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「う・・・ん。ここは、どこ・・・?」

 微睡む視界と激しい頭痛、体のだるさを感じながら目を覚ましたエリカ。

 彼女は両手を縛られて宙に吊るされていた。

「(確か私はユーノ達と物資の補充の為に砦を出て・・・っ!)ルシア!」

 全てを思い出したエリカはルシアの名を叫び、真っ暗闇の周囲を見渡す。

 すると隣に自分と同じ格好で吊るされているルシアの姿を見つけた。

「ルシア!お願い!返事をして。」

「う・・・ううん。」

 エリカの声に僅かに反応。そして目を覚ます。

「ここは・・・どこ?」

「ルシア、生きててよかったわ。」

「エリカちゃん。私達、どうしてここに?」

「分からないわ。」と首を振った時だった。

 狂った笑い声を響かせながらダートが二人の前に姿を現す。

「ダート・・・。私とルシアを攫ってどういうつもりなの?」

「全ては我が主様の身心のままに。」

「主?」

 ダートは再び高笑い。

 エリカの問いかけに答えることなく笑い続けていた次の瞬間、

「「っ!!」」

 息を吞む二人。

 突然ダートの身体が溶け始めたのだ。

 肉がただれ落ち、ガイコツ化したダートは口の骨をカタカタ鳴らしながら笑い続ける。

 そして溶けた肉の塊は地面を這いずり闇の奥へ。

 そこで気付く。

 その奥に8本の腕を持った例え得難い生物が鎮座していたことに。

「何あれ・・・?」

 ルシアの震えた声の呟きがエリカの耳に届いた。

「我が名はデルタ。大魔王デルタなり。」

「大魔王、デルタですって!」

 エリカの声が裏返る。

「そんな、大魔王デルタは英雄ゲイツが倒したはず。」

「我は復活した。だが全盛期よりは遥かに劣る。だからこそ力を欲する。世界を我が手に。その為にオマエが必要なのだルシアよ。」

「私?」

「我は取り込んだダートの記憶からオマエを見た。オマエの体内から膨大な魔力量を感じる。オマエを取り込めば全盛期以上の力を手に入れる事ができるのだ。」

「ルシアを取り込むですって!!」

「そしてエリカ、キサマも類稀に見る才能の持ち主。我の配下となりその力を振るうのだ。」

「お断りよ。誰があなたの配下になる者ですか!」

「オマエ達に拒否権などない。これはすでに決まったことなのだ。エリカよ、オマエもここに控えている者達と同じスケルトンとなり我配下となるのだ。」

 歯を食いしばり、必死の抵抗を見せるエリカ。

「無駄な足掻きなどせず己達の運命を受け入れろ。」

「大丈夫だよエリカちゃん。」

「ルシア?」

「大丈夫。だって約束したもの。絶対にユーノ君が助けに来てくれる。」

「フハハハ、無駄だ。ここは特殊な術式を施した結界で外と遮断している。誰にも見つける事はできん。」

「そんな事はない!ユーノ君は約束を破らない!絶対に助けに来てくれるわ!」

 普段では見せる事がないルシアの大声。

 意志の強い訴えに誰もが口を閉じる。

「そうか・・・。」

 デルタなる者が口元を上げたその時、8本の腕が伸びてルシアの制服を掴み、乱暴に破り捨てる。

「いやあああああああ!!!!」

「やめなさい!!」

 女子二人の甲高い悲鳴がこの空間内に木霊。

 服を引き裂かれ、素肌全てを晒されて羞恥心に顔を伏せるルシアの紅潮した頬には一滴の涙が。

 呼吸を整えようと無意識に揺れる大きな胸。その一つ一つの仕草に優越感を浸るデルタなる者は高笑い。

「許さない。ルシアを辱めて。絶対あなたを許さない!」

 エリカが睨みつけるが、デルタなる者の視界にはルシアしか映っていない。

「どうだルシアよ。まだオマエは想い人を信じるのか?このような目に遭ってもまだ来ぬその者に助けを求めるか?」

 ルシアは顔を伏せたまま返事をしない。

「フハハハ、遂に心折れたか。そうだ諦めろ。オマエは魔力貯蔵庫として我が体内の一部となるのだ。」

「くっ。」

「――――――よ。―――――ら。」

 悔しさに憤りに奥歯を噛み締めるエリカの耳に届いたルシアの囁き。

「ユーノ君、私達はここにいるよ。約束、私信じているから。」

 ルシアはずっと祈り続けていた。

 どんな辱めてを受けようと、どれだけ蔑まれようと、ただ自分の想いを信じ続けていた。

(ルシア・・・。そうよね、諦めるのはまだ早いよね。)

 勇気を取り戻したエリカの一方、怒りなる表情を露わにするデルタなる者。

「まだ心折れぬというのか!!もうよい!キサマ達の願い、届かぬ事を身をもって知らしめてやる!!」

 声を荒げ、8本の腕を天に翳し唱え始める。

「血となれ 肉となれ 骨となれ 全ては我の糧となれ。」

 血となれ 肉となれ 骨なれ 全ては我の糧となれ

 血となれ 肉となれ 骨なれ 全ては我の糧となれ

 周囲に控えていたスケルトン達がその言葉を引き継ぎ、唱え続ける。

「あ・・・、頭に、響く!!」

 激しく頭を振るエリカ。

 スケルトン共の低い声が二人の脳に潜り込み思考を奪う。

(だ、駄目・・・、脳が。何も考えられなくなる。)

 もがき苦しむエリカ。

 この横でルシアも脂汗を浮かべ苦しんでいた。だが、それでも希望を捨てずひたすらユーノの名を呼び続ける。

「ユーノ、助けて。」

「ユーノ君、ユーノ君。」

 息を乱しながら愛しい人の名を呼び続ける二人に2本の腕がじわりじわりと近づく。

「これで我は最強となる。世界は全て我のモノに!!ルシアを取り込みあの者達を超えるのだ!」

(あの者達?)

「ルシアよ、そしてエリカよ。存分に味わせてもらうぞ。オマエ達の肉を、血を、骨を!そして我が身体の一部として、配下としてその力を示せ!!」

 2本の腕はそれぞれエリカとルシアの目の前へ。

 指先は触手のような細長く伸びて二人の身体に巻きつき、掌が口となり大きく広げ、そしてエリカとルシアの身体を喰らう。

「ギャアアアアアアア!!!!」

 大悲鳴を叫んだのはデルタなる者だった。

 突如エリカとルシアに触れていた腕が焼け溶けたのだ。

 痛みに泣き叫ぶ大音量にスケルトン共も口を閉じ、それにより呪文が途絶えた事で二人の脳も正常へと戻る。

「い、一体、何が起こったの?」

「エリカちゃん。どうしたのその額の痕?」

「え?それはこっちのセリフよルシア。」

 エリカとルシアの額に紅く浮かび上がる紋章。

 心当たりを探す二人。

 そして同時に思い出す。以前ユーノにキスしてもらった事を。

「はあ、はあ・・・。一体何が起こったと言うのだ。」

 ようやく痛みが収まり、二人の額に光浮かぶ紋章を観察。

「これは隷属の印?どういう事だ?言え!オマエ達は誰の奴隷だ?!!」

「奴隷なんて酷いな。これはただの印だよ。この俺から二人を奪おうとする者達に対して、彼女達は俺の物だ、という証さ。」

 その声はエリカとルシアの足元の影から聞こえた。

 この場にはいないはずの人物の、そしてエリカとルシアがずっと助けを求めていた人物。

 その人物の姿を眼にして、二人は涙を浮かべてその人物の名を口にした。

「「ユーノ(君)。」」

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