剣と心折れる
「ただいま〜。」
ルシアの声に疲れて昼寝していたましろが眼を覚まし玄関へ一直線。
猛ダッシュでルシアの胸に飛び込む。
「ただいま、ましろ。いい子にしてた?」
元気よく返事をするましろの声に導かれてガウルも姿をみせる。
「おかえりなさいませユーノ様。」
「ただいまガウル。」
「どうなされましたか?」
ガウルは少し暗い空気を察知したのだ。
「ユーノ、ごめん。私先に風呂に入るね。」
「ああ、ゆっくりしておいで。」
「エリカ殿に何かあったのですか?」
「ちょっと学園でね。後で話すよ。」
「はあ〜〜〜。」
頭からシャワーを浴びてため息を漏らす。
「また私は・・・。」
「ク〜ン?」
「ましろ?」
励まそうとしているのだろう。
エリカの足に擦り寄る。
その可愛らしい仕草にさっきまで沈んでいた気持ちが癒されていくのがわかる。
「ましろ、ありがとう。」
感謝を述べて優しく抱きしめた。
Fクラスは今日、実技の定期試験であった。
帝国騎士団を学園に招き、対戦する形式。
本日学園に来られた騎士は白い髭が特徴的な初老の男性。
以前、エリカ達の入試試験を担当した騎士である。
「今回の試験はこの私に勝つ事が目的ではない。この期間どれだけ強くなったかを見せて欲しい。」
この言葉で始まった試験。
各々、今持てる実力を試験官へ見せる。
「でエリカ、自信の程は?」
「満々よ。」
模擬剣を手にガッツポーズをみせるエリカ。
「ユーノとの特訓の成果、見せてあげる。」
「次、エリカ=ウィズガーデン。」
名前を呼ばれ、元気よく返事。
「おお、其方はあの時の。さあ、いかほど上達したのか、見せてもらうぞ。」
「よろしくお願いします。」
一礼して模擬剣を構える。
始めっ!の合図にいち早く反応したエリカ。
颯爽と地面を駆け、上段からの斬り。
それに対して試験官は一歩も動かず。
受け止める所存だ。
模擬剣と模擬剣がぶつかる。
パキン!
「え?」
「なんと!」
二人が驚くのも無理がない。
エリカが手にしていた模擬剣が真っ二つに折れたのだ。
「おいおい、またかよ。」
「やっぱ『名折れ」だな。」
クスクスと嘲笑う声と共に聞こえる陰口。
「待ってください!もう一度だけお願いします。」
採点を行っている教師がこのまま終わらせようするのに対してエリカが待ったをかける。
「何を言っている。君だけを特別扱いはできない。さあ、早く次の人にーーー。」
「待ちなさい。もう一度取り行おう。」
「試験官?」
「不慮の事故で折れた可能性がある。これを使いなさい。」
試験官が自分が使っていた模擬剣を渡す。
「さあもう一度。」
「はい。」
「エリカ、集中。」
ユーノの励ましを背に仕切り直し。
二度目の開始。
今度は両者睨み合い。
エリカはさっきの事が脳裏に浮かび足が動けなかったのだ。
「どうした?出てこないのか?」
躙り寄る試験官に押されるエリカの背中を押したのはユーノの声援だった。
「エリカ、積極的に。頑張れ!」
小馬鹿する陰口の中からの声援に嫌な予感を無理矢理投げ捨て攻める。
(さっきより動きが鈍い。)
今度は受かるのではなく躱し、すかさず反撃。
「っ!」
慌ててバックステップで攻撃を躱す。が雑な行動だった為、隙だらけ。
追撃の機会を与えてしまった。
「せい!せい!せい!」
容赦がない連続攻撃に防戦一方。
嫌な間合いから逃げ出したい一心で無作為に一振り。
パキン!!
またしても折れた模擬剣。
折れた刀身が地面にカラカラと立てる音は儚く冷たかった。




