ましろ
「それじゃあガウル、留守番よろしく。」
「いってくるわね、ましろ。」
ルシアに名前を呼ばれ元気よく吠えるのはシャドーウルフの赤子。
あれから二週間。
ましろはユーノの家での生活も大分慣れてきたようだ。
初めは恐怖心が強くルシアからひと時も離れようとしなかったが、3人の愛情を一身に受けた彼女はスクスクと育ち、今では庭を元気に走りまわるまで元気に。
「いってらっしゃいませ、ユーノ様。ルシア殿、エリカ殿。」
頭を垂らし3人を見送るガウル。
「さて、では部屋の掃除でもやるとしますかな。」
いそいそとバケツと雑巾を用意していると突然ましろが無邪気に吠える。
「何ですかましろ。このガウルは今から掃除をしなければならないのです。あなたと遊んでいる暇はありません。」
ガウルの叱責に悲しみの鳴き声が漏れるましろ。元気よく振っていた尻尾がしゅん、と垂れる。
「一人で遊んでなさい。」
トボトボと立ち去るましろ。
「少し厳しく言い過ぎましたか・・・。いやいや、そうではない。ユーノ様達が甘やかし過ぎてきるだけです。」
愚図る事なく素直に言う事を聞いたましろに感心。
黙々と窓拭きを始める。
「さて、こんなものでしょう。・・・おや?」
手早く窓拭きを終わらせ、次の作業へ向かおうとした時、窓越しから庭で遊ぶましろの姿が。
元気よく飛び跳ねて走り回っていると思いきや突然、姿が消えてそして1メートル先の木の影から飛び出したのだ。
「な、あれは影渡り。ましろはもう扱えるというのか!」
影渡しとは影から影へと移動するシャドーウルフの特技。
「ましろよ、お主はその影渡りを誰に教えてもらったのですか?」
ましろの元まで移動して尋ねる。
「何!誰にも教えてもらっていない。自然と覚えたと!」
ガウルが驚くのも無理もない。
影渡りはシャドーウルフが親から最初に学ぶ技だが、これを会得するには数ヶ月かかるのが通例なのだ。
(それを自力で会得するとは。この子はもしやかなり優秀なのでは?)
「ましろよ、こちらに来なさい。」
ましろを隣に立たせる。
「いいですか?このガウルの真似をしてみなさい。」
目を瞑り体内に魔力を練り集める。
これはシャドーウルフが同群内で序列をつける時に行う行動である。
体内により魔力を集めれた方が上に立つのだ。
「さあやりなさい。」
ガウルに促され、魔力を集め始めるましろ。
(この魔力量は・・・。これは予想以上。優秀な逸材ですな。)
「では次です。見てなさい。影烈針山!!」
一直線上に影から飛び出す無数の針山。
「優秀なシャドーウルフなら会得できる技です。」
すごいすごい、とはしゃぐましろにやってみなさい、と促す。
「ウ〜、ワオオオン!」
「全身に魔力を貯めて影の中に解き放つイメージで。」
「ワオオオン!」
何度も試みるが、一刺も出て来ず。
「ふむ、もしやと思いましたが、やはり無理でしたか。」
ガウルの一言に悲しそうに項垂れるましろ。
「ま、この技はそう簡単に会得できませんよ。ですがましろならいつの日か会得できるでしょう。励みなさい。」
「ワオオオン!」
頑張る、と吠えて再び練習に励むましろ。
そんな彼女を爺目線で見守るガウル。
その練習は昼過ぎまで行われた。
なんやかんやで結構甘いガウルなのです。




