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縁の交わり

 禁術で赤子に戻ったユーノはその後、英雄の称号を返納したゲイツと共に三大魔王の家臣が暮らす『名も無き村』で平穏な日々を過ごしていた。

 しかし4年前、ユーノが12歳を迎えたある日、突如村に軍隊を攻めてきたのだ。

 彼等はどこで聞きつけたのか知らないが、村人が三大魔王の元家臣であること、そしてユーノに三大魔王の血が引き継がれている事を知っていたのだ。

 村の安全を引き換えにユーノの首を要求する軍隊に村の者達は頑固反対、戦う意思を見せる。

 しかし村に移り住んで以降、戦いから離れていた家臣達は軍隊の猛攻を防ぐも徐々に押されていく。

 それを目の当たりにしたユーノは単独で軍隊の隊長に出向き、投降。

 自分の命と引き換えに村の皆は助けてほしい、と懇願。だが、

「何を言っている。皆殺しだ!三大魔王を支持していた者達は全て悪なのだ。」

 反故にされた約束。蹂躙される村。

 ゲイツの機転により軍隊の手から逃れたユーノはガウルの案内で山奥に封印されていたゲイ・ジャルグを掴んだ時、槍の中に眠っていた大魔王デルタが覚醒、ユーノの身体を借りて攻めてきた軍隊を一掃したのである。

 その姿を目の当たりにした村の者達は以後、ユーノを三大魔王の後継者として崇めるようになった次第。

 その傾向は年々高まっておりユーノは将来どうするべきか?と悩んでいる最中なのである。


「起きたか、ユーノ。」

「おはよう、ゲイツ父さん。今日は早いね。」

 目を覚ますと、ゲイツが上半身裸で汗を拭っている。どうやら先程まで剣の鍛錬をしていたようだ。

「俺が早いのではない。お前が遅過ぎるのさ。ほれ。」

 時計に眼をむけると、昼へ向かおうとする時間。

 いつもの起床時間を大分超えていた。

「全く・・・、夜中にここを抜け出して遊んでいるから寝坊するんだぞ。」

「・・・・・・気付いていたの?」

「当り前だ!俺を舐めるなよ、義息子(むすこ)よ。」

 出し抜いた笑みを浮かべるゲイツはユーノの額をこつく。

「油断大敵。帝国はもっと人の眼があるんだ。慎重深くな。」

 ゲイツの忠告を素直に聞きながらベッドから出て、着替える。

「そうそう。出発だが、一日遅らす事にした。明日この街を出るからな。」

「えっ、なんで?」

「実はな、さっき領主と会ったのだが、何でもリリシアお嬢ちゃんとルシア嬢ちゃんをイスカディール帝国まで護衛してほしい、と頼まれてな。引き受ける事にした。」

 本来は街の人か冒険者を雇う予定だったようだが、ゲイツの強さと知名度に白羽の矢が立ったそうだ。

「でもゲイツ父さんは途中で別れるよね?」

「ああ、だからな―――。」

 ゲイツは机上に大きな地図を広げて説明を始める。

「まずはこのコッテハンデ、という町に向かう。ここにはイスカディール帝国への定期馬車が運行している。定期馬車には護衛が複数人いるから、俺達の護衛はこの町まででいい。」

「成程ね。」

「俺が向かうザベール国も行きやすいからな。お前はお嬢ちゃん達と一緒にイスカディール帝国へ向かえばいい。」

「でもそれだと予定日より少し遅れるけど。大丈夫?」

「そっちも心配ない。アルベルトには前もって知らせておけばいいだけの話だ。」

「それで問題ないのなら俺は大丈夫だよ。」

「ならそういう事だ。で、これからどうする?」

 時間が空いたので何をすべきか?と考えること数秒。

 妙案を思いついたのであろう、悪戯な笑みを浮かべて父親を誘う。

「それじゃあ――――。」


「それじゃあいい、よく見てて。」

 ルシアが無言で頷いたのを見て、リリシアは10mほど離れた位置にある的と向かい合う。

 右手を広げた状態で前に突き出し、栗色の瞳が的を見つめる。

「集え炎、ファイヤーボール!」

 右手から放たれた火の玉は的へと一直線。

 ぶつかった衝撃が風となりリリシアの編んでいる麻色の髪を靡かせる。

「手に魔力を集めて、詠唱する。」

「うん、やってみる。」

 リリシアの説明を受けた後、立ち位置を代わってもらう。

 目を瞑り深呼吸を3回。

 開いた瞳が的を捉える。

「私は詠唱を簡略したけど、ルシアはちゃんと唱えてね。」

 リリシアのアドバイスを受け、右手を前に突き出すルシア。

「集え炎、わが手に。轟々と唸り球となりて、ファイヤーボール!」

 ・・・・・・。

「ルシア、もう一度。」

 リリシアの指示を受け、もう一度詠唱を行うが、火の玉が発動する様子はない。

「やっぱり駄目だ・・・。」

 地面に崩れ落ちるルシア。落胆の色が隠せない。

「初級魔法でも比較的簡単と言われているファイヤーボールも駄目ね。」

「うう~~~。」

「なんでなのかしら?あれ程強固な魔法防壁と希少な回復魔法を扱えるのに攻撃魔法は一切発動しないなんて。」

「私も知りたいよ~~。」

「やり方は間違っていないと思うわ。魔力だってあるのに何故なのかしら?」

 ルシアが攻撃魔法が扱えないのは以前から。

 魔法自体扱えない人間は多くいるが、魔法防壁や回復魔法、という高度な魔法を扱えて攻撃魔法だけが使えないのは例があまりない。

(私が教えて解決できる問題ではないわね。もしそうならばとっくに出来ているはずだし。)

 ルシア自身も諦めていたのか、最近は攻撃魔法の練習を一切しなくなっていたのだが、今日突然「練習に付き合ってほしい。」と言われ時、心底驚いた。

 しかし練習を始めて早3時間、一度も成功できずにいる。

「学園に入学してからでもいいんじゃないの攻撃魔法は。専門の先生に教えてもらった方が上達すると思うわ。」

「でもそれじゃ―――。」

「もしかしてトライシア君と同じクラスになれなくて焦っている?」

「っ!!!!」

 冗談のつもりだった。

 だがその言葉を聞いて顔を真っ赤にするルシアの反応に焦るリリシア。

「本当に??」

「~~~~。」

 顔を隠すルシア。

(嘘・・・、あのルシアが?!!今まで男性に靡かなかったあのルシアが・・・。)

 物心つく頃からルシアを隣で見てきたリリシア。

 街一番の美少女として有名なルシアは数多く求愛されてきたが、それに対してルシアは一度も首を縦に振ることはなかった。

「好きだ、って言われてもよくわからないの。告白されてもその人の隣に居たい、って思えないのよね。」

(そんなことを言っていたあのルシアが・・・。)

 親友としてどうするべきか、迷うリリシア。

「ねぇ、焦らなくてもいいんじゃないルシア。トライシア君が同じクラスにならない、って決まった訳ではないでしょう?」

「ううん、ユーノ君は絶対にSクラスになるもん。だってあんなにも強いだもん。」

 真っ赤な頬を膨らませる仕草に不本意にも「かわいい!!」と思ってしまったリリシア。

 顔が緩むのを誤魔化しつつルシアをあやす事に努める。

「わかったわかった。ちゃんと練習に付き合ってあげるから、機嫌を直して。」

 数分後、機嫌を戻したルシアは練習を再開。

 しかし、努力の甲斐虚しく時間だけが過ぎていくだけ。

 結局、成果ないまま練習を切り上げる事に。

「元気出してルシア。入試当日まで練習付き合ってあげるから。」

 近くの森の中にある練習場から街まで戻る途中、項垂れているルシアは励ますことに気を取られ、周囲への警戒を怠っていた。

カサカサカサカサ。

 草むらが突如揺れる音に驚き立ち止まる二人。

「リリシアちゃん。」

「ルシア、後ろに下がって。」

 いつでも魔法を放てる状態で構えるリリシアとその後ろでいつでも魔法防壁を発動できる体制に入るルシア。

 草むらが揺れる音が徐々に大きくなると同時に2人の緊張感も高まる。

ガサガサ、ガサガサ。

 目の前の草が大きく揺れ・・・、そして、

「「っ!!!」」

 二人の目の前に大きな猪の顔が!

 あまりの大きさに躊躇してしまった二人。

 猪がむっと一歩前に。攻撃的な眼の色に二人の悲鳴が喉から出かかった時、

「やあ、二人とも。」

 猪の下からユーノの顔が覗き出てきた。

「ユ、ユーノ君!!」

「ちょっと!驚かさないでよ、トライシア君!」

 自分の身体よりも大きい猪を平然とした顔で背負うユーノに文句を漏らす二人。

「それよりもそれは何?」

「滞在日が伸びたからね。宿代代わりに食材を提供しようと思って。」

「だとしても大き過ぎるわよ・・・。」

「そうかな、俺が住んでいた村ではこれよりも大きいサイズを捕まえていたけど。」

「そう・・・。」

「ユーノ君、凄い。」

 呆れ顔のリリシアとは対照的に尊敬の眼差しを送るルシア。

「ありがとうルシア。これで勝負は俺の勝ちかな。」

「勝負、ってどういう事?トライシア君。」

 勝負、という単語に不穏な空気を感じ取ったリリシアは恐る恐る尋ねてみる。

「いやぁ~~、暇だからさ。ゲイツ父さんと勝負しているのさ。どちらが大きい獲物を捕らえれるかね。」

 

「それではゲイツ様、我が娘リリシアとルシアをよろしくお願いいたします。」

 翌日の早朝、街の入り口にて出発の準備の最中、領主がゲイツに頭を下げる。

「ええ、おまかせください。お二人を無事にイスカディール帝国へお連れしますよ、なユーノ。」

「ええ。ご安心ください。」

 荷物を荷台に積み込んだ後、リリシアとルシアを荷台へ連れ込む。

「それでは父様。行ってまいります。」

「気をつけてなリリシア。ルシア君も。」

「はい、叔父様。行ってきます。」

 別れの挨拶を見届けて、昨日の勝負に負けたゲイツが馬に合図を送り出発。

 馬の軽快な足取りでリリシアとルシアが育った街を出発した。


「あのゲイツ様?」

 出発してから数分後、荷台から顔だけを出してゲイツに話しかけるリリシア。

「どうしたリリシア嬢ちゃん。」

「あの何か手伝う事はありませんか?私、索敵魔法が使えます。」

「ほう、それは優秀だな。だが大丈夫だ。気にせずゆっくりしてなさい。」

「でも、御者をしながら周辺への索敵は結構しんどいのでは?」

「大丈夫だ。周辺への索敵はユーノがしているからな。」

 ゲイツの発言に驚くリリシア。

 何故ならユーノはルシアと絶賛お話し中なのだ。

 仲慎ましく会話が弾むその姿は周囲を警戒しているようには全く見受けられない。

「心配しなくても大丈夫だ。頼りなく見えるかもしれんがやるときはやる男だ。何せこの俺の息子だからな。」

「はぁ・・・。」

「えっ、ユーノ君知らなかったの??」

 突然、ルシアの驚きの大声が聞こえたので、意識はそちらの方へ向く。

「どうしたのルシア。」

「ユーノ君、クラス分けの事全然知らないのよ。」

「ルシアが同じクラスになりたい、て話になって。でもルシア達は魔術科で俺は騎士科だから一緒のクラスにはなれないのでは?」

 どうやらライトザルト学園のについて話していたようだ。

「あのねトライシア君。ライトザルト学園のクラスは騎士科と魔術科の合同なの。」

 騎士科と魔術科の入試試験の点数、各上位10位の計20人がSクラスとなり、以後Aクラス、Bクラスと上位順にクラスを割り振られていくのである。

「へぇ~~、成程ね。」

「トライシア君、なんであなたは何も知らないの?最下位のFクラスに割り振られてもいいの?」

「ま、仕方がないな。俺が一切説明していないからな。」

 リリシアの疑問に答えたのはユーノではなくゲイツ。

「別にユーノがどのクラスに割り振られようが構わない。ちなみに俺はFクラス出身だ。」

「えっ、それは本当ですか?!」

「本当さ、リリシア嬢ちゃん。俺はどうも座学が苦手でね。生まれてこの方、赤点しか取ったことがないからな。」 

 ワッハハ、と笑い飛ばすゲイツ。

「そうなのですか・・・。てっきりゲイツ様はSクラスだと・・・。」

「ま、その代わり剣に関しては在学中無敗。圧倒的の強さを誇っていたさ。『最下位の最強剣士』って二つ名で呼ばれてたっけな。」

 その当時を懐かしむゲイツ。

「周囲はFクラスを落ちこぼれだ、劣等生達のたまり場だというが、俺はそうとは思わない。確かに他に比べて総合的に低いから知れないが、ある一点に関してSクラスを凌駕する者達が多くいた。」

「一芸に秀でた者達の集団だったんだね、Fクラスは。」

「ああ、その通りだユーノ。」と満足げに頷くゲイツ。

「全ての分野で高い頂へ登れる天才のは一握りだ。なろうとしてなれるわけではない。それよりも一つの分野を極める―――これに関しては誰にも負けない、というモノを見つける事の方が大切だ、と俺は思っている。だから嬢ちゃん達も自分が望むクラスに行けなかったとしても落胆することはない。強い意志があれば評価を覆せるのだからな。」

 ゲイツの助言は三人の心に深く響いた。


 数日後、大きな問題もなく予定通りにコッテハンデに到着した一行。

 ここからユーノ達三人はイスカディール帝国へ、そしてゲイツはザベール国へと別々の道を行く事となる。

「考えてみればお前と別れ離れになるのはこれが初めてか。」

「そうだね、ゲイツ父さんに預けられて16年。ずっと一緒に過ごしていたからね。」

「寂しくて夜中泣くなよ。」

「それはこっちのセリフさ。」

 互いに冗談を言い合う2人。

 親子、というよりは年の離れた友人のやりとりのようだ。

「お嬢ちゃん達のこと、頼んだぞ。ま、お前が居れば大丈夫だと思うけどな。」

 少し離れた場所でイスカディール帝国雪のチケットを購入しているルシアとリリシアを横目で流し、馬車に乗り込む。

「気を付けてね、ゲイツ父さん。特にお酒の飲み過ぎには―――。」

「わかっているわ。」

 鼻を鳴らして手綱を手に。

 出発の寸前、ゲイツは最後にユーノの名前を呼んだ。

「お前はお前の思う道へ進め。周囲の声や期待なんぞ気にせず、やりたい事をやればいい。」

「・・・・・・。」

「忘れるなユーノ。俺はお前の父親。誰が何を言おうとも俺はお前の味方だ。」

「ありがとう、ゲイツ父さん。」

「ま、あの三人と比べれば俺なんかは頼りないがな。」

「そんなことないよ。俺はあの人達と同じぐらいゲイツ父さんの事を尊敬しているよ。」

「そうか。」

 頬をかいて照れ隠しを見せるゲイツ。

「じゃあなユーノ。元気でな。」

「ゲイツ父さんこそ、元気でね。」

 馬車は動き出し、ユーノはゲイツの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

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