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入口(2)

「おいおいおい、これはどういう事だよ。」

 戦況に嘆くトマス。

 たった3人の学生に30人強の傭兵達が押されているのだ。

「あの少年は別格として剣のお嬢ちゃんも腕はピカイチ。そして後ろで老人を守るお嬢ちゃんが張る魔法防壁は突破できない。完全に積んでいるだろうよ。」

 注意深く観察して相手の隙を探すが、見つからない。

「(こりゃあ正攻法では無理だな。)とりあえず狙うは、あの子だな。」

 戦っている味方を視界遮断に利用して、懐から取り出したのは植物の種。

 トマスは植物魔法の使い手。

 戦闘向きではない魔法という事で、実家を追い出された苦い過去がある。

「剣も魔法も使いよう、てな。」

 地面に種を植え、促進魔法を発動。

 種から無数の根が地中で急成長。

 急速に伸びて向かう先は魔法防壁を展開しているルシアの足元へ。

『ジェイクにルシア殿、すぐその場から離れるのだ!』

 ガウルの声にすぐさま反応したルシアとジェイク。

 すぐさまその場から飛び退き、地面から飛び出てきた根の攻撃から逃れることに出来た。

「ちっ、見られていたか。だが収穫はあった。あのお嬢ちゃんの魔法防壁は地面からの攻撃に弱い。一カ所に留めておけば・・・。」

 部下にその作戦を伝えようとした時、首筋に猛烈な痒みが襲い掛かる。

(な、何だ?この作戦のどこに問題が?)

 首を掻きむしりながら周囲を注意深く観察。

 そして傭兵達と交戦するユーノと目が合う。

「(ヤバい、コイツだ!)くそ!」

 目が合った瞬間に感じた寒気。

 何もされていないが、身体が勝手にその場から飛び退く。

 本能的に相手にしてはいけない、怒りを買ってはいけないと察知したのだ。

「(マズいマズいマズい。)旦那、ここは撤退を。」

「何を言っている。相手は学生三人とジジイ一人。何ぼさっとしている。お前達も戦え!」

 戦況が理解できていないドナルドの指示に苦虫を食い潰すトマス。

 彼はこの瞬間、如何にして依頼人を守るかではなく如何にしてこの場から生きて逃げ延びられるかに考えを改めるのであった。


「エリカ、危ない!」

 ユーノの声に身体が反応。

 背後から襲いかかる傭兵の斧を辛うじて受け止める。

 上から力任せに押さえつけられる状態での鍔迫り合い。

 懸命に耐えているとナイフを片手に迫る別の傭兵が視界に映る。

 避けるのは不可能。

 怪我することを覚悟。

 如何にして致命傷を受けないかを瞬時に模索。

 だが、飛来した火炎弾がエリカを襲う傭兵二人の顔に的中、事なき得る。

「エリカ、一人に意識を向け過ぎだ。もっと視野を広く。」

 アドバイスを送るユーノ。

 勿論、周囲の傭兵達を相手にしながら。

 その姿を見てエリカはこう思う。

 まただ、と。

 自分はユーノに守られてばっかりだ、と。

 今もそうだ。

 大人数を相手にしながら自分のフォローまでしてくれるユーノ。

 その背中が大きく、そして遠い。

 ユーノから告白されて、共に歩むと決めて密かに誓った事がある。

 只守られるだけじゃない。

 ユーノの背中に追いつき隣を歩めるようになりたい、と。

 だがその道のりは険しく遠い。

 手合わせる度、共に行動する度に感じさせられる実力差。

(私は変わっていない。ずっとユーノに守られてばかり。デビルグリベアーの時も、ドルネロに攫われた時も、ダートの事も両親の時も。そして今も。)

 手元にあるユーノの武器を振るう。

(でも私は・・・、私はこのままでいたくない。ユーノの背中に追いつきたい!ユーノの隣を歩みたい!もっと強くなりたい!私にもっと―――。)

―――力を欲するか?―――

「え?」

 突然、脳内に直接語り掛けてきた声に困惑。思わず立ち止まる。

『エリカ殿!何をしているのですか!』

 ガウルがフォローしながら注意を促すが、エリカには聞こえていない。

 エリカは今、突如語り掛けてきた声に支配されていたのだ。

――力を望むか否か?――

「力・・・。欲しい・・・。私はもっと強くなりたい。」

―――汝のその想いに応え、扉を開こう――

 直後に襲う大地震。

 その大きな揺れは周囲の大木を大きく揺らし、若葉を次々と散らす。

 誰一人その揺れに耐えれず、手を地に伏せる。

 揺れは2分程続いたであろう。

 徐々に収まり、ようやく元の静けさを取り戻す。

 誰もが余震の心配を抱きながらも身の無事に安堵、ほっと胸を撫で下ろしたその時、

「え?」

 エリカの足元から突然、巨大な魔法陣が展開。

 紅く輝き始める魔法陣に誰もが困惑し立ち止まる中、一人駆け出す人影が。

「エリカ!!」

 ユーノはこの魔法陣の仕組みに一早く理解、エリカの元へと向かう。

 ユーノが差し伸ばす手を掴んだタイミングで突然、魔法陣が描かれた地面が消失。

 魔方陣内に足を踏み入れていた者達は底が見えない奈落へと引きずり落とされたのだ。

「ユーノ君!エリカちゃん!!」

 助かったのは魔法陣外にいたルシアとジェイクの二人だけだった。

「ルシアの嬢ちゃん。ダメだ!」

 底が見えない落とし穴へと向かおうとするルシアを引き留めるジェイク。

「離してください、ユーノ君とエリカちゃんを助けないと!」

「危険だ!」

「そうですルシア殿。落ち着いて下さい。」

 ガウルもジェイクと同様、ルシアを止める。

 彼は魔法陣が発動する直前、ユーノから「ルシアの事を頼む!」と命を受けていた。

「穴は深過ぎます。それにあの穴に入ってもユーノ様達はいません。」

 先程の魔法陣は転送魔法。

 ユーノ達は別の場所へと飛ばされたのである。

「それじゃあユーノ君たちはどこに?」

「このガウルにもわかりません。かなり遠くまで飛ばされたのでしょう。繋がりが感じません。」

 ガウルの言葉にショックを受け、その場に崩れ落ちるルシア。

「とにかくここは一度、村に戻ろう。そしてこの状況を説明して王都から救援隊を呼ぶんだ。」

「ジェイクの言う通りですな。アルベルト殿に連絡が着けばすぐに応援が来るはずです。」

「そう、よね。」

 嘆き悲しむ気持ちを胸の奥に押し込み、再び立ち上がるルシア。

 その気丈な立ち振る舞いにジェイクとガウルは少し胸を打たれる。

「さ、一刻も早く村へ―――。」

 とここでルシアの言葉が止まる。

 それはある物―――真っ黒な煙が複数、天へ登る光景を眼にしたから。

「ねえジェイクさん。あの方向って・・・。」

「村だ・・・。カルマタン村の方向だ・・・。」

 その答えと同時に走り出すルシア。

 後方から「待ちなさい!」という声が聞こえるが、振り返らない。

「ましろ・・・、ましろ!」

 我が子犬()がいる村へ脇目も降らずに駆け出した。


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