戦場での選択
「大変だ!!」
それは騎士団が砦を出発、作戦が開始してしばらく経った時だった。
後から来た物資隊の荷物を運んでいたユーノ達の耳に切羽詰まった大声が聞こえ、砦内に緊張感が走る。
「どうした!!」
「重傷者だ!防衛ラインが一部破られ、スケルトンがこっちに向かってきているぞ。」
大怪我を負った騎士が数人運び込まれる。
「おい、ポーションを持って来い!」
「駄目だ。こんな大怪我、ポーションで治せる訳ないだろう!!」
「どいて下さい!!」
群がる冒険者達を押しのけ、怪我人に駆け寄り回復魔法を施すルシア。
「しっかりしてください。今助けますから。」
傷口が瞬く間に塞がり一命を取り留める騎士。
「一体何があった?」
回復した騎士が経緯を話す。
「勇者だ。勇者の奴が単独行動をとった事で防衛ラインが崩れたんだ。それで統率が取れなくなって滅茶苦茶に。」
「マジかよ・・・。」
「おい守備を固めろ。砦の中に入れさせるな!」
人知無法の二人が周囲の冒険者達に指示を出す。
「ルシアちゃんはこのまま怪我人の治療を頼む。ユーノ坊主とエリカ嬢ちゃんは門の守りに入れ。」
「「了解です。」」
「ユーノ君、エリカちゃん、気を付けて。」
この場をルシアに任せて駆け出すユーノとエリカ。
「エリカ、いつも通りでいいから。俺がフォローに入る。」
ゲイ・ジャルグの剣を渡し、彼女の緊張をほぐす。
「ええ、背中は任すわよユーノ。」
気合十分の二人は戦場へと踏み出すのであった。
「やあああああ!」
オアシスの聖剣を大きく振るい複数のスケルトンを薙ぎ払うカリウス。
その威力は絶大で一撃で複数のスケルトンを葬る程であるが、周囲の味方にも被害を被っているのが現状。
カリウスは数多の達人と呼ばれる者達を師事。
腕は確かであるがそれは個人の力量の話であり、他人との連携に関しては素人。
周囲を気にせず剣を振り回す彼は味方にとって厄介な存在となっていた。
「勇者カリウス、後退を。前に出過ぎです。」
メルセデス将軍の指示を無視。
一人だけ前に出る事でそこが穴となり、それをカバーしようとすると他のラインが薄くなる悪循環。
(スケルトンを蹴散らしてくれるのはありがたいが、こちらの負担が大きすぎる。このままでは・・・・・・。)
「伝令!防衛ラインの一部を破られました。」
最悪の状況に陥り、思わず舌打ち。
「伝令!突破された事で騎士数名が負傷。第23小隊は後退しました。」
「伝令!前方から新たなスケルトンを確認!」
「伝令!さらに後方からスケルトン・キングの姿が。」
次々と悪い報せが入り頭痛を見舞われるメルセデス。
「将軍、ご安心を!この危機、勇者カリウスが振り払って見せましょう。」
元凶が胸を張って高らかに宣言。
この危機を引き起こしたのが自分のせいだと微塵も感じていない態度に内心苛立ちを見せる。
「ああ、それでは頼むとしよう。」
冷たく言葉を吐き捨てるメルセデス。
部下の命の為に勇者を見捨てることにしたのだ。
そんな彼の心情も知る由もなく自信満々で駆け出すカリウス。
それを見届けたメルセデスは部下達にラインを下げるよう指示を下すのであった。
「見つけたぞ。」
一人突貫するカリウスは服の原型を失った布の身につけるスケルトンの群れの奥に待ち構えていたスケルトン・キングと対峙する。
「我々の平和を脅かすスケルトン・キングよ。この勇者カリウスが打ち滅ぼして見せよう。」
カリウスが両手に持つオアシスの聖剣は塚部分に魔石が埋め込まれている重量感ある長剣。
その昔、帝国がとあるダンジョンを攻略した報酬として手に入れた物である。
両手で握られたオアシスの聖剣が次々とスケルトンを切り倒す。
四方八方に無数の骨が地に散らばう。
「さあ残るはスケルトン・キング、お前だけだ。」
「GUOOO~~。」
スケルトン・キングが咆哮、そして脅威の吸引で散らばる骨を回収してスケルトンを復活させる。
「なるほど。それならば。」
復活したスケルトンの軍隊に一切動じないカリウス。
剣を天にかざす。
「オアシスの聖剣よ、僕に力を!邪悪なる物に天使の雷を ホーリーサンダー!!」
詠唱を唱えると魔石が白く発光。
この魔石は通常のとは違い、特殊な物。
その力は絶大で一つは魔法威力の増幅させる力。
もう一つは相手の魔法を解析・記憶し習得する力。
つまりオアシスの聖剣が一度目撃した魔法は解析できれば使用することが可能なのだ。
今発動したホーリーサンダーはオアシスの聖剣が習得していた魔法。
カリウスはオアシスの聖剣の力で様々な魔法を使用することが出来るのだ。
剣先から天に打ち上がった雷は轟を鳴らしスケルトン共へと次々を落ち、スケルトン共を塵にして消滅させていく。
「さあ、それなら復活させる事はできないだろう。」
スケルトン・キングはカリウスの言葉を理解しているようで悔しそうに歯軋りを鳴らす。
この場にはスケルトン・キング一体となり、カリウスは果敢に攻める。
鋭利な爪の切り裂きを躱して懐に入り、あばら骨を数本切り落とす。
スケルトン・キングの骨は鉄よりも硬い。
しかしオアシスの聖剣は刀身にアンデッドが苦手としている光属性魔法を纏わせており、そのおかげで簡単にその骨を斬り裂く事に可能にしていた。
自分が圧倒的な優位てある事を確信したカリウス。
優雅、そして余裕の立ち振る舞いで骨で守られていた心臓部にある大きな魔石にオアシスの聖剣を突き刺す。
「これで終わりだ!オアシスの聖剣よ!」
カリウスの声に聖剣が共鳴。
刀身が光り輝き、スケルトン・キングを内部から破壊。
スケルトン・キングは絶叫しながら塵と化し絶命。
「どうだ!これが勇者カリウスの力だ!」
聖剣を天に突き上げ、一人勝鬨を上げるのであった。
「エリカ、右!」
「てや~!」
ユーノの指示に即座反応。
スケルトンの腕を斬り払い、胴体を一刀両断。
その背後で、ユーノは別のスケルトンに3連突き。頭蓋骨を粉砕する。
「エリカ、前に出過ぎないで。ここを守る意識を。」
「わかっている、わ!」
拳を繰り出すスケルトンを屈んで躱し、両足を寸断。
ジタバタ足掻くスケルトンにトドメを刺す。
砦近くまで進撃してきたスケルトンは生前、戦闘経験が乏しいモノ達ばかりの様で動きが雑で隙が多い。
数は多く統率は取れているが、落ち着いて対処すればそこまで苦戦する相手ではなかった。
スケルトンの大群が押し寄せてから約30分後、人知無法が最後の一体を倒した事でこの危機を乗り越える事ができた。
「何とかなったわね。」
安全が確保され、疲れでその場に座り込むエリカ。
彼女のとって大きな戦がこれが初めてであった故、疲労度は他の人より高かった。
「お疲れ、大丈夫?」
「ええ大丈夫よ。」
ユーノの手を掴み、立ち上がる。がよろめいてユーノにもたれてしまう所を偶然にも人知無法の二人に見られてしまった。
「二人ともお疲れ様。」
「おお、お熱いですな。」
「ち、違います。ただ足元がふらついただけで。」
「それは大変だ。彼氏にちゃんと支えて貰わないと。」
「何ならお姫様抱っこでもして貰いなよ。」
「それはいい考えですね。」
「ちょっとユーノ、何を言って―――きゃあ!」
エリカの了承を聞く前にお姫様抱っこを実行。
「おお、軽々と!やるねえ色男。」
「それじゃあ、戻りますか。」
頑丈な扉が開かれ、中へ。
「おかえりなさい―――ってエリカちゃん、どうしたの?」
ルシアはエリカが怪我をしたと勘違いしたようだ。
「大丈夫だよルシア。エリカはちょっとした疲労さ。」
ユーノの説明にほっと胸を撫で下ろす。
「ユーノ、もういいから降ろして。」
とエリカが要求。疲れより恥ずかしさが勝つだのだろう。
機嫌を損なわれると困るので名残惜しいがここで降ろす事にした。
「ルシア、そっちの方は?」
「怪我人はもう大丈夫。みんな無事だよ。」
ルシアの話だと大怪我を負ったのは数名ほど。
軽傷者は数多くいたが、そちらはポーションと回復薬で賄い、それらでは手が負えない患者はルシアが担当していたのだ。
「ルシアもお疲れ様。疲れただろう。」
ご褒美の頭撫で撫で。ルシアは嬉しそうに目を細めてすり寄ってきたので心地よい雰囲気を堪能することにした。
「疲れている所悪い。今大丈夫か?」
端で体を休んでいたら人知無法が尋ねてくる。
「今、在庫を確認したらポーションや回復薬の残りが乏しくてな。スマンがギルドに掛け合って追加を運搬してほしいのだ。」
「いいですけど、まだ必要なのですか?」
エリカが不思議がるのも無理もない。
先程、勇者カリウスがスケルトン・キングを討ち取った、と言う報告が入ってきたのだ。
「ああ、エリカ嬢ちゃん達は知らないかも入れないが、あれぐらいの高ランク魔物になると倒された後も瘴気が残ってな。魔物達の動きが活発になるのだ。」
「俺達冒険者に取っては稼ぎ時、て奴だ。だから騎士団がいなくなった後も俺達冒険者はここに留まるのさ。」
「分かりました。もう少し休んでから出発してもいいですか?」
「ああ構わないよ。急ぎじゃあないからな。しっかり休んでくれ。」
「疲れで途中魔物に襲われて倒れたら敵わないからな。」
人知無法のご厚意に甘え、充分な休息を取った後、砦を出発。
行きとは違い、三人しかいないので広い範囲の索敵を今まで影の中で待機していたガウルに任せて来た道を戻るユーノ達。
2時間程歩き続けていた時だった。突然影の中でガウルが唸り始まる。
「ユーノ様、こちらへ向かっている気配が一つ。」
ユーノが棍に手を伸ばす動作を見て、エリカ達にも緊張感が走る。
「ユーノ君どうしたの?」
「襲撃?」
「分からないが何かがこっちに向かってきてる。」
この発言にエリカも剣を抜き、ルシアも補助魔法の用意に入る。
ガウルが声で示す方向を身構えると茂みから、
「た、助けてくれ!!」
と半泣き状態のダートが飛び出してきたのだ。
「ダート?!なぜあなたがここに?」
「助けてくれ!こ、殺される!」
エリカの問いかけには一切耳を貸さず、一番前にいたユーノの足に縋り、助けを求め続けた。
「大魔王デルタに殺されてしまう!」
(何ですと!!)
影の中で驚きの声を上げるガウル。それは誰しも同じであった。
「おい、どういう事だ!何故その名が出てくる!!」
ダートの胸倉を掴み、睨みを利かせるユーノ。
彼は少々の困惑と静かな怒りに心を乱されていた。
ダートもユーノの圧が伝わってきたのだろう。自分の身に起こった出来事を話し始めた。




