しないでくれ。この通りだ!君が脱退してしまったらもう・・・・・。」

 土下座するカリウス。

 彼がここまでするとは思いもよらず、固まるリリシア。 

 結局リリシアは明確な返答が出せないまま、この場を終わりを迎えた。


「(まさか、彼が土下座までするなんてね・・・。理由は教えてくれなかったけど・・・。)本当に私は意志が弱いな・・・。」

 無意識に零れた愚痴がミゼーヌの耳に届く。

「何を訳わからない事を言っているのですか。集中しなさい。」

「ごめんなさい。」

「勇者様が全て倒してくれていますが、不意打ちもあり得ます。一瞬の油断が命取りですわよ。」

(ミゼーヌさんの言う通りだ。)

 悩みを一旦胸の奥へと仕舞い込み気を引き締めるその横でヨウダーが地図を凝視しながら指示を出す。

「勇者様、次の分かれ道を左へ。そして少し進むと階段があるので下ってください。そうしたら、最上階へ続く昇り階段があります。」

「了解した。いよいよラスボスだな。」

 カリウスはいつも通りの対応。

 リリシアの件は全く考えていない。

 このダンジョンを攻略すれば考えを改めてくれる、と楽観視しているのだ。

(大丈夫だ。僕なら出来る。一人で。)

 絶対的な自信を胸にラスボスがいるであろう50階へと続く階段へと足を踏みだした。

所変わり、カリウス一行のダンジョン攻略編です。

さぁ、カリウスたちに待ち受けるラスボスとは?

こうご期待。

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