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《幕間》過去の記憶

「何だ?もう終わりか?」

 地面に倒れる俺に向かって放たれた言葉には圧倒的な迫力が。

 学園では敵なし。

 在学中、数多くの大会に出ては優勝を総なめしてきた俺は今、大魔王デルタに完膚なき敗北をきしたのだ。

(愚かだった。浅はかだった。)

 後悔の念が募る。

 もし過去に戻れるのであれば、大魔王デルタを倒すと豪語していた自分を殴ってでも止めたい思いだ。

「いい筋しているじゃねえか。そう思わないかソプラノス。」

「フォフォフォ、ジーノの言う通り人間にしては中々の腕前ですな。」

「でどうするデルタ?」

「そうだな。」

 俺を見下ろす大魔王デルタには傷一つなし。

 それもそのはず。何故なら俺は相手に一撃すら与える事が出来なかったのだ。

 死を覚悟する。

 志半ばで一生を終える無念を抱いて。

 だがデルタはとどめを刺さなかった。

 その代わり、形見のペンダントを奪い取った。

「か、返せ!」

「ならばこの俺様を倒して奪い返して見せろ。ゲイツよ」

 これが大魔王デルタとの最初の出会いであった。


 形見を取り返す為、幾度も戦いを挑んだゲイツ。

 腕を上げてはデルタ達に挑んで負け。

 修行してまた挑む。

 そんな事を繰り返していく内に次第とデルタ達との間に友情が芽生え、今では盃を交わす仲となった。

 

「そうか、キサマも遂に就職か・・・。」

 それはある日の事。いつものように挑み、その後酒を交わしている時、自然と進路の話になった。

「しかし驚きですな、お主が騎士団に入るとは。」

「だな。てっきり冒険者になると思っていたぜ。」

「本当にな。適当なオマエが騎士団とは似合わねえぜ。」

「うるせぇ!」

 悪友たちの悪態に鼻を鳴らすゲイル。

 終いにはゲイツがいつまで騎士団に続けるかで賭けを始める始末。

「そんなに俺を騎士団から除名させたいのか?」

「何を言っておる。俺様達なりの励ましだ。」

「そうじゃ。お主は反骨心の塊だからのう。これぐらい言っておけばすぐ辞める事はあるまい。」

「精々足掻け若者よ。」

「・・・・ありがとう。」

 知り合って数年。

 最初はただ殺すか殺されるかの関係だと思っていたが、今では一番の良き理解者となった三人。

(世間の噂というのは本当に当てにならないな。)

 殺戮を好み、世界を滅ぼそうとしていると世間から見られている三大魔王。

 しかしその正体はただ力が強すぎる故、勝手に怖がられているだけ。

(ま、身勝手な行動も影響しているけどな。)

「辞めさせられても気にするな。俺様達が登用してやるからな。」

「そうじゃそうじゃ。」

「お前ほどの暇つぶしは中々おらんからなぁ~~。」

「あ、暇つぶしで思い出したが、俺、騎士団に入るから今までみたいにここに遊びに来れないぞ。」

「「「何!!!」」」

 3人の酒が止まる。

「当り前だろう。学生以上に忙しくなるんだ。そう気軽に来れる訳ないだろう。」

「それは困る!」

「そうじゃ、お主が来れないとは暇すぎて死んでしまう!」

「俺達を殺す気か!」

「いかんいかん!ゲイルよ、今すぐ騎士団を抜けるのだ。」

「デルタの言う通りです。何、ワタクシ達が雇い入れるから生活は安心するがよい。」

 必死になって引き留めようとするデルタ達にお酒とつまみの追加を運んできたガウルが一言。

「そんなに暇でしたら、しっかりとお仕事をして下さい。」

「「「嫌じゃ!!」」」




 騎士団に入団したゲイツ。

 学園での唯一の友人、アルベルトと同部隊になり訓練や遠征の日々。

 時間に余裕が持てるようになったのは入団して5年の月日を要した。

 自然とデルタ達がいる城へと足が向ける。

「おや、これはデルタ殿。お久しぶりですな。」

「久しぶりだなガウル。デルタ達は?」

 いつもならゲイツの気配を察して我先へと姿を見せるが、この日は違った。

「ああ、実はデルタ達は今、子育てに夢中でして・・・。」

「子育て?!」

「はい、2年程前でしょうか。デルタ様が森を散策中、赤子を拾いまして。今やその子の事で夢中でして。」

 ガウルの案内の下、向かえばそこには、

「ほ~~れ、ユーノ。高い高いだ。」

 力の限り真上に子供を放り投げるデルタ。

「おいこら!!!」

「何をしているのですかデルタ様!!」

 子供が10メートル程を打ち上げられるのを目の当たりにして大慌て。

 幸いちゃんとキャッチしたので大事にはならずに済んだ。

「子供が怖がって泣くだろうが!」

「おお、ゲイツではないか。久しぶりだな。大丈夫だ。ユーノはこんな事で泣くような弱い男ではないわ。」 

 デルタの言う通り、人間の子供は手を叩いて大喜びだった。

「どうだゲイツ。俺様の子、ユーノだ。可愛いだろ。」

 自慢げに見せつけるデルタ。

 その言葉に敏感に反応する人物が二人。

「何を言っておるのじゃ、ユーノはワタクシの子じゃ。」

「馬鹿を言うな、ユーノはワシの子だ!」

「うるさい!ユーノは俺様の子供だ!」

 唐突に口喧嘩を始める三人。

「なあガウル、あの3人本当に子守が出来ているのか?」

「実は以外にも出来ているのですよ。」

 信じられないでしょう!と言わんばかりの表情を見せるガウルに全面同意。

「ユーノ様の事になるとあれだけ真剣に・・・。あの熱量を仕事の方にまわしてくれればどれだけ私達は楽な事か・・・。まぁ、余計な事をしないだけでありがたいのですがね。」

 日頃から苦労ばかりしているガウルの一言は物凄く重い。

「それにしても生まれて間もない子供を捨てるなんてひどい親がいるもんだな。」

「それは仕方がないかもしれんな。」

「何故だ、デルタ?」

「この子は大病を患っている。黒皮病(こくひびょう)をな。」

「黒皮病だと!!」

 黒皮病、生後間のない人族の子供だけにかかる不治の病。

 皮膚が黒くなる症状が特徴で高熱や吐血を起こし、やがて死に至る病である。

「黒皮病は不吉な病気と謂われているからな・・・。で、その子は大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃゲイツ。その問題はすでにワタクシが答えを出した。完治に向かっておる。」

「完治?もしかして治療法を見つけたのか!」

「当り前じゃ。このワタクシを誰だと思っておる。大魔賢者ソプラノスですぞ。これぐらい動作もないです。」

「その割にはずいぶん苦労していた癖に。」

「五月蠅いですぞジーノ!」

 またしても言い合いが始まる。

 しかし昔とは違い、心なしか和やか。

 戦いに飢えた男達の姿はなく子供の為に頑張る父親達の姿がそこにはあった。




 ユーノの子育てで随分と大人しくなったデルタ達。

 このまま平穏が続くと思っていた。

 だが、その平穏は突然終わりを告げる。

「大魔王デルタ達が大都市エルガント公国を壊滅させただと。それは本当かアルベルト!」

「確かな情報だ。これを受けてイスカディール帝国は大魔王デルタ・ソプラノス・ジーノに対して宣戦布告。既に討伐部隊が進行している。」

「何故だ!何故そんな事になった?」

「わからない。だが突然、デルタ達が一つの国を破壊したことは事実だ。我々は彼達を倒さないといけない。」

「くそ!!!」

 机に拳を突きつけた音が部屋中に響く。

「どうするゲイツ?もし辛いのなら辞退しても。」

 アルベルトは唯一自分がデルタ達と友人関係にある事を知る人物で、心情を察しての発言だった。

「いや、出撃する。直接会って問い詰めてやる。」


 討伐部隊に合流したゲイツはアルベルトの協力を経て、大魔王デルタの元へとたどり着く。

「おお、ようやく来たかゲイツよ!待ちくたびれたぞ。」

「どういう事だデルタ。何でこんな事を!」

「簡単な事だゲイツ。俺達は死に場所はベッドの上ではない!戦場だ!」

「そんな事だけの為に国一つを滅ぼしたというのか!そんな事して何になる!?」

「何になる?簡単な事だゲイツよ。」

 ミスリル製の槍を構えるデルタ。

 自慢の愛槍を使ってこない事に疑問を感じたが、深く追求する暇はない。

「それこそが俺達の生き様だ!さあ剣を構えろゲイル。殺し合いを始めるぞ!」

 容赦なく襲い掛かるデルタ相手に他の事を考える余裕はなかった。

 敗北=死。

 緊張感を纏い、デルタと対する。

「そうだゲイツ!いいぞ!もっと俺様を楽しませろ!」

 荒々しく槍を振るうデルタは天災。

 自分以外の全てを吹き飛ばす勢い。

 脅威だが、少しの違和感が。

(いつもより力が弱く感じる。)

 殺意は感じるが圧倒的な怖さを感じない。

「血が!肉が騒ぐ。もっと滾らせろ!もっと俺様を――――ごほっ!」

「デルタ!!」

 突然、吐血するデルタ。

「おいお前、どこか大怪我でも負っているのか!」

 慌てて駆け寄るがデルタが槍を振り回し拒絶する。

「敵に情けなど無用だ!さぁ続きだ!」

 口から零れる血を拭う事をせず、槍を構えるデルタ。

「俺様の本気を受けて見ろ!」

 必殺の一撃の構えに慌てて居合の構えを取る。

「喰らえ!!」

 降り抜かれる槍の軌道を変える為に剣を抜刀。

「え?」

 だが刃は槍に当たらず。

 デルタが剣にぶつかる寸前、槍を手放したのだ。

 手に肉を貫く感触が重く圧し掛かる。

「見事だ・・・・ゲイツよ。」

「な、何故だ?何故槍を手放した?」

 膝から崩れ落ちるデルタを支える。

「おいデルタ!しっかりしろ!すぐに回復薬を―――。」

「止めろ、無駄だ。」

 懐からポーションを取り出すのを制止させる。

「傷を治しても無駄だ。俺様はもうすぐ死ぬ。」

「何を言っている!」

「俺様は嬉しい。最後にお前と戦えて。お前は英雄として世界に名は馳せることが・・・。」

「死ぬなデルタ!」

「さらば、だ、最高の戦友(とも)よ。後は・・・・・頼んだぞ。」

 満足そうに事切れるデルタ。

「ふざけるな!おい!ふざけるなよ!こんな勝ち逃げ、認めるものかあああああああ!!」

 悲痛な叫びが城中に木霊。




「――――客さん。お客さん!!」

 不規則な揺さぶりで目を覚ます。

「やっと起きましたねお客さん。終点ですよ。」

 馬車主の言葉に自分が夢を見ていたことに気付く。

(懐かしい、悲しい夢だったな・・・。)

 友人をこの手で殺した感触は今でも鮮明に覚えている。

 デルタ達の死後、英雄として多くの人々から崇められた。

 だが自身の心は誇れず、荒れた。

 初めて剣を握る事さえ拒んだ。

 酒に溺れ、廃人と化していた日々。

 そんな生活から救ってくれたのはデルタ達の息子―――ユーノだった。

 赤子に戻ったユーノに付き添うガウルから事の顛末を知ったゲイツは心に誓う。

 自分が手に掛けた友人の息子を立派に育てる、守り抜くと。

「その為ならなんだってしてやる。」

「え?何ですか?」

「いや、俺の独り言だ。気にしないでくれ。」

 驚く馬車主に駄賃を渡しながら被りを振る。

「さぁ、行くか。」

 腰に剣を携え、歩き始める。

 義息子を守る為に・・・。

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