入口(1)
「遅いわね。」
「確かに。」
村の入口で待つユーノ達。
彼達は地図の持ち主であるジェイクを待っていた。
当初はユーノ、エリカ、ルシア、ガウルの三人+一匹でダンジョンに潜る予定だったがジェイクがどうしても同行したいと懇願。
荷物持ちとして参加する事となった。
一方、ましろは村でお留守番。
村で知り合った宿場の女将に預かってもらっている。
この三日間ガウルは王都に戻り必要な道具をかき集めて、ユーノ達はその間、村周辺で魔物を倒したり、村の手伝いをしたり等のんびりとした時間を過ごしていた。
「ジェイクは約束を守る男です。こんな事はありえないのですが。」
「ねえユーノ君。迎えに行かない?」
ルシアがこんな提案をしたのは嫌な予感が過ったから。
ユーノ達は早足でジェイクの家へ。
い家の煙突からいつも出ている煙はなく、静か。
だがその静けさが不気味でルシアの足が速くなる。
「ルシア待って。俺が。」
扉に伸ばすルシアの手を掴んで阻んだのはユーノ。
ユーノもこの静けさに嫌な空気を感じ取ったのだ。
ドアノブに手をかけ、音を立てないように気を付けながらゆっくりと扉を開ける。
中は散らかっていた。誰かに荒らされたかのように。
そして頭から血を流して地面に倒れているジェイクの姿を一目してガウルが叫ぶ。
「ジェイク!!しっかりしなさい。」
傍に駆け寄り、声をかける横でユーノは脈を確認。
「まだ生きている。ルシア。」
すぐさま回復魔法を施す。
頭の傷は塞がり、肌に血が通い始める。
「う、ん・・・。」
「意識が戻りました。大丈夫ですか?」
「お嬢ちゃん?それにガウル、か。」
ゆっくり起き上がるジェイク。
まだふらつきが見えたのでユーノが倒れていた椅子を戻し座らせ、エリカが飲み物を用意する。
「何があったのですか?」
水をゆっくり飲み干し、自分の身に起きた出来事を話し始めた。
「ドナルドだ。アイツが突然来て襲われた。」
「これは酷いな。」
改めて状況を確認。
準備を行っていた途中であったのだろう。
ダンジョンで使う回復薬や松明などの道具は周到に壊されていた。
「俺達が後から来るのを邪魔する為の行動みたいだな。」
「ねえジェイクさん!地図は?」
エリカに言われ、自分の身体をまさぐり確認。
「ない・・・。」
「どうやら目的は地図―――ジーノ父さんが創った剣か・・・。」
「何でアイツがその事を知っている?」
「多分だけど、俺達が話しているのを盗み聞きしていたかもしれない。」
「だったら早く追いかけないと。」
「いいや大丈夫だ。」
慌てて家から飛び出そうとするエリカを声で制したジェイクはこう言葉を続けた。
「多分アイツはまだダンジョンには入れていないはずだ。」
「どこにあるんだよ入口は!!!!」
苛立ちを爆発させるドナルド。
手に入れた地図を頼りに目印の場所へと辿り着くも肝心の入口が見つからず立ち往生していた。
「くそくそくそ、この場所で間違いはない。なのに何故、入口がないのだ!」
「アニキ、どうしますこれ?」
少し離れた場所で叫ぶ依頼主を尻目に仲間から声をかけられる30後半の男性。
彼の名はトマス。
ドナルドに雇われた傭兵である。
「なんかきな臭くありませんか、今回の依頼。」
「わかっている。だが受けてここまで来た以上、後戻りはできない。相手は貴族と繋がりが深い鍛治職人ドナルド様だからな。」
周囲も見渡す。
広がる草原に自分の仲間を含め、30人強の傭兵達が入口を探していた。
「(商品の武器輸送の護衛と聞いていたのだがな・・・。)これは騙されたな。」
ぼやくトマス。
悪事に手を染めた事がある盗賊まがいの傭兵を眼で追う。
「(ヤバい連中もいるし、これはまともな依頼じゃないな・・・。)いいか、オレの目の届く範囲から離れるな。」
「「「へい。」」」
「おいそこのお前等!何をボケっとしている。サボらずに探せ!」
「探せって何をだよ。ちゃんと指示を出せよな。」
仲間の一人が零した愚痴はドナルドには届いていない事にほっと胸を撫で下ろした時、
「見つけた!」
と少女の声と共に現れた4つに人影。
「な、ジイさん!?」
「な、言っただろう。まだ入れていない、とな。」
「さてはジジイの仕業か!」
「そんなわけないだろうがバカ弟子が。俺も未だに入口を見つけた事がないんだよ。」
ジェイクは過去に興味本位で何度かこの地まで足を運んだが、一度もダンジョンの入口を発見する事が出来なかったのだ。
しかしドナルドはジェイクの言葉には耳を貸さず。
自分が引き連れてきた傭兵達に向け、無理矢理入口の場所を吐かせようとする。
「ルシアはジェイクを守って、ガウルは伏兵の対応を。」
「わかったわ。」
「御意。」
「エリカ、やるぞ。」
「ええ。」
ユーノは棍、エリカはゲイ・ジャルグの剣を構える。
「恐れるな。相手はたかが学生、しかも女の方は『名折れ』と呼ばれる碌に剣を使えない奴だ。やっちまえ。」
「(そう簡単に行くかねぇ。)おいお前ら、あの依頼人の警護に回れ。間違ってもオレの前に出てくるんじゃねえぞ。」
首筋を掻きながら部下に指示を出すトマス。
(ちっ、やっぱり出たか。死神の首掻きが・・・・・・。)
彼の癖。首元が痒くなると必ず命に危機が迫っており、この癖のおかげでは彼は幾つもの修羅場を生き延びる事出来たのである。
「やれ!!」
ドナルドの号令により戦いの火ぶたを切って落とされる。




