ガウルの考え
「成程、そんな事がありましたか。」
話を伺ったガウルはふむふむと頷き、人数分の紅茶を用意。
風呂上がりのエリカは膝上で包まって眠るましろを撫でつつ紅茶を口にする。
「はあ〜、ショック。最近調子が良いと思っていたのにこんな事になるなんて。」
最下位だった事がかなり堪えているご様子。
ルシアとユーノは落ち込むエリカを励ます中、ガウルだけはこの一言。
「ですが、それは想定通りなのでは?」
「「「え?」」」
「あの、御三方は何故そんなにも驚くのですか?」
「どういうことだガウル?」
「いいですか。エリカ殿は今まで満足とした実戦経験がありませんでした。しかしユーノ様がゲイ・ジャルグの剣を貸した事でその不足点が解消されたのです。成長するのは当たり前でしょう。しかも毎日ユーノ様と手合わせしておられるのですよ。(しかしここまで急成長するとは。)」
「つまりエリカちゃんの技量に上がって模擬剣が全く耐えれなかった、て事?」
「成程ね。ならば次からは前もって俺の剣を貸しておけばーーー。」
「それもどうかと思われますがね。」
「どうしてだガウル?」
「この際ですからはっきり申し上げましょう。ユーノ様、この機会にエリカ殿の剣を探すべきだと思います。」
「私の、剣?」
「そうです。エリカ殿はかなりの実力をつけてきてます。そろそろ自分専用の剣を手にするべきかと。」
「うん。ガウルの意見には一理あるな。」
暫し思考を巡らせ、ガウルの意見を尊重することに。
「よしガウル、今度の休みに王都内にある武器店を全て回るから事前に調べておいてくれ。」
「かしこまりました。」
深々と頭を垂れるガウル。
その心情は安堵。
長らく抱えていた悩みのタネがようやく解消されようとしているからである。
上機嫌をおくびにださないよう細心の注意で影の中へ颯爽と飛び込み消えていった。
「ガウルの奴め、小狡い真似を。」
「全くですなぁ〜。」
「それ程まで俺様の槍を他の者に触れさせたくないようだな。」
酒を傾けながら管を巻く第三魔王達。
彼達はガウルの態度に苦言。
ガウルはエリカがゲイ・ジャルグの剣を扱っている事が前々から我慢ならなかった。
ゲイ・ジャルグは大魔王デルタが自身の強さの象徴として作られた武器で彼の血を引くユーノだけが手にする事が許される、と考えを持っていた。
だからこそ、たかが人間如きが気軽に扱っている事が許せなく、いかにして彼女からゲイ・ジャルグを取り上げるかを虎視眈々と狙っていたのである。
「全く、エリカという人間はかなりの人材ですぞ。ユーノの妻に相応しい女性じゃ。」
「ガウルの奴、部下達に命じてユーノの婚約者を探しているらしい。」
「自分が見つけた相手を正妻に迎えてエリカとルシアは側妻、もしくは愛人にと画策しているようじゃな。」
「全く相変わらず視野が狭いな。」
「じゃあ奴は自分が間違いだと分かればすぐにそれを正す事ができる柔軟な思考の持ち主だ。何、いずれ彼女達を認めるよ。所で・・・・。」
ここまで一切会話に加わらないジーノに声をかける。
「何をしているジーノ?」
何かしらブツブツ独り言を呟いており、何事かと耳を澄ます二人。
「ああ、エリカに剣を。ワシが創りし剣を渡したい。ああ渡したい渡したい渡したい渡したい渡したい渡したい渡したい。」
「全く、ここにもエリカにご執心な奴がおるな。」
「仕方があるまい。あれ程の腕前だ。ジーノの腕が疼くのもわかる。」
「ま、そうじゃな。」
ジーノの事は完全放置して、酒を飲み続ける二人であった。




