武器屋巡り(2)
その後、幾つもの武器屋を巡る。が、お眼鏡に叶う剣は見つからず。
ある店では「名折れに売る剣はない!」と門前払いされ、少し心を削られた場面も。
ガウルが調べた店がどんどん少なくなり、とうとう残り1店に。
「最後のお店――ジェイク武器店ですが、実はこのガウルの期待値が一番高いお店です。」
「その根拠は何だい?ガウル。」
「この店の鍛治師はその昔、ジーノ様の元で修行されたジェイク・ブレイズだと思われます。」
「え、ジーノ父さんに弟子がいたの?」
「ユーノ様が生まれる前に独り立ちをされたので知らないのは無理もない話です。」
「それが本当ならば期待は出来そうね。」
ジェイク武器店は商店街から少し離れた場所に店を構えている。
他の武器店と比べて、外装が綺麗で立派。一見だけでは武器店には見えない。
「ここで間違いない、よね?」
「間違いないはずよルシア。ほら看板も出ているし。」
若干の不安が過ぎる女子二人。
(このような派手な装飾。ジェイクの性格からはあまり似つかわしくないのですが・・・。)
「とにかく入ってみよう。」
戸惑う中、ユーノが先頭を切って扉を開ける。
「おや?」
「あれ?」
「何事ですの?」
「嘘?」
「ルシア?」
「リリシアちゃん!」
店内には見知った相手―――勇者カリウス一行が。
「君達は何故ここに?」
「エリカの剣を買いに来たのさ。」
カリウスの質問に答える。
するといきなり高笑いするミゼーヌ。
「エリカの剣を買いに来た、ですって。名折れに似合う剣などこの店にあると思われて!」
嘲笑うように奏でる大声は店内中に響き渡る。
「所でカリウス達は何用でここに?」
「僕達は武器や防具の新調さ。今度、ダンジョン攻略に向かうからね。」
「ダンジョン攻略!?嘘、あなた達もう認められたの?」
ダンジョンとはこの世界のあちこちに存在するスポット。
自然現象で発生しているとされているが、詳しい事は一切わかっていない未知の場所で、ダンジョン内には危険な魔物達が住まっている。
ダンジョン攻略にはランクB以上で国王及びギルドから許可証が下りないと入る事が許されない危険な場所である。
「国王陛下直々にね。」
「お待たせしましたミゼーヌ様。こちらが当店の鍛治職人が腕をかけて作成したレイピアでございます。」
奥から現れた男性の店員から渡された高級素材をふんだんに使用して作られたレイピアを受け取り、二度三度、試し振り。
「とてもいいですわ。手に凄く馴染んで。」
「ではこれにしよう。」
即決。
「お買い上げありがとうございます。」
「素晴らしい剣でしょう。」
「そうだね。オリハルコンに竜の爪、青王の魔石を組み込んでいるのか。」
「よく分かりましたね。」
眼を丸くする店員。
ユーノが剣に使われている素材を的確に当てた事に心底驚いたのだ。
「あの、お客様は一体ーーー。」
「ただの学生ですよ。それよりも勇者様が支払いを待っていますよ。」
「え?あ、申し訳ございません。」
慌てて支払いを受け取る店員。
(さてと・・・。)
今一度、店内を見渡す。
内装も今まで訪れた店の中で一番綺麗。
この店の武器職人が作製した数多くの武器は整頓されており、豪華な印象を感じる。
(他の店と比べても扱っている商品の質は全然違う。)
置かれている武器・防具は全て一級品で高級品だ。
(だけど・・・。)
「大変お待たせしました。」
などと考えていたら、勇者達の対応を終えた店員がユーノ達の前へ。
勇者達は既に退出していた。
「何をお求めで。」
「彼女の剣を買いに来たのだけど。」
エリカが前に出る。
「かしこまりました。ではこちらにーー。」
と剣が置かれれている場所に案内しようとした時、奥から「その必要はない!」と男性の声が。
「店長?」
「その客に売る剣など一つもない。」
歳は40代後半ぐらいだろうか。
綺麗に整えられた髪と豪華な服を着飾っているその姿は貴族のよう。
「俺はこの店の店長で鍛冶職人のドナルド。残念だがそこの『名折れ』に俺が打った剣を売るつもりはない。」
虫を追い払う素振りをするドナルド。
「お前みたいな腕のない者のせいで俺の評判が下がるのはごめんだからな。」と邪険に扱い、追い出されてしまった。
「なんか、ちょっと感じが良くなかったね。」
遠慮気味に感想を述べるルシアの横、エリカは無言。
『名折れ』と呼ばれた事に少しながらショックを受けている様子。
そんな彼女をユーノは優しく頭を撫でる。
「落ち込む事はないさ。どっちにしてもエリカの腕に見合う剣はなかったし。」
「え、そうなの?」
「ユーノ様の仰る通りですな。」とガウルが代わりに答える。
「影ながら店内を見回りましたが、確かに他の店よりはランクは上ですが、所詮は良い物止まり。ジーノ様には足元にも及びません。」
「それ、比べる相手を間違ってないですかガウルさん。」
「いえいえ、ジーノ様の弟子ならばそれぐらい当然です。が。」
影の中から店の方を見つめる視線には不信感がかなり込められている。
「高級素材の良さを全然活かせれていない武器ばかり。中には性能よりも見た目を重視した武器もありました。ジーノ様が一見すれば怒り狂い全て叩き潰すでしょうね。弟子として情けない。」
「その事だけどガウル、あのドナルドがジーノ父さんの弟子?」
「いいえ、違いますよ。多分ですが、あの男はジェイクの弟子だと思われます。」
成程、と頷く三人。
「あんな弟子に店を継がせるとは、ジェイクは何を考えているのか・・・。」
とブツブツ文句を溢していると、
「お、ユーノの坊や達じゃねえか。」
声をかけてきたのは人知無法の二人。
「あ、こんにちは。」
「ルシアの嬢ちゃん、こんちは。」
「何しているんだ?こんな所で。」
「実はーー。」
「そりゃ災難だったな。あの店は俺達冒険者の間ではあまり評判が良くないんだよ。」
近くの飲食店へ招きユーノ達の話に耳を傾ける人知無法の二人。
全てを聞き終えた二人の顔は大きな靄が露わとなる。
「そうそう店主が変わってな。ジェイク爺さんの時が良かったぜ。」
「そうそう、そのジェイク爺さんは伝説の鍛治師の下で修業したらしくてな。腕利きだったんだけどなぁ。」
「俺、その噂を聞いてこの店に来たのですが・・・。」
「5年前に代替わりしたんだ。」
「代替わり、ですか?」
「ああ、お前さん達も会っただろう、貴族かぶれの恰好をした男と。ドナルドが今、あの店を取り仕切っているのさ。」
人知無法の話では、ジェイクという人物が店を営んでいた時は冒険者向けで、良質でありながらお手頃価格の武器を取り揃えていたそうだ。
だが5年前、一番弟子のドナルドが貴族達を味方につけて師匠をこの王都から追い出して店を乗っ取り、以後貴族達が好む派手で高級な武器ばかりを取り扱うようになったそうだ。
(成程、そういった経緯でしたか・・・。)
影の中で一人納得するガウル。
「エリカ嬢ちゃんの腕に見合う剣・・・・・、確かにジェイク爺さんなら何とかしそうだな。」
「そのジェイクという人物は今何処にいるとか分かりますか?」
「わかるよルシア嬢ちゃん。なんせ俺達は時々会っているからな。」
「俺達の武器はジェイク爺さんが作った物でな。時々、手入れしてもらっているのさ。」
腰に下げている袋から地図を取り出して、場所を指差す。
「カルマタン村。ここから馬車で3,4日かかるわ。」
「爺さんはその村の外れにひっそり暮らしている。」
「遠出になるよね・・・。」
ルシアが懸念している事項は学園の事。
「そうだな。最低でも1週間は学園を休むことになる。長期休暇は大分先だし・・・。」
悩む3人に救いの手を伸ばすのは人知無法の二人である。
「なら、遠征クエストを受けたらどうだ?」
遠征クエストとは辺境地や他地方からの長期的な依頼の事。
「先日全員ランクDになったのだろう。なら受けることが出来るはずだ。」
「でも遠征クエストって人気があってすぐに募集が終了してしまうのでは・・・。」
「大丈夫だよルシア嬢ちゃん。カルマタン村方面はランクも報酬も安くて不人気。いつも売れ残っているぜ。」
「昼過ぎに確認したがいくつか残っていたぞ。」
「本当ですか!」
食い気味に立ち上がるエリカ。
気持ちはもう既にカルマタン村へ向かっている。
「それじゃあ今からギルドに寄ってみようか?」
逸るエリカの気持ちを汲んでギルドへ。
人知無法の言葉通り、カルマタン村付近のクエストはいくつか残っており、ユーノ達はその内の一つを選択。
こうしてユーノ達はジェイクに剣を創ってもらう為、カルマタン村へ向かう事になった。




