カルマタン村
三日後。
学園へクエストによる授業免除の申請が受理され、荷造りなどの準備が整ったユーノ達は早朝の開門と共に出発。
何故ここまで早く出発するのかというと、同日に勇者カリウス達がダンジョンに向けての出発式が行われるから。
大群衆の混雑が予想、通常よりも早く出発する事を決めたのだ。
幸運な事に同じ方面へ向かう行商人一行と出会い、荷台に乗せてもらうことが出来たユーノ達。
大きな問題もなく2日後、無事にカルマタン村へ到着。
行商人にお礼を述べ、早速村の中へと足を踏み入れる。
カルマタン村は人口100人程の小さな村である。
木造や石や泥で固められた質素な家と田畑が点々と立ち並んでいる。
暮らしは裕福ではないが、自給自足は出来ているので貧窮も苦しんでいる訳ではないごく平凡な村である。
「お待ちしておりました。私がこの村の村長です。」
皺が多い腰が曲がった老人がお辞儀。
「こんにちは。」
「ワン!」
ルシアとましろが明るく挨拶するが、村長は怪訝な表情を浮かべる。
どうやら学生服を着たユーノ達に一抹の不安を抱いたようだ。
「安心してください。俺達は人知無法の方々から推薦を受けてきました。」
「おお、彼達からですか。なら大丈夫そうですな。」
人知無法の名を聞いた途端、安心した表情を見せる村長。
(困ったら自分達の名前を出せ、というアドバイスは正解だったな。)
先輩方に感謝を込めながら改めて依頼内容を聞く。
「実は近くの森でデビルグリベアーが出現しまして・・・。」
数週間前、村人が近くの森にていつものように木の実を採取していた時、2メートルを超えるデビルグリベアーと遭遇。襲われる事件が発生したのである。
この村には凶暴な魔獣や魔物と戦える者がおらず、ギルドに討伐依頼を発注した次第である。
「わかりました。早速調査・退治しましょう。」
引き受ける旨を伝えると村長が、「ちなみにですが・・・・、依頼料は・・・・。」と申し訳なさそうに尋ねてくる。
(ああ、そういえばこのクエストの報酬金額は要相談、と書いてあったな。)
カルマタン村は蓄えが潤沢ではない事は人知無法から予め聞いていた。
「報酬ですが、倒したデビルグリベアーの牙と爪、そして魔石を頂ければ大丈夫です。後、帰りの際に食糧を少し分けてくれませんか?」
「そんな事でいいのですか?」
村長が目を丸くして驚くのも無理もない。
報酬にしてはかなり少ないからだ。
「ええ勿論です。」
「わかりました、よろしくお願いいたします。」
村長と握手。
依頼は無事、受理された。
「ねえ、ユーノ君。何で牙と爪を欲しがったの?」
早速森付近まで向かう最中、ルシアが尋ねる。
「デビルグリベアーの爪と牙を鉄などの金属と混ぜると強度が増すのです。」
「へえ~、物知りなんですねガウルさんって。」
「長らくジーノ様に仕えていましたからね。このような知識を自然と得ていたのですよ。」
「俺達の目的はエリカに剣を創ってもらう事だからね。もしかしたら素材で必要になるかもしれないから予め備えておこう、と思ってね。」
「成程ね。」
ふむふむ、と頷くエリカの視線は周囲に。
デビルグリベアーの気配を探っている。
ルシアものほほんとしているが、散漫はしていない。彼女に抱かれているましろも仕切りに鼻を動かし周囲を探っていた。
(それにしてもデビルグリベアー、か。)
ふと、疑問がわく。
デビルグリベアーは森深くに住む肉食系。
しかし好むのは小型の獣で、人は滅多に襲う事をしない。
森深くに住むのも日差しを嫌うからである。
(それが森入り口付近、それも日が最も高い昼間に現れるなんて・・・・。)
「少しおかしいですな。」
「ガウルもそう思う。」
「はい。」
歩みを遅め、最後尾にまわる。
「本当にデビルグリベアーなのでしょうか?」
「でも目撃者の証言はデビルグリベアーの特徴と一致していたよ。」
「そうでしたな・・・。」
意見を交わしていたら突然、ましろが小声で唸り声。
「来ましたな。」
戦闘態勢に入ると同時に茂みから飛び出してきた巨体な黒い影。
デビルグリベアーだ。
恐ろしく鋭い爪はルシアの魔法防壁で弾かれる。
「ナイスよルシア。後は私がーーー。」
「いや、俺がやる。」
「ユーノ?」
やる気のエリカを下がらせて前に出るユーノ。
背負っていた棍を構え、デビルグリベアーと対する。
内に秘めた魔力を少し解放して威圧。
デビルグリベアーは怯んだ反応を見せるがそれも一瞬。
雄叫びを上げてユーノに牙をむく。
(この威圧を受けても尚逃げないのか。)
デビルグリベアーは獰猛であると同時に臆病な性格で自分より強い相手には戦わずに逃げ出すのだが、このデビルグリベアーは格上のユーノに対して交戦的な反応をみせた。
(極度の空腹の時はなにふり構わず襲ってくるらしいけど、コイツはちょっと違うな。)
空腹時にみせるヨダレがない。
眼は真っ赤にギラつかせ、興奮気味な吐息。
正常ではないのが一目瞭然だ。
(何か、不気味だな。)
デビルグリベアーが一つ吠えて突進。
爪で斬り裂きに数歩横にズレて避ける。
そして反撃を転じようとした時、
「な?!」
空振りして地面に突き刺さった爪が追撃。
バックステップで間一髪躱すが、飛び散った土の一部がユーノの眼の中に。
「「ユーノ(君)!」」
眼を擦るユーノにデビルグリベアーが獰猛な牙で噛みつく。
ガチン!!
ルシアが瞬時に魔法防壁で援護。
それと同時にユーノが詠唱。
地面から火柱を撃ち放ち、ダメージを与える。
「そこだ!!」
皮膚を焼かれ、痛み叫ぶ声を頼りに棍を突き刺す。
「穿て、ゲイ・ジャルグ!」
喉元に命中した棍の先から凝縮した魔力を放出。
撃ち抜かれたデビルグリベアーは絶命。
その場に崩れ倒れた。
「ユーノ君、大丈夫?」
大きく息を零し方の力を抜いたユーノにすぐさま駆け寄るルシア。
ポケットからハンカチを取り出し、眼を拭う。
「大丈夫だよ。ありがとうルシア。」
「ううん。でもさっきのは余計なお世話だったよね。」
ルシアが言っているのは魔法防壁の事。
実際はルシアの魔法防壁が無くても何とかなっていたが、そんな無粋な発言はしない。
「そんな事ないさ。助かったよ。」
優しい手付きで髪を撫でる。
すると嬉しそうに頬を赤らめる。
「これで依頼の方は終わったかな。」
「そのようですな。周囲を調べましたが、他のデビルグリベアーはいません。」
「それじゃあ、これを村に持って帰ろう。」
デビルグリベアーの肉は栄養価が高く、大人気。
「村の人達、喜んでくれるよね。」
「もちろん。エリカ?」
ユーノに呼ばれて我に返るエリカ。
彼女はユーノの戦いに少し圧倒されていたのだ。
「さあ戻ろうか。」
「ええ。」
二人の後に続くエリカ。
(自分では勝てなかったかも。)
ユーノの強さに惚れ直すと同時にもっと強くなりたい、という想いが湧き上がる。
ゲイ・ジャルグの剣を握っていた手に力が入る。
(私は全然ユーノに追いついていない。)
手が届く距離にいるのに、届かない。
それ程の差がある事を今一度思い知らされる。
(追いつきたい。ユーノの側に・・・。傍に行きたい。)
『その想いを強く持て。さすれば願いは叶う。』
「え?」
「どうかしたかエリカ?」
「今、何か言った?」
「いいや。」
ユーノが首を振る。
「空耳じゃないの、エリカちゃん。」
「そうかも、しれないわね。」
そう結論付ける。
だが、その言葉はエリカの脳裏にずっと残り続けるのであった。




